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33話 順鹿狩り(2)

「いくらで売れるかな?」


「え?」


「あの毛皮のことよ。」


リブがケインの後ろにある太い木の枝に長く広げて掛けられた黒トナカイの毛皮を指差しながら言った。


「そうだな……ノードポードの商人ギルドなら、何の加工もしてない毛皮で300金貨くらいもらえるんじゃないか? それも、毛皮の内側の脂をきれいに掻き出さないと、難癖(なんくせ)つけられて値下がりするけどな。」


ケインがリブの指先の方に体を向け、光沢のある黒い毛の毛皮を見た後、焚き火に乾いた木の枝をいくつか放り込みながらリブに答えた。


「うわー……。じゃあ一人100金貨か? ひどいよ……イクスターンに持ってくだけでも400金貨、いや500金貨もくれるって聞いたのに。」


「それも完璧に近い(なめ)しができた時の話だろ。今の俺たちの状況じゃ、宿に戻って塩水に漬けといて広げて乾かしてから売るなら……。ギルドじゃなくても取り扱う店が多い街ならもっともらえるかもな。」


ケインが火でよく焼けたトナカイ肉を一口頰張りながら言った。


「私の分は結構です。」


「え?」


「はい?」


グラベルの言葉を聞いた二人の目が大きく見開かれたまま、首を回してグラベルを見つめた。


「私はお二人の狩りに見学に来ただけですから、一人前の分け前をもらうわけにはいかないと思います。」


「いやいや。最低100金貨ですよ。冒険者のグラベル様にとっても大金でしょう?」


「はは。ええ、100金貨なら大金ですね。でも、今日私が一人前の役割を果たしたとは言えないんですよ。」


少し前にグロングから手に入れた宝石のうち、一番小さいのを街の商人ギルドで鑑定(かんてい)してもらったら、その値段が100金貨だった。だから普段なら初心者の猟師として受け取れる程度の分け前は要求しただろうけど、分厚い懐から出る余裕が、リブとケインに今のような提案をさせることにした。


「えー、でも全く分け前をもらわないなんてダメですよ。」


ケインが頭を掻きむしりながら悩んでいるようだった。その後の結論は意外なほどすぐに下された。ケインが再び口を開いてグラベルに言った。


「うん……じゃあこうしましょう。グラベル様は一人前の分け前はもらえないっておっしゃるし、私とリブは一緒に狩りした仲間に一文無しで帰らせるわけにはいかないので、見習い猟師としての分け前をもらうってのはどうですか?」


「………うん、全くもらわないのはお二人が困るんですよね……。ええ、じゃあありがたくいただきます。」


最初から二人より少なくもらうって言っておけばよかった、とグラベルが一瞬思った。


「じゃあ分け方は決まった! あとはあれをうまく売るだけだな。レイヴンベリーがあればいいんだけど……」


「防腐処理までするのか? 手に入ったとしても十日は漬けとかなきゃいけないだろ。」


「鞣しに使う果実ですか?」


「ええ。果実を絞った汁を水に溶かしてそこに漬けとくと、革を柔らかくして毛に艶を出してくれるんです。大抵の鞣しに使われる果実ですよ。革を腐らせない効果も抜群で。」


「でも明日にはノードポードを発つんじゃないんですか?」


グラベルが二人に尋ねた。


「そうだよ。今すぐレイヴンベリーを手に入れたとしても、俺たちは明日にはここを発つんだ。」


「方法はあるよ! 馬車に石像を積んでるけど、空きスペースがあったんだ……。だからディアラ様が許可してくれれば……」


負担が掛かりそうな二人の視線がグラベルに向けられた。言葉なく続く二人の視線が、多くの言葉に代わっていた。


「……え……じゃあ、私がディアラさんにお願いしてみます。」


「それだけでも!」


「うわー! そうしてくれるんですか!」


リブとケインの口元には笑みが浮かび、輝く瞳がグラベルを見て感謝の意を表した。


「じゃあ戻ったらやることは決まったし、今度はあれを全部運ぶために、しっかり食べておかないとな。」


リブが焚き火のそばで片膝を立てて座った姿勢のまま、口の中の肉を咀嚼(そしゃく)しながら、周囲に置かれた肉の入った袋や、(いぶ)すために焚き火の近くに吊るした肉たちを見ていた。


「帰り道にレイヴンベリーがあるか、周りを探しながら行こう。探してもなければ商人ギルドで金出して買うしかないけど……。それにしてもあの袋たち、量が結構あるな。一度に全部担いで行けるかな?」


「袋を運ぶことなら、私がお手伝いできそうです。」


「おお! 俺たち二人に力が増す魔法でもかけてくれるんですか?」


「そんな魔法があるの?」


リブがケインを見て、少し驚いた表情で言った。


「そういう方法もあるでしょうけど、お二人は帰り道でレイヴンベリーを探さないといけないので、私の代わりに荷物を運んでくれる魔獣(まじゅう)を召喚します。」


近くに置いてあった肉を剥いだ黒トナカイの骨を使って死霊魔法(しりょうまほう)で蘇らせて荷物を運ばせようかとも思ったけど、いろいろ問題になりそうなので、他の魔法を選んで唱えたグラベルだった。


『ジェラクシスの魔獣を召喚してみよう。どんな姿なんだろう……』


焚き火から少し離れた空き地にグラベルが魔法陣を広げ、一匹の魔獣を魔法陣から召喚した。魔法陣からゆっくり姿を現すのは、毛のない象牙色の彫像のような質感の肌で、首と頭の区別なく大きな頭を持ち、手足は短く胴体も短いが太かった。目と口は頭の大きさに比べて普通の比率を超えた大きなサイズで、鼻先は丸っこいが、先端は尖った歯で、瞳のない生きて動く怪物の石像だった。


ジェラクシスの魔獣召喚はグランド・ワールド・オンラインでも、プレイヤーの収納限界のために、高レベルの魔法使いならその便利さから誰もが欲しがる魔法だった。召喚後に定期的にマナを注入しなければならない欠点もあったけど、その不便さを差し引いても価値があるというのが、当時のグランド・ワールド・オンラインプレイヤーたちの考えだった。


「うおお。これが……魔法で召喚した……」


召喚された魔獣の体から淡い翡翠(ひすい)色の輝きが周囲に向かって光を放っていた。そしてグラベルが魔獣に近づき、丸っこく突き出た鼻の上に手を置き、手のひらを通じてマナを魔獣に送り始めた。


グラベルの指先から流れ出たマナは魔獣の蒼白い肌の下にゆっくり染み込み、手が触れた部分を中心に徐々に広がっていった。


グラベルの手から流れ出るマナの気配は、横で魔獣とグラベルを見守っていたリブとケインの目にも見えた。光の気配が小さな風に揺れる焚き火の炎のように揺らめきながら、魔獣の体内を満たし始めた。


魔獣の体内深くでぼんやりと渦巻いていた緑色の気配が、グラベルの青いマナと混ざり始め、その接触部分はまるで絵の具がにじむように徐々に青緑色に染まっていった。最初は手のひらサイズだけだった光の変化が、ゆっくり首筋を伝って両肩へ、背中と胸へ流れ落ちながら広がっていった。


ぼんやりしていた翡翠色の輝きは次第に鮮明な輪郭を現し、魔獣の全身を包み始めた。


『ジェラクシスの魔獣……ジェラクシスの魔獣……魔獣……。きっとグランド・ワールド・オンラインのある遺跡でロアを読んだはずなのに……。思い出せないな。』


グラベルが首を傾げながら、自分が唱えた魔法生物に関する知識を思い浮かべようとしていた。


「この子の背中に荷物を乗せればいいんです。」


二つの袋の端を縄で結び合わせて魔獣の背中に乗せ、大きな袋をいくつかそうやって全部乗せ終わってようやく、三人は再び座って休憩を取ることができた。


「これで明日にはノードポードを発って、リンフォードを通って……さらに進めばバラ・グラスまでは5日で着くかな……」


リブが木に体を預けたまま、焚き火の揺らめく炎を眺めながら言った。


「馬車が遅いから、それよりかかるだろ?」


「そうだな……。それだけ今日はこんなにのんびり肉を焼いて食べるのも最後だってことか?」


「じゃあ帰り道で食べる分を減らして、もっとジャーキー作っちゃうか?」


「今あるジャーキーも今日全部食っちまおうぜって言う奴らだろ。防壁工事でいつも腹減ってる奴らだよ。」


「うはは。そうだな。そんな奴らだよ。じゃあ、俺たちの腹はとりあえず満杯だから、待ってる奴らにトナカイ肉を味わわせてやろうぜ!」


リブとケインが燻していた肉を集めて袋に入れ、焚き火の火を土で覆って消し、場所を片付け始めた。


「ところで、イリス様も鹿肉はお好きですか?」


リブが燻製した小さな肉片を袋に詰め込みながらグラベルに尋ねた。


「直接聞いたことはないけど、前にプロイクトンで食事注文する時、いつも鹿肉料理を選んでたから、きっと好きだったと思います。」


「おお! そうだよな! 嫌いなものを注文しないよな。」


リブとケインがグラベルに近づいてきた。


「じゃあ、私が作ったリブ特製ジャーキーをイリス様に伝えてください!」


「このケインが作ったジャーキーをイリス様に味わっていただく機会をください!」


グラベルの手に二人が作ったジャーキーの入った小さな袋が握らされた。そして峡谷を抜けて山の下へジェラクシスの魔獣と共に下り、大きな前足の熊の酒場に到着するまで、二人の情熱的なジャーキー作りの香辛料の配合と比率についての話を聞かされ続けた。そうして三人のノードポードでの初狩りは終わった。






番外編:ジェラクシスと1001匹の魔獣


ブール大陸の偉大な魔法使いであるジェラクシスは、ある王国の首都だった都市を通りかかることになった。


都市に入る前、門の近くで自分を馬商人だと紹介する若い男と出会った。男は自分の不当な事情を聞いてほしいと言い、話し始めた。


馬商人はいつものように馬市場に行くために道を歩き、市場が開かれる都市に向かっていたが、その都市へ向かう途中で一晩泊まった小さな村で、目で見ても信じられないほど美しい名馬を見たと言った。少なくとも五頭の馬か二頭の良い馬を買うために持っていった金を全部一頭の馬の値で支払い、その名馬と共に都市に戻ったと言った。


都市に戻った商人はその都市で王国を統治する国王の行列を見ることになり、馬の手綱を繋いだ革紐を手にしっかり握ったまま伏せていたが、馬商人の名馬を見た国王はその場で金貨が満載の箱を馬丁に名馬の値として支払わせ、馬を連れていったと言った。


一晩で数十倍以上の金を儲けた喜びも束の間、次の日馬商人は王国の兵士たちに捕らえられ、膝をついたまま再び王に会うことになった。


王が言った。『昨日買った馬がどこかで見たような気がして、馬の(たてがみ)をめくってみたら私の烙印(らくいん)が押してあった。』


王の嘘だった。


昨日は人目が多いところで惜しげもなく値を払うふりをしたが、王国に戻ったら商人に出した金貨が惜しく感じ、馬商人に濡れ衣を着せて商人の全財産を没収し、都市から追い出したとジェラクシスに自分の不当な事情を語った。


馬商人の話を聞いたジェラクシスはすぐに王宮に向かい、王に謁見(えっけん)した。自分を遠いところから珍しい物を売りに来た商人だと紹介した彼は、一つ特別な宝物を王に売りたいと言った。


その宝物は『プラギヤの箱』と呼ばれる、手のひらサイズの古い木の箱だった。外見はボロボロでみすぼらしかったが、その中には世の理では説明できない神秘的な力が宿っていた。箱の中に普通の砂を一握り入れるだけで、一晩経った後その砂は輝く金粉に変わっていた。


ジェラクシスは王の前に慎重に箱を置いた。土色に褪せ、ひびの入った箱は外見はみすぼらしかったが、手に取った瞬間不思議に温かい気配が感じられた。彼は用意していた小さな瓶から砂を一握り取り出し、箱の中にゆっくり注いだ。


「この箱は夜が明けると、この砂を黄金に変えます。説明は難しいですが……明日直接ご覧になれば信じていただけるでしょう。」


王が疑わしげな視線を送ると、ジェラクシスは箱の蓋を慎重に閉めた。


「今はただの砂ですが……明日の朝、再び開けてみてください。」


王は半信半疑で箱を眺めた。ただの普通の砂に見えるが、その中で何かが起きているというわからない予感が心に染み込んだ。


そして次の日の朝、王は箱の中に満杯の眩しい金粉を確認した後、ジェラクシスに感嘆を禁じ得ず言った。


「この箱の値として、欲しいものは何でもやる。」


どうせ何を出そうと構わない。後で兵士を送るか、暗殺者を送るか、場合によっては軍を動員して取り返せばそれでいいはずだった。


ジェラクシスは宝物の対価として、自分が一日王室の宝物庫から持ち出せる宝物をくれと王に要求した。王はこれに快く、持ち出せるだけ持ち出せと言って許可した後、ジェラクシスを宝物庫に案内し、プラギヤの箱に砂を入れ、王の寝室に行った後、いつになく甘い夢を見て眠りについた。


次の日。王が朝に目を開いて見たのは、都市の外に向かって列をなして進む動物の形をした動く石像たちだった。獅子、ラクダ、象、キリン、カバ、野牛、鹿のような動物の姿を似せた魔獣たちが、宝物満載の箱や袋を背負ったまま、都市の外に向かって果てしなく多くの魔獣が列をなして歩いていた。


その姿に驚愕した王は軍隊を送ってこれを阻もうとしたが、偉大な大魔法使いの相手にはならなかった。その日自分の宝物庫(ほうもつこ)の全ての宝物を失った王はプラギヤの箱を持って隣国の王に助けを求めたが、箱と首の両方を奪われ、二度と戻ってこなかった。


番外編:ジェラクシスと1001匹の魔獣 -終わり-

プラギヤの箱が欲しい

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