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22話-馬車襲撃 (3)

「うっく。こいつは!」


グリックが肩に刺さった魔法の矢の位置を確認しようと肩に手を伸ばした瞬間だった。


-クワァァン-


巨大な魔法の鉄槌(てっつい)がグリックの頭に向かって振り下ろされた。辛うじて防いだ攻撃に、グリックの腕を守っていた籠手(こて)(ゆが)み、姿勢が崩れたが、顔を覆った自分の腕の向こうにディアラの姿を見て、苦笑いを浮かべた。


(かく)れ月の魔女か!」


グリックが剣を握った反対側の腕で地面を突いて立ち上がり、ディアラに向かって剣を振り回した。


-カァン-


ディアラの杖に具現(ぐげん)化した魔法の鉄槌とグリックの剣が交錯する。力のこもった攻撃の反動で、二人が互いに押し戻された。そしてその隙を突いて、ディアラが傷ついたリブの元へ近づいた。


「リブさんでしたか? 傷を癒します。」


緑色の魔法陣がディアラの手から光を放っていた。


「私は大丈夫です、ディアラ様。あいつ、盗賊団の頭領(とうりょう)にしては相当な腕です。気をつけてください。」


「おい、おい! 全部聞こえてるぞ! それに人を名前で呼べよ。グリックだ、グリック。姓までは知る必要ないけどな。それに盗賊団じゃないって言っただろ。」


直前にディアラの攻撃を防いだ腕をさすりながら、グリックがリブとディアラの会話に割り込んだ。


「こうなったら、あの赤毛の魔女さえ捕まえればいいみたいだな。」


グリックが再び手に取った剣を空中で一度振り回して構えを取った。


「私がお手伝いします、ディアラ様。」


回復魔法の詠唱(えいしょう)が終わり、ディアラが再び杖を両手で握ってグリックと向き合った。リブもその場から立ち上がり、周囲の倒れた死体の横に落ちていた剣を拾い上げ、ディアラの前方へ歩み出てグリックとの距離を詰めていた。


「グリィック!」


リブの歩みが一瞬速くなり、グリックに向かって駆け出した。


「短い時間で俺たち、ずいぶん仲良くなったよな? 名前まで呼んで駆け寄ってくるとは? くふふふふ。」


グリックもリブに向かって飛び出した。まずリブが剣を頭上に掲げてグリックに向かって振り下ろす。駆け寄っていたグリックがこれに反応して素早くさらに前へ踏み込み、リブの剣が虚空を裂いた。


「ふは! そんな攻撃に当たるわけないだろ!」


グリックの剣がリブに向かう。グリックが振り回した二度の連撃をリブが辛うじて防ぎ、再び止まることなくグリックが攻撃を続けた。


リブの剣に比べて長さがはるかに長い両手剣に近い長剣を使った攻撃だったが、リブに反撃の隙を与えないほど速いグリックの攻撃が続いた。


「ほう、どこの騎士様よりよっぽど上等だぜ?」


「くぅん!」


グリックの連続攻撃にリブが耐えきれず転倒すると、グリックが体を回転させてディアラに向かい、腰の(さや)から短剣を取り出して投げつけた。


「全部見えてたぞ、魔女!」


リブとグリックが離れた隙を狙ってディアラが魔法を詠唱中だった。グリックもリブを相手にしながらディアラを警戒していたため、ディアラが魔法を詠唱するために魔法陣を展開した瞬間に短剣を投げて牽制できたのだ。


飛んできた短剣をディアラが避ける。そしてすぐに手を広げたディアラの前には赤い光を放つ魔法陣が現れていた。虚空に広がった魔法陣へ、ディアラが握った杖の先端から魔力を流し込んでいた。


『もっと速くマナを集中させなくては。』


さらに明るく輝く魔法陣が中央の一箇所に集まって消え、熱い熱風と光を放つ炎の球体がグリックに向かって飛んだ。


「ファイア・ボール!」


詠唱者の敵に向かって飛んだ炎の球体がグリックを飲み込んだ。


「くっ! 魔女め!」


短い悲鳴とともにグリックの姿が炎に包まれて見えなくなった。


「ふぅぅぅ…」


魔力消費の大きい魔法を使った直後だからか、ディアラが震える息を吐きながら持っていた杖を地面に立て、よろめく体を預けていた。


「うっ!」


突然感じた痛みにディアラの呻きが漏れた。まだ消えずにグリックを包んで燃えるファイア・ボールの炎の塊の中から、一振りの短剣が飛んできてディアラの肩に刺さったのだ。


ディアラが(いぶか)しげな表情で炎の塊を見た。揺らめく炎の動きが止まり、グリックを焼いていた炎はグリックの姿が炎の中から現れるにつれて次第に収まっていった。


「ふぅぅ~。それでも念のため持ってたのが俺を救ったな。ふははは! さっきの魔法には反応しなかったから、偽物買ったかと思ったぜ。」


焦げた鎧と髪の毛の先端が少し焼けたのを除けば、あまりにも平然として自分の髪の先を触りながらグリックが立っていた。


「あ? 理解できない顔してるな? これ見ろよ? エキエルの書から消えた八枚のうちの一つだってよ。」


グリックが腕の防具の中から紙を取り出してパタパタとディアラに見せた。


「悪魔の辞典ですか…」


短剣でできた肩の傷を押さえながらディアラが小さな声で言った。


「そうだ、よく知ってるな。悪魔の辞典、悪の聖書、悪の書。何かそんな名前でみんな呼んでるよな。俺の記憶が正しければ、エキエルっていう聖職者が、ある日祈りを通じて神に世界の全ての知識を知りたいって言ったんだっけ? そしてその祈りに答えたのは悪魔だったって。」


「くはっ!」


グリックの話を聞いていたディアラの口から血が噴き出して流れ落ちた。崩れ落ちる体を杖に寄りかかって辛うじて立っていた。


「あ···。その短剣に塗った毒はかなり強いから解毒した方がいいぜ。どこまで話したっけ? あ! そうだ、そう。聖職者の祈りに答えた悪魔が現れて、ペラペラと世界の理と真実について喋りまくって、それを書き取ったのがこのエキエルの書だってよ。そしてその中の八枚が消えたんだけど~! その消えた八枚の能力が、今見たみたいに魔法を消しちまうんだよな。今回の仕事の報酬で、高貴な雇い主様に直接俺が手に入れてくれって頼んだ品でもあるし。」


グリックが見せた書のページを自分の腕の防具の中にしまいながら言った。


「ん。話が長すぎたかな? ふふ···。悪いな。だってみんなそうじゃん、魔道具とか新しい装備を手に入れて使ってみるときの喜びみたいなさ。それでちょっと話が多くなったみたいだぜ。」


グリックが小さく笑いながらディアラに近づく。そして毒の影響で辛うじてその場に立っているディアラの前に止まった。笑っていたグリックの目は一瞬冷たく凍りつき、ディアラの目と向き合っていた。


ディアラはぼやけた視界を懸命に固定してグリックをまっすぐ見つめた。近づく剣の刃が目の前に迫っても視線を逸らさなかった。体は震え息は荒かったが、目はしっかりとグリックを貫いていた。諦めず、引かぬ眼差しだった。


「ふむ…結構いい目をしてるのは惜しいけど、ここまでだ。隠れ月の魔女。」


「......」


ディアラに向かったグリックの剣が触れようとした瞬間。鋭い金属の音とともにグリックの剣が虚空に飛んだ。


「なんだ! いつから…」


空中に飛んだグリックの剣が粉々に砕けて地面に散らばり、そしてディアラとグリックの間に、ぼろぼろのクロークを纏い剣を持ったグラベルが立っていた。


「お手伝いが必要そうでしたので。」


頭を覆ったフードを脱ぎながらグラベルがディアラに言った。


「冒険者様ですね。私はバナス公爵家に所属する隠れ月騎士団のディアラと申します。力をお貸しください。ううっ!」


ディアラの眉間が歪み、ようやく助けを求める言葉を言い終えた後、よろめいて地面に座り込んだ。


「毒に当たられたようですから、まずは解毒を。」


グラベルが解毒魔法を詠唱すると、グラベルの手から移った光がディアラの体を包んで脈動するように光を放った後、消えた。


「ありがとうございます。冒険者様。」


グラベルは解毒魔法を詠唱していた短い時間もグリックから目を離さなかった。グリックも自分の剣を弾き飛ばして粉々に砕いたグラベルから数歩後退し、グラベルを警戒して距離を保っていた。


「へぇ~、こいつ近づいてくるのも気づかなかったぜ。冒険者? この状況を見て逃げなかったってことは、狂ってるか、自分の腕に自信があるかってことだな?」


グリックが手に持った剣の(つか)を捨て、腰の鞘から前の剣より短いが、それでも普通の剣より長い剣を取り出しながらグラベルに言った。


「誰だったっけ? 剣と矢はいつもたくさん。俺の数多い長所の一つが、準備がいつも徹底してるってことだぜ。」


グリックが抜いた剣を虚空で何度か振り回してみせた。


「グラベル様。私が相手をします。」


横に近づいてきたイリスがグラベルの前に立ち、グリックと向き合った。


「いや。今回は俺が直接相手をする。剣術の師として、弟子である俺の実力を一度見守ってくれ。」


グラベルがイリスの肩を押さえ、前へ進み出た。


「なんだよ…今日の俺、人気ありすぎだろ? それにしても冒険者様のその剣、派手すぎじゃね? あ、そうだ。さっき俺の剣を弾いたのもその剣だったな? 魔法剣か?」


グリックが目を細めてグラベルの剣をじっくり睨んだ。


宝石で飾られた儀式用剣のような派手さではないが、陽刻(ようこく)陰刻(いんこく)で剣身に沿って奇妙な模様と文字で細工された優美さが滲む剣だった。


「あ。私もこの剣を抜いたのは初めてなので。」


「なんだ? 新しく買った剣だったのか? なら高くついただろ。あっちが壊した剣の代金として貰うには不足ないぜ。」


グラベルが剣を掲げ、柄から剣身をゆっくりと眺めた。




嫉妬のタウト。ソード・オブ・イースト・エンドの剣の中に溶け込んで吸収された六振りの剣のうちの一つ。全ての剣を嫉妬する剣の主、タウトが治めていた国は良質の鋼鉄を産出する国だったという。


それに伴い、自然とその国は優れた腕の鍛冶師たちと金属を精錬(せいれん)する精錬工、細工師、さらには剣を飾る宝石を加工する職人や鞘と剣の柄に使う革を作る職人たちまで、国全体が優れた武具を作る一つの大きな鍛冶場のようなものだった。その中で最も腕が優れていたのは国王であるタウトだった。


鍛冶王、ふいご王、鉄臭王など様々な名で呼ばれた王、タウト。他国の王や貴族たちが最も欲しがったというタウトの武具たち。そんな新しい剣や鎧、槍や鉄槌、盾など、タウトが作る武具は、その一つを手に入れるために金満載の馬車十台と交換できるという噂が流れるほど、当時の最高の宝物だった。


ある日だった。タウトが王宮内の鍛冶場、つまりタウトだけのための鍛冶場で数百日叩き続けた鉄槌の音が止まり、タウトの最高傑作が生まれた。他人がこの剣の名を呼ぶのも惜しく、名前さえ付けなかった。そして誰であれ自分の剣より優れた剣を作る者に千金を下賜(かし)すると言った。


全国の職人たちが自分の全ての腕を振り絞ってタウトに武器を献上した。しかしどの武器もその主に千金を届けなかった。代わりに彼らに返ってきたのはタウトの剣によって粉々になった自分の武器だった。完成度の高い武器ほど、より惨たらしく壊れた形で主に送り返された。


王は執着した。そして狂っていった。人々は名無しの王の剣が王を狂わせたという噂を立てた。この世に自分の剣より大切なものはなかった。そうして王国が滅亡する瞬間にも、タウトは自分の玉座で剣を撫でながら最期を迎えたという。




「それでは始めましょうか?」


穏やかな微笑みを浮かべて、グラベルがグリックに言った。


「いつでも来い!」


グリックがグラベルに向かって笑みを返し、剣を握り直した。

ディアラが血を吐くタイミングで、ちょうどコーヒーを飲んでいて、思いっきりむせました。作者とキャラのシンクロ率100%!キーボードは危なかったです。


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