30話 グロング族(1)
ノードポードから少し離れた小さな川辺。流れる川の水が小さな石の間を通り抜ける音と、遠くから響く動物の鳴き声が森に響いていた。朱色の炎が揺らめき、浮かぶ月が明るい夜だった。
「Gwook。もう空気がチクチクするな……」
ケアロックが両腕で自分の肩をさすりながら、他の二人のグロングに言った。
「もうすぐ秋だからな。最後の仕事だけ終わらせて、プログロックで春まで過ごそうぜ。なあ、グルック? Gwooooo。」
グルックが目の前の焚き火に枝を数本投げ入れながら、ケアロックに言った。
「Grrok。でも、さっき誰が隠れ月騎士の監視を担当したんだっけ?」
「俺だよ。監視ってほどのもんじゃないけどな。朝から街の中央のギルドに行ったあと、泊まってる酒場で馬車を守る数人を残して、街の西側の壁に兵士たちと歩いて行ったよ。壁を再建してたぜGrok。」
「Grekok。ヴェス・ディナスに石像を運ぶ最中に、突然壁を作り始めるなんて? 橙色の髪の隠れ月騎士だよな? 兵士たちもバナス家の正規兵だったか?」
ローゴンの言葉に、グルックが大きな目をぐるりと回しながら、再びローゴンに聞き返した。
「そうだよ。馬車を守ってるのもそうだし。黒い髪の女と男がいるのも確認したからな。Grok。」
「Grroo。さっき黒い髪の男は酒場の主人と一緒に出て行ったぜ。」
「そうだな。黒い髪色なんて珍しいから……。標的が違うなんてことはないよな……。じゃあ、どうする? それぞれ一人ずつ担当するか? それとも一人ずつ離れたところで片付けるか? Grouk。」
グルックがケアロックとローゴンを交互に見つめ、目を合わせた。
「Kerrook。とりあえず近くで待機しながら決めるってのはどうだ?」
「俺もそれがいいと思うぜ。どうせ今回は標的が三人だからな。近くで待って状況を見ようぜ。Krooo。」
「そうだな。じゃあ、とりあえずあの酒場の近くに行ってみようぜ。Grroo。」
「白い蛇を殺すその日まで。」
「白い蛇を殺すその日まで。」
「白い蛇を殺すその日まで。」
三人のグロングが同時に言葉を吐き出した後、動き始めた。ケアロックが素早い足取りで川辺の流れに手を浸し、水をすくって腕と顔に塗りつけた後、先に出発したグルックとローゴンに追いつくために走り出した。
三人の小さなグロングが姿勢を低くし、巧みに道のない森の中の草や藪を避けながら移動した。風の音に合わせて草をかき分け、森の鳥のさえずりとトナカイの鳴き声が聞こえてくる中、素早く動くグロングたちは森を抜け、ノードポードの防壁に到着した。
大都市や要塞の城壁ほど高くはない防壁だったが、それでも下に立っている三人のグロングの身長をはるかに超える高さだった。
グルックが一瞬上を見上げた後、防壁に向かって跳び上がった。ケアロックとローゴンもグルックに続き、防壁に向かって跳び上がった。
防壁に跳びついた三人が、指先の吸盤を使って滑ることなく壁に張り付き、そのまま壁を登っていった。グロングにとっては、たいした壁など問題にならない。指先の吸盤と皮膚から分泌される粘つく粘液が、壁を登ったり木の上を登ったりする時も滑らずに簡単に移動できるようにしてくれる。
壁を簡単に越えた三人がそれぞれ散らばって動き出した。グルックは建物の間の狭い路地へ。ケアロックは壁から向かいの建物に跳び移り、その上へ。ローゴンは月光を避け、影が落ちる壁沿いにフードを深くかぶってゆっくりと歩いた。そうしてまばらに散らばった街外れの建物数軒を過ぎ、大きな前足の熊の酒場 が見える場所に到着した。
大きな前足の熊の酒場が見える向かいの道で、月光にさらされた自分の姿が気になるのか、グルックが空に浮かぶ月を一瞬見上げた後、月光が届かない暗く狭い路地に向かって動いた。そしてその後をケアロックとローゴンが続いた。
「Groog。どうだ? このまま近くで待つか?」
「そうだな。じゃあ、路地に暗幕の紋章を設置しようぜ。長く待つことになるかもしれないからな。Grroo。」
「それがいいよな。どうせ冬が来る前の最後の依頼だから、惜しまず使おうぜ。Kroog。」
ケアロックが言葉を終えると、三人が懐から小さなチョークを取り出し、ケアロックとローゴンが路地の壁に、グルックが路地の床に紋章を描き始めた。サクサクと。奇妙な形の紋章がグロングたちの指先を追って描かれていった。三人の手からチョークが擦り減って消える頃、路地に描かれた紋章から黒い煙が立ち上り、三人のグロングを覆い、さらに広がって路地の端に達する前に薄く色を失って消えた。
「よし、これで楽に監視できるぜGrrooog。」
グルックが路地の壁に寄りかかりながら言った。三人のグロングが路地外の宿に目を固定したまま待った。宿の前を通り過ぎる人。酒に酔って宿のドアの前に寄りかかって眠りこける人……。路地の前の通りを通り過ぎる猫……。そして時間がさらに過ぎ、兵士たちとディアラが戻ってくる。三人のグロングが大きな目を大きく見開いたまま、時折瞬膜が目を覆って消えるが、大きく開いた目は集中力を保ったまま、路地外のすべての動きを捉えていた。
さらに時間が流れ、路地外の通りの灯りが次第に消えていき。街が次第に眠りについていく。
「(動く!)」
グルックがケアロックとローゴンに見えるように手の形を変えて握り、声のない言葉で二人に伝えた。
マントをまといフードをかぶったせいで、宿に向かうグロングの暗殺者たちの姿は黒い影の移動のようだった。音もなく滑るように道脇に植えられた木に一瞬留まる。すぐに宿の厩舎がある方へ三つの影が動いた。
「(厩舎。まず。守ってる。兵士。殺して。中へ。)」
グルックが動きながら、再び片手を使って手信号で二人のグロングに意図を伝えた。グルックの手に視線を向けたケアロックとローゴンがグルックと目を合わせた後、頷いた。
三人のグロングが厩舎に向かって素早く移動する。馬車と馬が出入りできる入り口に三つの黒い影が集まった瞬間だった。ケアロック、グルック、ローゴン。三人のグロングがその場で同時に止まった。
本来なら入り口で止まるのではなく、馬車が停められた場所までそのまま突進して、そこを守っている兵士たちが反応する前に始末するはずだった。一人ではなく三人が同時に予定された動きではなく、むしろ止まることに約束されたように厩舎の前で止まっていた。
三人のグロング……ケアロックの瞳が震えていた。開いた口は痙攣している。剣の柄を握っているグルックの手が震えていた。ローゴンは目を鋭く細めたまま、止まった自分の脚を一度見下ろした後、震える自分の体を制御しようとしていた。
三人のグロングを止まらせた原因が、厩舎の奥から彼らに向かって歩き始める。
月光を反射する銀白色の鎧。そしてそれとは正反対に、降り注ぐ月光をすべて飲み込む黒く暗い長い髪。イリスだった。目の前の侵入者に向かって凶々しい殺意のこもった気配を放ちながら、イリスがゆっくりとグロングたちに歩み寄っていた。剣を抜いてはいないが、グロングたちは感じ取ることができた。
『一瞬の間違った動きをすれば、あの女の剣によって体が引き裂かれる。』
三人の心の中には、その一つの思いだけだった。
武器を手に宿に向かって駆け込んだ時点で、選択の余地など全くなかった。始末すべき標的が、深夜の馬車を守りながら居眠りする兵士から鎧の女騎士に変わっただけだ。それに、どうせ殺さなければならない三人の依頼標的の一人ではないか。頭の中ではそう何度も繰り返し言い聞かせたが、肝心の体が動いてくれなかった。
近づいてくる華奢な女騎士から感じる威圧的で圧倒的な敵意の前に置かれたグロングたちは、まるで巨大な蛇の前に置かれたカエルのようだった。鎧を着ているとは思えないほど軽く音のない優雅な足取りで、イリスがグロングの暗殺者たちに向かっていた。
近づいてくる死を目で見つめている三匹のカエル。瞳を転がすこともできず、腕と脚は動かそうとする意志を示すようにびくっと震えたが、動くことはできなかった。一言も発さず、足を踏み出して歩いてくるイリス。ゆっくりと右手を動かし、剣の柄をイリスがつかむ。
「(動け!!!)」
ケアロックが直面した恐怖から一瞬逃れ、口を開いて叫んだように見えたが、何の音も口から出なかった。それでも、直面した恐怖に止まっていた体は動くことができた。ケアロックが地面を蹴って跳び上がり、イリスに向かって懐から取り出した短剣を投げつけた。
跳び上がったケアロックを見て、ローゴンが後を追って駆け出し、剣を抜いてイリスに刃先を向けた。グルックは二人のグロングが自分の前に出るのを見てようやく体を動かし、遅れて腰の両側から剣を取り出し、二人の動きに一拍遅れて駆け出すことができた。
駆け寄る三人のグロングの口がゆっくりと開き、イリスを見つめる目が歪み、大きく叫ぼうとする瞬間だった。
イリスが剣を抜いて右手に持ち、先ほどより少し速く歩くように見えたが、跳び上がったケアロックはまだ空中にあり、投げられた短剣もその前でイリスに向かって飛んでいた。時間が止まったようにすべてが動きを見せず、ただイリスだけが別の時間軸にいるような動きで剣を持った腕を軽く振ってケアロックを斬った。
空中に浮かぶケアロックの腰がイリスの剣によって裂かれ、後続の剣撃で首と脚が、そして続く剣撃で落ちた胴体と脚を斜めに横断する剣撃が続いた。目で追うのも難しい速い剣がケアロックを細切れにし、イリスが体を回して剣を振り、ローゴンの首を斬り落とした。
わずか数歩後ろでケアロックとローゴンがイリスの剣に斬られるのを見た瞬間、頭で何かを考える前にグルックが地面を蹴って後ろに向かって跳んだ。しかし、そんな迷いのない動きにも、イリスの剣がグルックの両手を逃さず切り落とした。そして続く攻撃がグルックに届こうとする瞬間だった。
「一人残さないとだめだよ、イリス。」
声と共に姿を現したグラベルが、イリスとグルックの間で現れ、グルックに向かって飛んでくるイリスの剣を防ぎながら、グルックを見つめていた。
「あ……声は出せないよ。Taceっていう呪文をかけたから。」
遅れて訪れた腕を失った痛みにグルックの顔が歪み、口から舌を垂らして叫んだが、グルックの口からは音が出なかった。
「うん……。眠ってる兵士さんたちを起こしちゃいけないから沈黙の呪文をかけたんだけど。これじゃ会話ができないよね。」
腕が斬り落とされた痛みに床に倒れたグルックにグラベルが回復魔法をかけるや、斬り落とされたグルックの腕が新しく生えた。大きな目をさらに大きく見開いたまま、呆然とした表情をグルックが浮かべていた。針金が全身を刺し、体の中を這い回るような痛みも消えた。
三匹の蛙の竜に出会う!!




