26話-ディアラとの対話 (2)
グラベルとディアラの会話は続いた。
「それでは、魔法陣と文様の大きさの関係については、ご存じのことがありますか?」
グランド・ワールド・オンラインでも、魔法陣とそれに構成される文様の大きさは自由に実装できたが、数多くのプレイヤーの研究と実験の末に最適の大きさの組み合わせの知識が普遍化されていたため、自分が知っているそんな知識を異世界の知識と比較してみるために、ディアラに質問した。
「ええ。私が知る限り、最適の大きさが存在します。大きさが大きくなるほどその威力は増しますが、必要なマナの効率が悪くなり、文様もMon(1)の文様よりDil(2)のような上位の文様の方が効率が高いんですの。でも、時には効率の最適より状況に合った最高の魔法がありますから、私の知っている知識が絶対的な真理とは言えません。」
「ははは! そうですね。私も状況に応じた最適があると思います。」
グラベルが喜んで大きく笑った。推測して頭の中に積み重ねられていた知識が一つ一つ整理されていく爽快さが、気分を良くしてくれた。二人の会話は、互いに異なる世界の魔法の知識を分け合いながら、夜が遅くなるまで続いた。
魔法陣の実装時にマナ注入の効率の理由で自分の近くに近く実装するという事実と、遠くなるほどマナの流れの速度と伝達量についても話したし、それを利用して遠隔で魔法を発動できること、円ではない様々な形の魔法陣の存在と複合文様の文様についても二人の会話が続く中、グラベルがディアラに尋ねた。
「それでは、ディアラさんはどの程度の威力の魔法まで発動できますか?」
「え? 私……。私の魔法深度の最高段階は……」
グラベルに質問を受けたディアラが慌てて言葉を躊躇した。
「(ん? 失礼な質問をしたのか??)すみません。もしかして私が無礼な質問をしたんでしょうか?」
「あ、いえいえ。私の場合、Teta(4)の炎の魔法までが、私が使える最高深度の魔法です。」
「(Tetaなら……4レベルか?)相当なレベルの魔法を習得なさったんですね。(プロイクトンで出会った大抵のキャスターは1~2レベルの魔法を使っていたから、恐らく4レベルの魔法を使えるというのは平均以上の魔法使いか、プロイクトンで出会った魔法使いたちのレベルが低いか、どちらかだろうけど……)」
「良い師匠様と神殿の仲間たちのおかげです。そして炎の魔法以外ではTeta(4)級は使えません……」
「(炎系魔法の特化なのか?)ん……炎の魔法だけTeta(4)級を使えるというのは、ディアラさんは炎系列の魔法に特化したんですか? それとも別の意味があるのか、答えにくい質問ならお答えにならなくてもいいです。」
グラベルがディアラに見せた魔法はせいぜい1~2レベル程度の解毒と回復魔法に過ぎなかったため、ディアラには魔法に興味が多く、独特な魔法文様を知っている人程度に見えていただろう。だからこそグラベルは遠慮なく自分が気になっていた様々なことをディアラに尋ねることができた。
「うーん……。先天的に体に元素の属性に親和力が高く生まれる人たちがいます。私の場合、炎の属性を持って生まれたんですけど、そんな特定の属性を持って生まれた人が魔法を学んで使う場合にも、生まれつきの属性の魔法を発動する時、より正確に言えば生まれつきの属性の魔法陣に自分の生まれつきのマナを流し込む時に、マナにその属性が加わって注入されるため、魔法をより速く、効率的に発動できるようになるんです。魔法陣とマナの属性が一致すれば、確かに利点が多いです……。だから私は炎の魔法に特化したと言ってもいいでしょうね。説明が複雑すぎましたか? まだ誰かを教えたことがないので。申し訳ありません……」
「ははっ 。いえいえ。わかりやすかったですよ。私も誰かを教えるより、まだ学ぶ方が慣れていますから。それでは、後天的にマナの性質が一つの属性を帯びることもありますか?」
「ええ。生まれつきの属性がなくても、精神の影響が強いマナの特徴のため、少しでも自分が好きで、望む心の影響で微弱ながらマナに属性が付与され、そしてそれによる連鎖作用で自分が好む魔法の効率が高くなり、威力も強くなるので、一つの属性の魔法を頻繁に使うようになり、次第に一つの属性が濃くなっていきます。だから大抵の場合、私のように生まれつきだから一つの属性に偏るより、後天的に一つの属性を続けていてその属性の親和度が高い人の方が多いんです。」
「(ふむ……生まれつきの属性があるというのは初めて聞くけど、属性特化の理由と原理はグランド・ワールドと似てるな……。)そうですね。ディアラさんから沢山のことを学んでいます。それでは、今日の話はこの辺にしましょうか? 明日の予定もありますし。目的地のヴェス・ディナスまでは遠い道のりでしょうから、会話の機会は多いと思います。」
「ええ。刹那の業績より、長い時間の積み重ねがもっと大事ですね。」
「それでは。明日またお会いしましょう。」
グラベルが挨拶を終えて天幕の外へ出た。野営地の中央の焚き火は相変わらず大きく燃えていて、森の遠くの方からは時折フクロウの鳴き声が聞こえてきた。
「ふうう……。今日は沢山のことを知ったな。プロイクトンの商店街のどこかの店で携帯用の筆記具が入った小さな鞄を見たような……。買っておけばよかったかな?」
ディアラと交わした会話を整理しながら、グラベルが独り言を言った。
*****
翌日も日が昇った後、遅くになってようやく一日が始まった。プロイクトンから朝早く駆けつけた馬車修理工の馬車が野営地に到着した。馬車から降りた修理工と助手たちが兵士たちと挨拶を交わしながら、大きな馬車の車輪を荷台から降ろしていた。
修理工が二人の助手と共に馬車の車輪を嵌め込み、ハンマーと鑿を使って作業に没頭することを数時間経った末に、『これで完了だよ』という修理工の言葉と共に兵士たちの動きが忙しくなった。天幕を畳み、野営地に広げていた雑多な物たちを片付け、最後に石像を兵士数人がやっと少しずつ動かして馬車まで運んだ後、土を積んで馬車の荷台の入口まで斜面を作り、何とか馬車の中に押し込んで積むことができた。
その後、馬車修理工が乗ってきた馬車から馬一頭を分けてもらって繋いだ後、二台の馬車がプロイクトンに到着した。そして石像を積んだ馬車は商業街の一角に停められた。停められた馬車の横では、兵士のリブとディアラが会話をしていた。
「馬一頭では無理そうなので。兵士の方々の中のケインさんが馬を扱えるとおっしゃったので、必要な物資を買って積む間に馬をもう一頭調達してくることになりました。」
「それでは、補給が完了次第出発されるんですか?」
ディアラにリブが尋ねた。
「北のノードポードまでは道中で野営しながら行かなくてはなりませんけど。本当に他の兵士の方々全員が大丈夫だと言ったんですか?」
「はい! グラベル様の魔法で皆傷一つなく最高の状態です。」
「それなら良かったわ。ノードポードに到着できれば、そこからディウレ川を下ってバラ・グラスまで行けますよ。」
ディアラの言葉を聞いたリブの頭が傾き、頭を掻いた。
「うーん。でも、どうしてわざわざ北のノードポードまで回り道してバラ・グラスへ行かれるんですか? まっすぐプロイクトンから東へ行けばバラ・グラスに行けますよ。」
「ええ。東の道で行く方が早いんですけど、その道で行くとララー家の領地を通ることになりますの。どうしてもカビル家の下にあるララー家の領地を通るのは危険だと思って。」
「そういう理由があったんですね。わかりました。それでは、私も準備を手伝いに行ってきます。」
リブが足取りを速めて、馬車が停められた道の反対側へ向かった。
番外編:ファフトの筆記具
羽ペンとインク瓶が描かれたぼろぼろの看板が掛かった店の扉を開けて、グラベルがイリスと共に中へ入った。
「ファフトの店へようこそ~」
鼻声が少し混じった明るい音色の男性の声が、姿を現さないまま扉を開けて入ってきた客の音に反応して挨拶してきた。
店の内部には壁に沿って立てられた陳列棚の中に、色とりどりのインクが乱雑に様々な形姿で置かれていた。反対側の別の陳列棚には、大きさと色が違う羽たちと木を削って作ったような尖ったペン、細工の装飾が華やかな角を削って作ったようなペンも目についた。
「携帯できる筆記具を入手できますか?」
「旅をなさっているんですね?」
頭に油を塗って後ろに梳き流し、白髪交じりの髭を蓄えた店の主人が、グラベルとイリスの前に姿を現しながら言った。革素材の厚いエプロンには、巻いた古い紙が入ったポケットと所々にインクで汚れた跡が見えた。
「ええ。前に小さな鞄にペンとインクを一緒に売っているのを見たようなんですが。」
「あ! それなら在庫が残っているかもですよ。ちょっと待っててくださ~い。」
少しグラベルの前から店の奥へ消えた店の主人が再び現れた時には、五つの埃まみれの肩に掛ける鞄たちと共にだった。
「えーっと……。鞄はこの中から選べばいいし、その中でインクが入るポケットが多く付いた鞄があるはずです。それには銀貨5枚余分にいただきますよ。」
ファフトが店の隅の丸いテーブルの上に鞄たちを広げながら、店の陳列棚を鼻歌を歌いながら開けて探し始めた。
「携帯用の小さなインクたちがどこだっけ~どこだっけぇ~インクが~どこだっけぇ~」
しばらく陳列棚を移り歩きながら鼻歌を歌っていたファフトが、鞄が置かれたテーブルに戻ってきて、数個のインクをエプロンのポケットから取り出して置くと、再び別の陳列棚へ向かった。
「あちゃちゃちゃ。待たせて退屈でしょうね。ここにこの紙にこれで、あそこのインクの中から気に入ったのを試してみてください。一度使ったペンはテーブルの上の水瓶で洗えばいいですよ。」
ファフトがエプロンから紙一枚を白い羽が付いた短いペンと共にグラベルに渡しながら言った。
「ええ。それでは試してみます。」
「日光と湿気はインクに良くないんですよ。」
ファフトがテーブルの上に大きなランタンを運んできて、薄暗い店の内部についての理由を説明した。
紙と羽ペンを受け取ったグラベルがテーブルの椅子に座って紙を広げ、丸いインク瓶を開けて羽の先を浸した後、紙に線を引いてみた。
『濃い黒色だな、それじゃ他の色も見てみようか?』
グラベルがペンの先を小さな水瓶に入れて振って洗った後、別のインクの瓶を開けて紙の上に線を引いてみた。
『黒色?』
次の瓶を開けて線を引いてみた。
『これも?』
「ファフトさん、ここのインク瓶のインクたちが……」
視界に見えないファフトにグラベルが言った。
「はーいお客様。お気に入りの色は見つかりましたか?」
ファフトが店の別の場所で床に置かれた木製の箱の中を探りながら、グラベルに答えた。
「あ……。ええ、でも……。くださったインクが全部黒色なんですが?」
「ん? ええ、だからどの黒色がお気に入りだってことですか?」
「(ん? 全部違う黒色なのか?)」
グラベルがテーブルの上のインク瓶たちを持ち上げて瓶の蓋に書かれた小さな文字たちを調べた。
『黒い龍の心臓、カラスの羽、燃えた木の灰、オニキス……』
インク瓶に書かれた様々な文言たちを見て、グラベルはファフトが間違えて黒いインクだけをくれたわけではないことに気づいた。
「あ……。あ! ええ! このカラスの羽が一番気に入りました。」
「ほおお。カラスの羽ですか、それいいですよ。乾くと紫色の縁が浮かぶのがとてもいい色を出しますよ。本当に水に濡れたカラスの羽みたいにツヤが出ます。」
両手で支えた盆の上に数十個のインクを満載して歩いてくるファフトが言った。
「さ。さ。これが青系統……。そしてこれは緑色たちで、あ。そうだ。どうせ携帯しやすいのを探していらっしゃるなら、羽ペンよりインクポケットが付いた角ペンの方がいいと思って。これらのペンは羽ペンと違って、そんなに頻繁にインク瓶に浸す必要もないんですよ。」
ファフトが長い布を広げた後、その上にいくつかの角を削って作ったペンたちを置いた。
「これを見てくださいよ。お客様。イクスターンのティルティヒ工房から仕入れた奴なんですがね、値段は張りますがそれだけの価値はありますよ。」
「ははっ……そうですね。それではおすすめのそのペンとインクは黒色。そのカラスの羽でお願いします。」
「あは! はい。それでは、鞄はこのにしますってことで。ペンはティルティヒ工房のこいつと……。インクは黒色のカラスの羽で~」
テーブルの一角にペンとインクを袋と共に寄せて分離しておいた後、ファフトが大きく歯を見せて微笑んだ。
「えへんへんへん! ところで……お客様。私の話を少し聞いてくださいますか?」
ファフトがエプロンから布を取り出してテーブルの上に置かれたインク瓶を手に取って拭きながら話し始めた。
「お客様は今日、私の店で買って帰られるこのペンとインクをとても気に入られるでしょう。商人の口車じゃないんです。信じてください。そして今出発される旅の瞬間ごとに、このペンで素晴らしい文を書き、絵を描かれる方なら美しい絵を描かれるでしょう。そしてある日ふとこんな思いが浮かぶんです。
『あの時プロイクトンのファフトという商人の店で他のインクをもう少し買っておけばよかったかな?』あ~あ! 『黒色じゃなくて赤い花鳥の羽って名前のインクの色が綺麗に見えたのに。』『あ……。ペンごとに書き味が違うって言ってたけど予備で何本か買っておけばよかったかな?』って思う日が来るんです。
どうでしょうお客様? そんな後悔する日を防ぐために、このファフトがおすすめする美しいインクと筆記具の革命って呼ばれて歴史の名器に残るペンを推薦されてみませんか? あ! まずは鞄をもっと大きなのに持ってきて見せなきゃですね。」
長文の演説のような長い言葉を吐き出したファフトが、輝く目でグラベルをじっと見た。
その後、グラベルはファフトと共に50余りのインクの発色と説明を聞き、30本のペンを試筆した後に、3本のペンと8個のインク瓶を小さな革鞄に詰めて、ディアラの石像が積まれた馬車の出発に遅れないよう到着することができた。
番外編:ファフトの筆記具 -終わり-
私の本棚にも8種類の黒いインクと4種類の青いインク、そして3種類の赤いインクがあります




