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41話 灰白色の壁の都市 (4)

トルド伯爵がその不愉快な客を相手にしている間、グラベルとイリスはトルド家の使用人たちの案内に従い、城塞内部の廊下を通り、大きな中心柱を螺旋状(らせんじょう)に巻いた階段を上って、2階の広い応接室に座っていた。


ディアラは数日間馬車を駆ってきた疲れが溜まっていると言い、応接室には寄らずにすぐに使用人の案内で部屋へ上がっていった。


グラベルとイリスは、青と黒の糸で織られた絨毯(じゅうたん)の上に置かれた窓際の椅子に座り、使用人たちが運んできたお茶とそれに添えられた干し果物を口にしながら、壁に掛けられた絵画や装飾品を眺めていた頃、もう一人の使用人がグラベルに近づき、トルド伯爵の指示で持ってきたと言って、茶色の革で覆われた分厚い本を一冊、テーブルに置いた。


本の表紙にはタイトルは記されていなかったが、その内容を示唆(しさ)するような絵が描かれていた。


人体を表現したような図解図で、その中には大小の点々が人体のあちこちに打たれていた。おそらく88個のマナ脈(まなみゃく)の位置を示したものだろうと思い、グラベルは口元をにやりとさせてページをめくり、本を読み始めた。


本に視線を固定し、時折手を伸ばしてお茶を口元に運んで飲みながら、内容を読み進めていった。


「スチール・パスの騎士であれ、ウェイ・オブ・マナを歩む魔法使いであれ、自然に存在するマナを体内に取り入れ、体に蓄積し、そのマナを呼吸と瞑想を通じてマナの脈を通したり蓄積したりして、マナの脈を鍛える……。」


本は一冊だけだったので、座っているテーブルの向かいにいるイリスにも聞こえるように、グラベルは重要な内容を要約して声に出して伝えた。


「戦闘よりは呼吸と瞑想を通じた鍛錬か……いや、鍛えられた肉体も重要だと言ってるから、戦闘も無視できないな。」


グラベルはさらにページをめくりながら、文章を読み進めていった。


数ページにわたり、マナ脈を鍛える前に、マナは強靭(きょうじん)な肉体ほどその運用と宿りが容易になり、精神と意志に影響を受けると説明されていた。


マナに宿る意志の重要性についての例を挙げた文も本に記されていた。


スチール・パスの騎士が今後は剣以外の武器は使わず、ただ剣だけを使うと自ら意志を固め決意するなら、その意志が体内のマナにも影響を与え、剣からマナを発散する技術であるソード・シングと、剣から発散されるマナの流れを制御して圧縮したマナで剣の周囲を包むシンギング・ソードを習得するのに有利になると書かれていた。


そして、シンギング・ソードという名称はスチール・パスを歩む者たちの間では最も一般的に使われる名称だが、数人たちは折れない爪と呼んだり、マナ・ソード、輝く剣など、さまざまな名前で呼ばれていることも、本を通じて知ることができた。


『歌う剣か……風情(ふぜい)のある名前だな。剣だけを使うと自分に誓う意志が影響を及ぼすなんて……。そういえば魔法にも似たようなものがあったな……。一つの属性だけにこだわって使い続けると、マナ自体がその属性を帯びて、マナの効率と威力が上がるってやつ……。それなら、使用によるマナの変化じゃなく、本に書かれたように意志だけで差を生み出せるのか? 自分じゃなく他人に対する殺意や破壊の意志も影響を与えるってことか……。』


本を通じて多くのことが思い浮かび、新しい考えが頭の中に浮かび上がり、整理すべき情報がたくさん増えた。


グラベルはページを前後にめくりながら、本に集中していた。そんなグラベルに、イリスは静かに温かいお茶の入ったティーポットを傾け、グラベルのカップを満たしてあげた。


静けさが満ちた応接室に、グラベルがページをめくる音が響く。


イリスは時折グラベルが話しかけてくる時を除き、お茶を飲んだり、テーブルの横の窓の外を眺めたりして時間を過ごしていた。


忙しなく目を動かし、本の内容を一文字も逃すまいと集中しているグラベルの様子に、お茶やそれに添える干し果物が不足していないかと尋ねに近づいてきたトルド家の使用人たちの足取りが慎重だった。


「図解図と本の内容を写し取っておくか。」


ページをめくっていたグラベルの手が止まり、腰に下げていた小さな袋から紙を数枚と小さなインク瓶、そして先端の尖ったペンを取り出した。


開かれていた本には、88個のマナ脈の位置を示すような小さな点々が描かれた図解図があった。本の表紙と同じ絵だったが、違う点は点々を繋ぐ線に小さな文字でマナ脈の名称が記されていることだった。


絵の後のページには、各マナ脈の名称と効果が続き、ページをめくるごとに腕、脚、体、頭と細分化され、他の絵とともに記されていた。


「イリス。今このマナ脈の位置が描かれた絵を写して見せてやるよ。これまで剣術を使ったり教えてくれたりする時に説明できなかったマナの移動と制御についての疑問が、ある程度解けるはずだ。」


目は本の絵に集中したまま、手はサラサラと忙しなくペンを動かしながら、グラベルがイリスに言った。


「私がお手伝いしましょうか?」


イリスが席から立ち上がり、グラベルが写しているページを覗き込みながら言った。


「いや、大丈夫。写しながら考えが整理されてるんだ。自分でやりたい。」


「それなら、私もグラベル様と同じものを写しますわ。筆記具をください。」


「ん? ああ……。ペンとインクは複数あるから。」


グラベルが紙の上にペンとインク瓶を置いた。


スッ。サラサラ。シュッ。ススッ


二人がペンを紙の上に動かして出す音が続いて響く。


この異世界に来てから、ぼんやりと感覚だけで感じていたマナ脈の存在が、本を通じてその存在を正確に知ることができた。本とその横に内容を写し取った紙に視線を移しながらも、二人は少量のマナを体内に流し、写しているマナ脈の位置を確認しながらペンを動かしていた。


「これまで疑問だったことがたくさん説明されてる気がする。どうだ、イリス? 俺よりお前の方が悟りが大きいんじゃないか?」


「はい。グラベル様のおっしゃる通り、これまで説明できなかったことが、マナ脈の位置を知るだけで今は説明できるようになると思いますわ。」


イリスが興奮したように目を大きく見開き、口元を少し上げてグラベルに言った。


「イリス。マーン・メスを使う時は、大脈である南の冠(みなみのかんむり)から(さかずき)(からす)へマナを循環させた後、剣へ送り出すんだよな?」


「はい。そうではありますが、威力を下げてその代わりに長時間維持する時は、杯座の脈の代わりに()座で代用することもありますわ。」


そうして二人は、興奮した子供のように剣術についての話を続けていった。


『そうだ、これを魔法に応用すれば……。魔法の詠唱速度、威力は以前と比較にならないほど上がる。』


確かにこの異世界の魔法使いたちもマナ脈の組み合わせと能力を使っていないのかと思ったが、本の後半部にはそうしない理由も記されていた。


魔法陣にマナを注入する際は、マナの暴走、分散、逆流などが起きてはならないため、最も安定した状態のマナを魔法陣に流さなければならない。そのため、マナ脈を通じた魔力の変換はマナを制御しながら魔法を詠唱するには不適合で、ウェイ・オブ・マナの修練者たちは体内マナの量を増やし、最も安定してマナをマナ脈を通じて発散する修練をするため、スチール・パスの修練法とはマナの扱い方が相違(そうい)すると書かれていた。


「脈の循環修練を実際にやってみるか。」


グラベルが椅子を後ろに押し、席から立ち上がった。そしてテーブルの横の空いた空間に立ち、ゆっくり目を閉じて大きく息を吸い、呼吸をした。


本には3個以上のマナ脈を繋いで組み合わせる時からマナの制御が難しくなると記されていた。


『3個の制御は思ったより簡単かな……。』


口を軽く閉じ、鼻からゆっくり息を吐きながら3個の脈を繋いでマナを循環させると、グラベルの予想より速くマナの回転が体内で起きた。


『制御可能な脈の接続と循環を繰り返して修練するんだっけ……。』


5個、7個、15個、25個。グラベルは徐々に繋がるマナ脈の数を増やしながらマナを循環させる。


口をゆっくり開いて息を吸い込む。周囲の空気が波打ち、色のない火が燃えるような荒々しい陽炎(かげろう)が揺らめき、グラベルの周囲の空間を歪める。


再び息を吐くと、グラベルの体から噴き出していた気配が一瞬止まり、一つの点に向かって吸い込まれるようにグラベルに向かって集まり、消える。


『そういえばマナ脈の名前が馴染みがある理由があったな。星座の名前だったんだ。いくつかは全く違う馴染みのない名前だけど……。』


グラベルが循環修練を止め、座っているイリスを見た。


イリスも椅子に座って目を閉じ、ゆっくり呼吸しながら自分と同じマナの循環修練をしているようだった。


『今声をかけたら邪魔になるかな……少し見守るか……。』


イリスもグラベルがしたように、循環に繋がるマナ脈の数を徐々に増やしているようだった。


イリスの体周りにも陽炎のような気配が揺らめき始める。そして少し後にはイリスが眉間(みけん)をしかめ、マナの制御に苦しむように額に汗が浮かんでいた。


『イリスも脈の循環に慣れたのか? あ……あ?』


グラベルが内心で驚いて見たのは、イリスを包んでいた気配が燃え盛る炎のように猛烈な勢いで伸び広がる様子だった。


テーブルの横にある椅子が動き、壁に掛けられた絵画がガタガタと音を立てて壁から剥がれ落ちそうなほど揺れる。


「イリス! 大丈夫か?」


「はい?」


グラベルの声にイリスが反応して答え、ついさっきまで部屋を満たしていたイリスのマナが、イリスの体中心の一つの点に向かって吸い込まれるように集まり、消えた。


「ん? もしかして循環修練に問題が起きたかと思って……。それより、どうだ? マナ脈の循環修練は?」


「88個のマナ脈の位置を確認して循環させるのは簡単でしたわ。でも、いくつかのマナ脈の組み合わせは実戦で使えるようにするには、体を動かしながら修練してみないといけないと思います。」


「ああ、魔法とは確かに違うからな……。その代わり、場所に関係なくマナの循環修練はどこでも可能だから。(実戦での使用は、今回ヴェス・ディナスまで石像を護衛した後、その近くの冒険者ギルドで依頼を解決しながらやればいいか……。)」


ディアラの依頼でなければ、このまましばらく冒険者ギルドのある街に滞在してマナ脈の修練と応用法を研究したかったが、余り遅れなければ大丈夫だとグラベルは思った。


「それじゃ、食事の時間まで剣術に使われる組み合わせと応用法を教えてくれ。実戦で使う前に知ってるだけでも勉強になるから。」


グラベルが再び椅子に戻って座り、イリスに言った。


「それでは、まず紙に書いてから説明します。」

お読みいただきありがとうございます。 今回は、この世界観におけるマナ運用の核心である「マナ脈」について触れてみました。

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