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4話-最初の依頼

建物から出てきた二人は、冒険者(ぼうけんしゃ)ギルドの裏手(うらて)にある酒場(さかば)の片隅に腰を下ろした。簡単に空腹を満たすために立ち寄った場所だったが、街の地理に慣れていないせいで、冒険者ギルドから遠くない店を探すのにもかなりの時間がかかった。


酒場の内部は、一階(いっかい)が広く開けた空間にいくつもの木製(もくせい)のテーブルが置かれ、訪れた客たちが座っていた。その人々の間には笑い声や話し声が響き合い、賑やかだった。


2階もあり、分厚い木の階段(かいだん)を上がればたどり着けた。やや暗い照明(しょうめい)とゆったりとした席の配置のおかげで、より静かで親密な会話を求める者たちが好む空間のように見えた。


イリスが少しでも気楽に(かぶと)を脱いで食事ができるように、グラベルは酒場の2階でも最も隅に位置する席を選んで座った。席に着いた彼は、スープとソーセージ、パン、そしてハーブを煮出したお茶を注文した。


やがて料理が運ばれてくると、二人は静かに食事を始めた。香ばしい匂いと豊かな食感が口の中に広がるたび、グラベルはこの場所がもはやゲームの中の世界ではないことを改めて実感した。


パンは思ったより少し硬かったが、ちぎってスープに浸せば味もほどよく、パンも柔らかくなって食べやすくなった。ソーセージには独特のスパイスの香りが肉の生臭さを隠し、時折口の中で噛まれる粗いスパイスの粒がその香りと舌を刺激する強い味わいを引き出し、肉の味をさらに楽しませてくれた。


満足のいく食事を終えた後、グラベルは注文を受けていた女給に小さな革袋を受け取りながら銀貨を数枚渡し、酒場を出た。


「うん…。ギルドでもらった略図(りゃくず)を見ると、まずは街の西門を出る必要がありそうだな。」


街の位置と行くべき場所が線で結ばれた紙切れを手にもち、グラベルが先に歩き始めた。


街の道をたどって西門を出た後も、数時間歩き続け、周囲には人影がまばらになり、青々とした木々や緑の葉をつけた作物を見ながら歩き続けた。グラベルは近くの伐採場(ばっさいじょう)の位置を尋

ねるため、干し草(ほしぐさ)を満載した馬車(ばしゃ)を運転している御者(ぎょしゃ)に手元の略図を見せながら道を聞いた。


「伐採場? あぁ、ラントーさんの伐採場のことだろうね。あそこに見える森まで十道くらい行けば着くよ。」


ダイアウルフの退治に来た冒険者だと気づいたのか、御者の返事は親切だった。


「ありがとう。(十道? 一道、二道って数える距離の単位か? どのくらいの距離かわからないけど、歩いてみればわかるか。)」


「ははは、一匹残らず全部退治してくださいね、冒険者さんたち。」


感謝の挨拶を伝え、御者が指先で示した方向へ道を外れて歩いた。森に入って少し歩くと、あちこちに切り倒された木の切り株(きりかぶ)が見え始めた。


切り株をたどってさらに奥へ進むと、開けた空間とともに伐採場の姿が現れた。木材の保管と加工のための建物があり、その前には伐採人(ばっさいにん)たちの休息用に長いテーブルと、木の切り株を粗く削って作った椅子が置かれていた。いくつかの椅子は、ダイアウルフの襲撃を避けて逃げる際に倒したのか、地面に無造作に転がっていた。ところどころに見える血痕がテーブルや枝を切り落とす前の加工前(かこうまえ)の木材に付着していた。


「ここっぽいな?」


「はい。先ほど見せていただいた略図の位置と同じです。」


「じゃあ、まずは動物探知魔法でダイアウルフを見つけてみるよ。」


『インヴェニーレ・アニマール(Invenire Animal)』


目を閉じて開いたグラベルの目の周りに、かすかな白い光が瞳を一瞬包んだ後、消えた。


「ダイアウルフは21匹、西の深い森の方にいるよ。」


「私が行ってきます、グラベル様」


「いや、それより深い森の中に行くのは大変そうだってこと。それにそろそろ日も沈みそうだから、火を起こしてくれ。その間に俺はやることがあるから。」


グラベルに頼まれたイリスは、忙しく周囲を歩き回り、薪になりそうな木を集めた。


伐採場の一角に転がっていた切り株の椅子を二つ拾い、集めた薪のそばに置いて火を起こした。


太陽が空から沈み消えていく頃、それに合わせて過剰に積み上げられた焚き火が暗くなった周囲を照らした。


「周りに鹿の血を少し撒いておいた。これで狼たちが寄ってくるだろう…。」


森の闇の中から焚き火に向かってグラベルが近づきながら言った。


「あ。酒場でもらったのは鹿の血だったんですね?」


「そうだよ。鹿肉(しかにく)とソーセージを扱う酒場なら鹿の血もあるだろうと思って頼んだんだ。」


イリスが用意した切り株に腰を下ろしながらグラベルが答えた。答えながらも探知魔法が発動中だったのか、グラベルのまぶたには白い光が時折輝いていた。


「血の匂いに誘われたのか? ダイアウルフたちの動きはあるみたいだ…。時間がかかりそうだな。でもイリス、狼たちと戦うときどう動くか知っておきたいんだ。」


ゲームではないため、戦闘になったときイリスがどう動くのか、どんな判断で行動するのかわからないため、知っておく必要があると考えたグラベルがイリスに尋ねた。


「グラベル様を守り、グラベル様の安全を最優先します。ただ、狼相手にその必要があるかどうかは…。」


「そうだな、俺たちがいたヴール大陸でのダイアウルフなら俺が守られる必要はないよ。俺とお前がここで目覚めた後、最初に確かめようと思ったのは、俺たちの力がここでも通じるかどうかだった。ヴールじゃ俺たち結構強かっただろ? だからまずはこのダイアウルフでそれを知りたいんだ。」


イリスにはグランド・ワールド・オンラインというゲーム名を言ってもわからないだろうと思い、ゲーム内の中央大陸の名前であるヴールを使って説明した。そして話を続けた。


「問題はこの世界のダイアウルフと俺たちがいたヴール大陸のダイアウルフが違うかもしれないってこと。俺の魔法やお前の剣が通じない可能性もあるから…。」


グラベルの言葉に何か気づいたようなイリスが頭を下げ、グラベルに言った。


「申し訳ありません。私の慢心がグラベル様を…。危険にさらしてしまいました。」


「はは。いやいや、まだ危険なわけじゃないから。」


「いいえ。お許しください、私の過ちを。」


座っていたイリスが片膝をつき、頭を下げたままグラベルに許しを求めた。


「これは困ったな。はは…。俺の話も確実じゃないんだから…。だからさ、これから狼たちと対峙するとき、もし俺とお前の力が通じなかったら魔法でここを脱出するよ。その前に俺の魔法が通じるか確かめたいから、そこは考えてくれ。」


「前に出て攻撃するなってことですね?」


「うん。そうだね。どうせなら低いレベルの魔法から試してみて、それでもダメなら高いレベルの魔法を使ってみるよ。他も全部ダメなら…。逃げるしかないな?」


「はい。おっしゃる通りにしますが…。それでもグラベル様に近づいてくるなら、斬ります。」


「いや、それでも試すなら防御系の魔法も…。」


「ダメです!そんな危険は冒せません。」


妥協の余地はなさそうだった。


「え…。まあ、そういうことなら。」


イリスの断固たる答えと兜の中から感じられる確固たる決意の眼光が、グラベルに唯一の答えを引き出した。


二人の会話が続き、焚き火の中で薪が燃える音と虫の鳴き声を聞きながら退屈を感じ始めた頃、グラベルが立ち上がった。


「やっと来たか。」



周囲の森の闇の中から、焚き火の光に反射した数十の瞳が見えた。唸り声を上げて威嚇する狼たちの声が森の中に響き渡った。


「じゃあ、まずはこれが通じるか見てみるか?」


グラベルの手から赤い魔法陣が広がった。同時に、魔法陣を構成する紋様がより鮮明な光で満たされた。


グラベルが前に向けて広げた手のひらを握ると、広がっていた魔法陣が指先の一点に集まった。そして赤い光が集まった人差し指で、闇の中から姿を現し近づいてくるダイアウルフを指した。


「(呪文名を叫ぶのもマナの意志が込められて威力が上がるから…。叫んだほうがいいな。) ディーラ(Dira)・フランマ(Flamma)!」


グラベルの叫びとともに、鮮やかな血紅色の炎がダイアウルフに向かって揺らめきながら伸びていった。そして何かを掴もうとする形、あるいは何かを噛み砕こうとする獣の口の形に変わった炎が、ダイアウルフを包み込んで焼き尽くした。


「レベル5のホリッド・フレイム(Horrid Flame)が通じるんだな!」


低級モンスターであるダイアウルフでは完全に安心はできないが、それでも安堵感が生まれた。少なくともこの世界で自分の力がこれだけ通じるなら、最低限の力でもまた強くなればいいと思ったからだ。少しの喜びを感じていると、グラベルの頭に忘れていた事実が浮かんだ。


『そういえばホリッド・フレイムって範囲攻撃だったな…。』


さっきダイアウルフを焼いた炎は消えず、さらに大きくなり、周囲のダイアウルフが避ける間もなく揺らめく炎の腕を伸ばして一匹ずつ引き寄せ、炎で包んで灰にした。骨までも黒く燃えて灰になったダイアウルフの姿を見て、また忘れていた事実を思い出した。


『あ…。退治の証として牙を取るの忘れた…。当然ドロップすると思ってたなんて…。馬鹿だな…。』


グラベルが自分のミスを噛みしめながら眉間をしかめた。


「イリス、前の残りは俺が片付けるよ。後ろの奴らは頼む。」


「はい。」


短い返事とともに、イリスが後ろから迫るダイアウルフたちに向かって走り出した。


ホリッド・フレイムの炎が収まると、怯んで後退していたダイアウルフたちがグラベルに向かって頭を下げながら一歩ずつ近づいてきた。


「仲間が目の前で灰になるのを見ても突っ込んでくるのか?」


グラベルが狼の勇気に感心していると、左側にいたダイアウルフ一匹がグラベルに向かって飛びかかってきた。


「レベル1のファイア・ボルトなら…。どうかな?」


グラベルの指先から放たれた炎の矢が飛びかかってきたダイアウルフに命中した。肩に刺さった炎の矢が与える痛みに、ダイアウルフがキャインと鳴きながら地面を転がった。地面で何度も転がりながら体に刺さった炎の矢をどうにかしようとしたが、刺さったファイア・ボルトの炎は簡単には消えなかった。残りのダイアウルフたちが苦痛に満ちた鳴き声を聞いて躊躇しているとき、グラベルの声が響いた。


「サギータ(Sagita)・グラキエス(Glacies)!」


肩に刺さった炎の矢が消えると、再び立ち上がろうとしたダイアウルフとその周囲の群れの頭上に、青い光の魔法陣が明るく浮かんだ。その瞬間、眩しいほど白く鋭く研がれた氷の刃が魔法陣から降り注いだ。


冷たい刃はダイアウルフたちの首や胴体を正確に貫き、そのうち数匹は頭を貫かれて地面に倒れた。


白かった氷の刃は噴き出した血と刃を伝って流れる血で赤く染まった。


「ふむ。実戦でのキャスト速度、効率、威力、どれも自由に扱える。もっと色んなモンスターで試してみたいけど…。これなら満足だな。」


グラベルが自分が放った魔法の結果に喜びながら自分に語りかけた。


「後は俺のHP(耐久力(たいきゅうりょく))の実験か?」


グラベルの周囲で燃えていた焚き火の炎が揺れ、土埃が舞い、白いオーラがグラベルの体から光を放ち周囲を照らした。


「防御系の魔法がどれくらい通じるか試してみないとな!」


グラベルの前には灰になったダイアウルフと、まだ冷気を放つ氷の刃に貫かれて倒れたダイアウルフたちがいた。そして残った4匹がグラベルと距離を保ちながら歯をむき出し、唸り声を上げていた。


前の4匹のダイアウルフに向かって、グラベルが両腕を広げながらゆっくり歩み寄った。


「ダメです、グラベル様!!」


グラベルの後ろからイリスの声が一瞬聞こえたかと思うと、鋭く耳を刺す風の音がした。


いつの間にかイリスは残った4匹のダイアウルフとグラベルの間に立っていた。そして体を翻し、グラベルが対峙していたダイアウルフたちを背にしてグラベルに近づいてきた。


「防御魔法の実験を自分でやるのはダメです。いっそ私に魔法をかけて、私がやれるようにしてください。」


歩いてくるイリスの背後には、首を斬られて地面に倒れたダイアウルフ4匹がいた。


「いや、魔法もそうだし、自分でやってみないとわからないこともあるから…。それに今さら何をしろと言っても、残りのダイアウルフがいないし。」


「え?」


グラベルの言葉に驚いたイリスが周囲を見回し、頭を下げた。


「す…すみませんでした、グラベル様。」


うつむいて小さくイリスがグラベルに言った。


「ははは!大丈夫、大丈夫。これからも機会はいっぱいあるから。とりあえず灰になってない奴らの牙を回収しよう。それとイリスが仕留めた奴らは皮も綺麗に剥げるよ。」


グラベルがしょげてうつむくイリスの肩を叩いて励ました。探知魔法でもう近くにダイアウルフがいないことを確認した後、皮と肉を得るために小さなナイフを取り出し、狼を解体(かいたい)しようとしたときだった。


『ん? グランド・ワールドで覚えたスキルの影響か? 解体と皮剥ぎ(かわはぎ)のレベルも結構上げてたし…。』


狼の皮を剥ぐ作業があまりにも簡単すぎて違和感が生じた。頭の中で皮の筋に沿ってナイフが進むべき方向が先に見えるように、滑らかにダイアウルフの皮が剥がれた。


イリスもまた、グランド・ワールドでグラベルと多くの時間をモンスター狩りに費やしただけあって、皮剥ぎの技術には熟練していたようだ。


使える皮と肉を手に入れ、帰る準備を終えた後、夜明けになってようやく街に戻れた。そうして二人がこの世界での最初の依頼を終えた。

今回の話も楽しんでいただけましたか? 次の話でお会いしましょう!

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