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45話 レバドスの平原 (3)

この世界に来てから、グラベルに生まれた小さな習慣の一つが、食べる食べ物に宿(やど)るマナを量るということだった。


自然界で手に入る野生の果実、農夫が育てる作物、森で育つキノコ、生き物が食べられるほとんどのものには、多少なりともマナが宿っている。


たいていの場合、生のままで食べるのがマナが最も多く宿っている状態だった。


だが、意外なケースもあった。その一例が、プロイクトンでグラベルとイリスが偶然訪れたオールド・スタッグという酒場屋で起きたことだ。


後で知ったことだが、オールド・スタッグはプロイクトンの冒険者たちの間でも、食べ物の味が良いことで有名な場所だった。


グラベルとイリスが訪れたその日、酒場屋の中は意外と静かな雰囲気だった。


黙々と食べ物を口に運び、その味をじっくり味わいながら、静かに食事を楽しむ客がほとんどで、それ以外は互いに違う料理を注文して、その味を比べて褒め合う話し声が聞こえてくるだけだった。


グラベルもイリスと共に席に着き、酒場屋の主人に勧められた料理を注文した。


しばらくして、主人の手に持たれた二つの大きな皿に盛られた料理が二人の前に置かれ、二人は黙って食べ始めた。


鹿の肉と野菜を混ぜて炒めたシンプルな料理だったが、普段食べていた料理とは明らかに違うマナが食べ物から感じられた。味も素晴らしいものだったが、その味を味わう間もなく、体に染み込むマナの本質を掴もうとして、グラベルの全神経が料理に集中していた。


特別な材料を使っているのか? それとも特別な調理法で作ったのか? 疑問を解消するために、酒場屋の主人に、料理の味がこれほど素晴らしい秘訣は何ですかと、冗談めかして尋ねた。


そんなグラベルの質問に、主人が返した答えは意外なものだった。


「これまでの歳月を毎日欠かさず、お客さんがお腹いっぱいになる料理を作り続けてきたら、味が良くなったみたいだよ」と言い、自分は特別な材料を使っているわけでもなく、道具も長い時間をかけて自分の手に馴染んでいる点を除けば、街の鍛冶屋で注文すれば誰でも手に入る普通のものだと言った。


そうして答えを得られずにその日は宿に戻ったが、その後グラベルはしばらくの間、オールド・スタッグを頻繁に訪れて、この場所の料理にマナが大きく宿る理由を探ろうとした。


小さな店だったため、客の少ない時間帯には主人がホールに出てきて、隅の席に座り、大きなジョッキに注がれたビールを飲みながら、店内の客たちと雑談して時間を過ごす。


頻繁に訪れたおかげで、今では顔馴染みになったグラベルにも、酒場屋の主人が近づいてきて声をかけた。まだ自分の料理の味に特別な秘訣があると思うのかと、もし望むなら新しい注文が入ったときに厨房についてきて、直接料理の過程を見てもいいと言った。


ちょうど新しい客たちが店の扉を開けて入り、いろいろな料理を注文し、酒場屋の主人は持っていたジョッキの中のビールを一気に飲み干して席から立ち上がり、グラベルに自分についてこいというような手振りをして厨房に向かった。


グラベルがオールド・スタッグの主人について入った厨房には、火口から立ち上がる炎の熱気が厨房内を漂っていた。


万一、料理する主人に邪魔にならないよう、少し距離を置いて厨房の隅に立ち、グラベルは小さなマナの流れも見逃さないよう、忙しく目を動かしながら厨房内を観察していた。


そしてすぐに、これまでの疑問をそこで解決することができた。


料理を始める瞬間から、主人の体から小さなマナの気配が湧き上がり、材料を切るときやフライパンをガチャガチャ鳴らして材料を炒めるときも、ごく微量だったが、主人の体から少しずつ、少しずつマナが材料に移って宿った。


そして完成した料理を皿に盛りつける瞬間には、それまでとは違う大量のマナが皿に移って盛りつけられた。


その瞬間、グラベルは一つの事実を悟った。おそらくマナは、グラベルが考えていたゲームのMPのようなものや、魔法を使うための数値とは違い、それをはるかに超えたものだと、はっきりわかった。


客への思いやり。料理に込める自負心(じふしん)。さまざまな理由で明確に説明できない精神の領域から生まれる何かの影響で、マナが引き寄せられ、料理を盛りつける皿に宿ることを知った。


その後、グラベルは食べるものにも、飲むものにも、誰かが作り出す物にもマナが宿ることを知った。


「マナは意志の顕現(けんげん)であり、形あるすべてのものに宿る意味だ」という、オールド・スタッグで得た小さな悟りの後、マナが宿った食べ物を食べて体にマナを少しでも蓄積することが重要だと、常に思っていた。


そうして常に食べる食べ物に興味が増したため、ディアンプが差し出すリンゴの価値、その効果をグラベルはすぐに察知することができた。


「こんなに良いリンゴは初めて食べます。」


グラベルがディアンプに感謝の気持ちを込めて、リンゴを食べた感想を述べた。


「でしょう? 私が今まで貯めた全財産を注ぎ込んだ甲斐があったというものですよ!」


「ところで、どのくらいの値段なんですか? このエルフのリンゴは?」


ケインが半分かじったリンゴを手に持ちながら、ディアンプに尋ねた。


「ブッシェルバスケット一つあたり5金貨で買ったんですよ・・・。グランドマーケットではその倍の10金貨くらいは取ろうと思ってるんですけどね・・・」


「うえっ! げほっ、げっ!! どんなリンゴが・・・。いくらなんでも5金貨・・・いや、それよりブッシェルバスケット一つに何ストーンくらい入るんですか?」


「うーん・・・。だいたい20ストーン(20kg)くらいですね。」


「うわー・・・。それなら結構多いけど・・・それにしても高すぎですよ。」


「売れますよ。そのくらいの値段で。」


グラベルが会話に参加して、ディアンプに言った。


「10金貨で売ってくださるなら、今すぐこの場で私が買います。」


グラベルが小さな袋から金貨10個を取り出し、ディアンプが料理に使っているリンゴを置いた簡易テーブルに置いた。


その様子を眺めていたディアンプは、予想外の最初の客の登場に、ぼんやりとしていた動作を止めてグラベルを見つめていた。


そしてすぐに今の状況が頭の中で整理されたのか、自分の馬車に駆け寄って大きなブッシェルバスケットを持ってきて、グラベルの前に置いた。


「このリンゴの価値をわかってくださってありがとうございます! グラベルさんとおっしゃいましたよね? さっき言い忘れたけど、このリンゴが高い理由は味だけじゃないんですよ。収穫するのに2年かかるんです。木と育つ環境が悪ければ3年までかかることもあります。普通のリンゴみたいに毎年簡単に食べられるリンゴじゃないんです。」


ディアンプはバスケットからリンゴを慎重に取り、手に持って優しく撫でながら、微笑んだ。


「グランドマーケットに着いたらすぐに売り切れちゃうかもですよ。だから今買うのは本当に正解です。あ! それに私の最初の客さんだし、周りに他の客がいないから、金貨8個だけいただきます。それに5ストーン分余計に詰め込んでおきますよ!」


自分の商品の本当の価値をわかってくれたグラベルのおかげで興奮したディアンプが、休みなく話しながら、最初の客にエルフのリンゴの珍しさを伝え、テーブルの上の金貨8個を拾って胸ポケットにしまった。


金貨2個をグラベルに返しながら、すっかり上機嫌になったディアンプが、再び料理を始めた。


少しの時間が経った。


「さあ! 料理が全部完成しました! それに合うワインも用意しましたよ!」


ディアンプが料理の盛られた皿と、長い串に刺して焼いたリンゴを抜いて皿に移しながら、周りの人たちに言った。


そうして草原での豪華な食事が始まった。甘辛い味付けの肉料理、肉を食べた口の中の油をさっぱり洗い流してくれる渋いワインの味。甘く焼かれたリンゴの味。皆が心地よい草原の夜を過ごしていた。


その後、夜の虫を追い払うのに特効だと言って、ディアンプが馬車から取り出した乾いた葉っぱ一掴(ひとつか)みを焚き火に投げ入れると、日光でよく乾かした花びらの香りのような、穏やかな香りが二台の馬車が停まった野営地に広がった。


美味しい食べ物でお腹を満たし、野営地から広がって天幕の中まで入ってくる心地よい香りに酔って、その日の見張りを担当するリブとケインを除いた全員が深い眠りに落ちた。


グラベルが床に敷いた携帯用の寝具に入る前に、空に浮かぶ二つの月を眺め、再び自分が異世界にいることを実感した。最初にプロイクトンでの生活を始めた頃に感じた不安と焦りはかなり消えていた。否定的な感情がなくなった隙間には、新しい世界をもっと見たいという渇望と期待が満たされつつあった。





*****


数日後、ディアラが操る馬車とディアンプの馬車が道を走っていた。


話術に長けた語り手であるディアンプが、グランドマーケットで出会うトレア商隊の獣人たち、グランドマーケットで味わった口の中を恍惚(こうこつ)とさせる食べ物の話を語り、目に見えるのは広大な草の海に島のように浮かぶ木々と岩だけという景色を眺める者たちが退屈を感じないほど、道中ずっと数え切れないほどの話でその退屈と無聊(ぶりょう)を紛らわせてくれた。


しかし、どんなに口達者な語り手でも、聞く側が道の岩や草原の木のように語られる話に反応がなければ、長く話し続けることはできないだろう。


だからリブとケインが、休みなく話すディアンプを助けた。語られる話に感嘆したり、次の話を催促したり、時には自分たちの話を語ったりして、日が暮れる頃まで三人のおしゃべりは止まらず続いた。


時折強く吹く風が草原の草を激しく揺らし、三人のおしゃべりを静かに聞きながら進むディアラ、イリス、グラベルの耳元を回ってうなり声を上げて邪魔することもあるが、それも楽しみのひとつとして、馬車に吊るされたランプを点し、暗くなった道を数時間さらに進むと、ディアンプが口角を上げて微笑み、周りの仲間たちに言った。


「もう着いたみたいですね。ムールムックの鳴き声は独特なんですよ。今日は野営せずに無理して進んだ甲斐がありました。この丘を越えれば見えますよ。」


ディアンプが素早く馬車を駆って丘の上に上がり、手先で指したところには、明るく灯りを灯したグランドマーケットの姿が見えた。


緩やかな小さな丘を上り下りし、数え切れないほどの馬車と夜を照らす灯りが大市場の一部となり、遅い夜に市場を訪れて到着する客となる者たちと、仲間であり競争相手でもある商人たちのための灯台となってくれていた。


「うおお! あれがレバドスの平原のグランドマーケットか!」


「そうですよ! 30日かけて集まり、30日間滞在し、30日かけて散る・・・それがあのグランドマーケットですよ。」


グラベルはしばらくの間、黙って手綱(たづな)を握ったまま、ぼんやりと目の前に見えるさまざまな色の灯りを眺め、馬車でできた街の姿を眺めていた。


巨大な灯りへと向かう馬車たちの姿を馬上からぼんやりと眺めながら進む。さまざまな色の馬車に吊るされた灯りが草原上で輝いていた。


近づくにつれ、見えるさまざまな大きさの馬車たち。グランドマーケットから少し離れた草原上には、ディアンプが言っていた人間の数倍の大きさの長い毛で覆われた巨獣であるムールムックが、戦場の角笛のような音を出しながら鳴いていた。


馬車たちが隙間を埋め、空きスペースを埋めて通りが生まれ、路地が生まれ、グランドマーケットに近づいている瞬間にも、先に到着した馬車たちが場所を確保していた。


二台の馬車が市場の外縁(がいえん)に到着し、ディアンプの案内に従ってグランドマーケットの内側に入った。


遅い夜に到着する客を迎えるためのランプが長い竿(さお)の上に吊るされて周りを照らし、その下には馬車を停めて商売をする店が見えた。


いくつもの屋外食堂が並ぶ道を進むと、賑やかな声と道の左右から客に向かって叫ぶ店員たちの声が聞こえる。


通りあちこちでは、その日の商売が成功した商人たちの笑い声と、堅い木のジョッキをぶつける音、食べ物を運びながら客の注文を受ける元気な女給の声が聞こえてきた。

ご一読ありがとうございました。 今回はグラベルが料理を通じて、マナの新たな側面に気づく回でした。単なる数値ではない「意志」としてのマナ。

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