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31話 グロング族(2)

「じゃあ……。これで少し静かに話せそうだね。」


グラベルが座り込んだまま、ぼんやりと新しく生えた腕を見つめて戸惑っているグルックに言った。


「ふむ……カエルに似た獣人か。別に呼ばれる種族名はあるのか?」


グラベルがグルックを見下ろしながら尋ねた。


「グロング、グロングです……Gwwwk。」


グルックがグラベルを見上げながら答えた。


「そうか。それじゃあ、今グロングの三人が狙っていたのは馬車にある石像か?」


「はい、はい。せ……石像を盗んで持ってこいって言われました。でなければ壊すか。Gook。」


グルックは本当はディアラ、グラベル、イリスを暗殺するのが依頼の本当の内容だとは言えなかったので、そう答えた。


「どうせ何を狙っているかなんて関係ない。誰かの雇われで来たってことが大事だから……」


グラベルが微笑みながらグルックに言った。


「さあ、それじゃあ戻って雇い主に、これ以上こんな無意味なことをやめるように説得できるくらい、私たちのイリスが十分に実力を見せたかな?」


グラベルが自分を褒めながら振り向いて目が合ったら、イリスの頰が赤らんで頭を下げ、目をぎゅっと閉じた。


「もちろんです……Grrooog。これ以上こんなことがないように、僕が説得します。だからどうか……どうか……」


一度の間違った行動が。一言の不慎重(ふしんちょう)な言葉が自分の死に繋がりそうな、冷たい殺気がグラベルの後ろに立っているイリスから感じたグルックが、床に頭を押しつけたままグラベルに言った。


「ふむ。そうなら生きて帰す甲斐があるね。別に脅威的でもないし。ちゃんと伝えておけよ。」


グラベルが床に額を押しつけてうつ伏せになっているグルックの背中を軽く叩き、もう起きてもいいという意味を伝えた。


「ありがとうございます。慈悲深い方。ありがとうございます。必ず伝えます。Grok。」


すぐに立ち上がったグルックがグラベルに言った。死んだケアロックとローゴンを見て、自分も最後まで二人と一緒にいられなかったことを時間が経てば少し後悔するかもしれない。でも今、この瞬間グルックは自分の首筋を噛んでいた鋭い牙から逃れた解放感を感じていた。かろうじて敵の慈悲で助けられた自分の命が保たれたことが、とても嬉しかった。


しかしその喜びも束の間。背筋をぞわぞわさせる感覚が再びグルックの後ろから感じられた。最初に厩舎(きゅうしゃ)で出会った凶々しい殺意の。


「私は今日、あなたたちが馬車じゃなくて宿の中の誰かを狙った暗殺者だってことを知っています。もちろん私の主君もそれを知っておられますが、どうやら慈悲を施してあなたを生きて帰すことにしたようですから、それに従いますけど……」


イリスがいつの間にかグルックの後ろに近づいてきて、小さな声でグルックに囁いた。そして続けてグルックに囁くように言った。


「私は記憶力がとてもいいんです。だから今日、私の主人がいる場所に、微弱(びじゃく)であっても殺気を抱いて入ってきた無礼は忘れません。そして私が生きている限り、このことは私の頭の中に記憶されているでしょう。」


イリスの決意が込められた言葉に、グルックの体が震え始めた。柔らかな女性の声に載せられた殺意と、自分の主君に暗殺者として近づいた者への怒りが、グルックの全身を包み込んだ。


「ひいいぃ! Gwuuuuuk!」


さっきイリスの剣で両腕を斬り落とされた痛みより、さらに強い痛みが感じられた。心の内側から魂を潰すような恐怖と絶望感が、グルックの全身を押しつぶしていた。


「はは。イリス、それくらいでこのカエル友達もわかっただろう。行かせてやろうよ。」


「はい。グラベル様。」


イリスが体を回してグラベルに答える隙を突いて、グルックが逃げ出し、街の闇の中に姿を消した。


「それじゃあ、後始末は私がやるよ。」


グラベルが床に倒れたケアロックとローゴンの死体を見ながら言った。


『本来は潜入クエストで巡回NPCたちが死体を発見すると成功報酬が減ったり、最悪クエスト失敗にも繋がるから使い道がある魔法だけど……。これをこんな風に使うなんてね。』


グラベルが両手をそれぞれケアロックとローゴンの死体に向かって伸ばした後、魔法陣を展開した。


紫黒色の三角形の魔法陣に、奇妙な文字が混ざった独特な形の魔法陣だった。そしてその魔法陣の中から、長い細い鋭い歯が口いっぱいに詰まった口が魔法陣の中から出てきて、明るい黄色の光体が口の前にぶら下がった紫色の皮膚の深淵鮟鱇(しんえんあんこう)二匹が、二人のグロングの死体を貪欲(どんよく)に鋭い歯を使って一口ずつ噛みちぎって飲み込んだ。


深淵鮟鱇の二匹は止まらず、腹部に付いた小さなヒレを使って腹を引いてぴょんぴょん跳ねながら移動し、散らばった小さな肉片まで食い尽くした後でようやく、ぬるぬるした紫色の煙に変わって消えた。


「深淵鮟鱇がきれいに掃除してくれたね。」


召喚した二匹の深淵鮟鱇が床に血痕(けっこん)一つ残さずきれいに掃除したのを見て、グラベルが二人のグロングの死体があった場所を見ながら言った。


「あそこに何か光るものが……」


イリスが床に落ちた宝石を拾い、手のひらに載せた宝石をグラベルに見せた。


『ルート(Loot)!?があるなんて? いや、いや所持品の中の宝石類を深淵鮟鱇が選んで食べなかったのか?』


深淵鮟鱇のゲームでの機能が発現したのか、宝石が深淵鮟鱇の口に合わなかったのかはわからないが、グラベルが興味深そうに頭を下げて、イリスの手のひらに載せられた月光に反射して輝く宝石たちを見つめた。


「ふむ……。遅い夜の騒ぎに対する報酬ってことにしようか。明日街の商人ギルドに行って鑑定してもらおう。お疲れ様、イリス。」


そうしてその日の一日が終わり、次の日何事もなかったように宿の厩舎前の空き地は、宿の女主人が誰が朝から感心するほど掃除したのかと褒めるほどきれいになっていた。





*****


冷たい空気が息を吸うたびに胸の中を凍らせるような、早朝の時間。木の下の藪の中の黒い影が青色に少しずつ変わりながら、その姿を現していた。


ディアラと共に石像を護送(ごそう)している兵士のリブとケイン。そしてグラベルだった。三人が寒い秋の早朝の空気を吸いながら藪の中にいるのは、前日のリブとケイン二人の会話から始まっていた。


バナス公爵領の東部にある小さな猟師の村出身の二人は、ノードポードに到着する前から王国の西北部ノルワン山脈の黒トナカイについてよく話していた。ノルワン黒トナカイの毛皮は500金貨から、という言葉は猟師たちの間で常識と言えるほど有名な言葉だった。だから兵士でありながら猟師だったリブとケインは、ノードポードに滞在することを聞いた瞬間から狩りの計画を立てていた。


予定された街の防壁工事期間の5日のうち、一日の休暇をケインとリブが合わせて狩りに出ることにしていたのだ。グラベルは特に理由もなく『ちょうど時間が空いて暇だったんですけど、私も参加させてください。邪魔はしないようにします』という言葉で今日の狩りに一緒に参加することができた。


「うう……寒い。出てくる前に温めた石がもう冷めたよ。ケイン、場所を交代してみないか? 二回もコーリングしても全然現れないじゃないか。」


リブが微かな温もりが残る石を手のひらを合わせて触りながら、ケインに言った。


「ウィングルベリがあっちの遠くに集まってるから、コーリングが聞こえなくても日が昇る前には現れるよ。もう少し待ってみよう。」


ケインが急な斜面の下り坂の峡谷(きょうこく)の向こう側を指差しながら、リブに言った。


「それにしてもグラベル様は大丈夫ですか? 待つのが退屈で寒いでしょうに……」


「大丈夫ですよ。狩りはしたことがないんですよ。近くで見てるだけでも楽しそうです。」


グラベルが二人に向かって微笑みながら言った。


「ええ、普通の鹿やトナカイみたいなのは冒険者の方々は狩らないですからね。」


「専門の猟師には敵わないよ。」


「そうですね。プロイクトンでも鹿肉を扱ってるのは見たけど、依頼所では狩猟依頼はなかったんです。」


「へへ。当然ですよ。鹿肉や毛皮みたいなのを手に入れるために冒険者ギルドに依頼なんて出さないですから。」


リブが指で顎を掻きながらグラベルに言った。


「お? あそこ見て! ミュールジカの群れだ。ノルワンにもいるんだな……」


「どこ? どこ? どっち?」


リブが向かいの峡谷の下の方で動く鹿の群れを指先で指した。茶色の体毛と灰色と白の斑点がある尾の鹿たちだった。


「どうする? あれでも狩って早く帰るか?」


「馬鹿だな。ここまで来てミュールジカを狩ってどうするんだ。待てよ。父さんが黒トナカイは鼻が敏感だって言ってたよ。ミュールジカたちがウィングルベリを食べてるから、その匂いが広がるよ。」


ケインがリブの肩に手を置き、焦るリブを落ち着かせた。


低い背丈でふさふさした藪の中に実った赤と紫の小さな実を、鼻先を使って藪を掻き分けながらミュールジカたちが食べていた。


「ちぇ。あんなに食べてたら全部食い尽くしちゃうよ? 走って行って追い払うか?」


「待とうよ。もう少し待てば……」


「ところでプロイクトンで食べた鹿肉料理がおいしかったんだけど、お二人が知ってる猟師(りょうし)だけの料理ってありますか?」


焦るリブとずっと待てと言うケインの間にいたグラベルが、二人の言い争いが大きくなる前に話題を変えようと質問した。


「ふむ……まあ、料理は特にできないけど……。簡単な野営食なら誰でもできるし。猟師だけの料理って言ったら、新鮮なうちに人の目を気にせずにたくさん食べられるってことかな……。ただ香辛料と塩を塗って火で焼くだけですよ。たくさん……」


「酒があればもっと良いよな。」


「は……は……そんな……」


「しっ! あそこ見て! あっち!」


立っていたケインが急に姿勢を低くして、二人の背中に手を置いて押し下げながら言った。


「何? 何? どうしたの? 黒トナカイでも現れた……ひっ!」


目を細めて峡谷の向こう側を睨んでいたリブの目が丸く見開かれた。黒トナカイだった。遠くから見てもはっきりわかる黒い濃い毛と、空に向かって伸びた多岐(たき)に分かれた角。ミュールジカに比べて数倍は大きく見える体躯のトナカイだった。


「これから音はできるだけ小さく。グラベル様もわかりますよね?」


ケインが遠くの黒トナカイに目を固定したまま、息を細く吐きながら、囁くような小さな声で二人に言った。


―ウウウウ!~ウ!―


周囲に大きく響くほどの黒トナカイの鳴き声が聞こえた。角を突き出して周囲のミュールジカたちを威嚇(いかく)し、四、五つのウィングルベリの藪が集まった場所を独占してから、急に鼻から息を吐くプルルルックという音を出して興奮を抑えるようだった。


「ふううう。それじゃあ、少し食べさせてからコーリングでこっちに誘導してみよう。さっき威嚇する時の声聞いたから似たような声を出せば……。」

イリス怖い......

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