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19話-プロイクトンを離れて南へ

世界全体が青く見える時間。道端の草や木、街の建物までもがすべて薄く塗られた青い絵の具で染まる不思議な時間。勤勉な商人たちさえまだ起きていない、とても早い時間だった。空っぽの石畳の道をしばらく歩くと、城壁内の複雑な路地を通り、市場広場へと続く狭い路地口が現れる。路地を抜けると、市場の路地にはまだ布をかぶせられたままの荷車が並んでおり、鶏小屋の中の鶏たちが夜明け前の気配に羽を一、二度ばたつかせていた。


市場の路地を抜け、街を離れた二人は、いつの間にかプロイクトンの南側外郭(がいかく)の街道の上を歩いていた。朝露を避けるために足元まで届くケープをまとい、フードを深くかぶっていた。プロイクトンから南へ五日ほど歩けばトルという名の街が出ると言われていたので、荷物には五日間の野営(やえい)用の物資が入っており、普段より重かったが、グラベル(グラベル)の足取りは軽かった。


急いでトルまで行く理由も特になかったので、グラベルは街が運営するトル行きの定期馬車を利用したり、馬を借りたり、さらにはプロイクトンに滞在して稼いだ金貨で良い馬を買うこともできたが、歩いてトルまでゆっくり行くことにした。


「早く夜になればいいな。そうすれば、今日の野営食としてこの即席内臓スープを……」


ラミル狩猟団から貰ったドレイクの内臓の欠片が入った荷物を手で叩きながら、グラベルは道を歩いていった。どこでも温かい水に混ぜるだけで食べられる食べ物だったが、わざわざ旅に必要な保存食を理由なくプロイクトン滞在中に食べるのは、グラベルの性格が許さなかった。「食べ物には、それにふさわしい時と場所があるものだ」と、いつも考えているグラベルである。


足を速めたところでトルまでの距離は縮まるが、楽しみにしている焚き火を囲んで内臓スープを食べるまでの時間を早めることはできないので、ゆったりと周囲の青い景色を眺めながら歩いていた。


街外れの森を過ぎ、徐々に薄れていく青い光の風景が本来の色を取り戻していく頃だった。鳥たちもようやく目を覚まし、鳴き声を上げ始めたこの時、静かな朝には似つかわしくない騒々しい馬の蹄の音が聞こえてきた。


道を歩いていたイリスとグラベルに向かって、一頭の馬が道沿いに走ってくるのが見えた。(くつわ)(くら)が備え付けられているので、野生馬ではないことがわかった。


「この時間に主人なしで走る馬とはね」


「主人が馬から落ちたのでしょうか?」


「さあ? もしそうなら、困ってる人がいるはずだから、捕まえて返してあげようか」


簡単な魔法を使って逃げる馬を捕まえようかと思ったが、そんな暇もなく、グラベルの横から消えたイリスが、いつの間にか道から外れた場所で走っていた馬の轡につながった紐を掴んでいた。


「グラベル様。馬の鞍に、怪しい跡があります」


「ん? 何のことだい?」


グラベルがイリスに向かって素早い足取りで近づいた。


「血です。馬が傷ついたものではなく、この馬の主人のような人の血が付いています」


イリスが人差し指と中指を揃えた指先に付いた赤い血を、近づいてくるグラベルに見せた。


「確かに……。馬には傷がないな。主人が誰かに襲われたのか? それとも……野生動物の攻撃か?」


「冒険者ギルドでも、トルまでの街道には盗賊や辻強盗(つじごうとう)が多いと言っていました。そして昔のダイアウルフたちも、街道を外れればよく出会うと言っていましたが、この時間では……」


「こんな早朝に俺たち以外に道に人がいるのもおかしいのに……」


グラベルが首を(かし)げて深く考え込む理由は、早すぎる明け方には特別な理由がない限り道を旅立たないのが、この世界での常識だったからだ。少なくともプロイクトン近辺では常識だった。狼たちに出くわす時間帯でもないので、疑問はさらに深まった。


「グラベル様。道を進んでみましょうか?」


「そうだね。血が乾いてないところを見ると、近くのはずだ」


グラベルの顔には微笑みが浮かんでいた。馬の鞍に付いた血の主人のことには申し訳ないが、グランド・ワールド・オンラインでは自分の意見を述べなかったNPCの仲間だったイリスが、最近になって自分の意見や考えを口にするようになったのをはっきり知ったからだ。NPCではなく、生きている存在としてのイリスの行動が、グラベルを喜ばせていたのだ。


「先頭に立ちます」


イリスが馬の轡紐を握りしめ、素早い歩調で再び道に向かって歩き始めた。緩やかな上り坂のある小さな丘を越えると、どこかからぼんやりと人の声が聞こえた。方向を辛うじて特定できる程度の微かな音だった。


「聞いた? 人の声だよ。男の声みたいだけど……。どっちだ?」


「はい。小さな音ですが聞こえます……こちらです!」


しばらく目を閉じて音を聞いていたイリスが、目を開けると同時に、道から遠く離れた木々が密集した森に向かって飛び出した。


後を追ってグラベルもイリスが走り出した方向へ動く。


「こっちだ」


「近接職とキャスターのステータス差か?」


一瞬で自分との距離を広げて先を走るイリスの動きに、グラベルは思った。


まばらに立つ木を数本通り過ぎると、微かに聞こえていた声が徐々に鮮明になってきた。一人ではなく複数の人の声だった。イリスとグラベルが声のする方向にさらに近づくと、三人の姿が見えた。


馬に乗った二人が、足を負傷してその場に座り込んだ一人の周りを回りながら対峙(たいじ)していた。


「この馬鹿野郎! 追う側を疲れさせるな!」


馬上の男が手に持っていた長い槍で座っている男を突くように脅しながら言った。


馬上の二人は革鎧とその中に着た鎖帷子(くさりかたびら)がちらりと見え、兜は被っていなかった。手に持った長い槍と適度な長さの鞘を腰に差していた。平凡な冒険者の姿と大差ない様子だった。


「助けてください、私はただ雇われた御者(ぎょしゃ)です……。馬車に何が積まれているかも知らず、興味もありません。だからお願いです……」


服の上に赤く染まった傷ついた足を手で押さえ、御者が上を見上げて馬上の二人に言った。


「俺たちもただ雇われた傭兵だってのさ。くっくっく」


「そ……そんな」


馬上の二人が同時に槍を突き出して御者を刺そうとした。


―チャン―


金属がぶつかる音とともに、イリスはいつの間にか御者の前に立っていた。御者を狙っていた二本の槍先はすでに折れていた。


「何だ、てめえは?」


「どこから出てきたんだ?」


近づく気配もなく目の前に現れたイリスの姿に驚き、馬の轡を引いて落ち着かせながら、二人の男が折れた槍の柄を地面に投げ捨てた。


「道を歩いていたら、あそこにいる方が落とした馬を捕まえたんです」


グラベルがゆっくりと足を運び、御者に向かって歩いてきながら言った。


「ど、どうか助けてください。冒険者様たち。あそこにいる盗賊どもが、通りかかった私たちの馬車を襲ったんです」


「盗賊ども? ハッ! 今度は助けが来そうな奴らが現れたら、態度が変わるもんだな?」


「盗賊と言いましたか?」


グラベルが馬上で喋る男の言葉を無視して御者に尋ねた。


「そうです。そうです! こいつらは盗賊です!」


「とりあえず治療した方がいいですね」


グラベルが手を差し伸べて御者に回復魔法を施した。


「いや。お前ら三人はここで死んだ方がいいぜ!」


―スルルン―


剣が鞘から抜かれる音とともに、馬上から剣を振り下ろして馬の下にいたグラベルとイリスに向かった。


「イリス」


魔法を施した御者の足の傷が()えるのを確認し、視線を御者に固定したまま、グラベルがイリスの名前を呼んだ瞬間、馬上の盗賊二人のうめき声が聞こえた。


「くぅうん」


「ぐぅうっ。何が……」


馬上で剣を振り上げたまま、馬上の二人の動きが止まっていた。首に引かれた赤い線から血が流れているのを認識した盗賊の一人が、一方の手で首の傷を押さえようとしたが、剣のような暗赤色(あんせきしょく)の血が押さえた手を越えて首を伝って下に流れ落ちた。もう一人の盗賊も自分の首を押さえようと手を首に持っていこうとしたが、噴き出した血とともに馬の下に体を支えきれず、そのまま地面に倒れ込んだ。


「血が飛び散りませんでしたか? グラベル様?」


抜いていた剣を鞘に収めながら、イリスがグラベルに尋ねた。


「ああ。おかげで一滴も」


二人の盗賊が地面に落ちる音に続いて、グラベルがイリスに答えた。それから一方の手を御者に差し伸べて、御者が立ち上がれるように助けた。


赤く染まった布の間の足の傷はすでに癒えており、御者は一瞬で足の痛みが消えたのが不思議なように、手で傷のあった場所を揉んだり、その場で立って跳ねてみたりした後、グラベルの手を掴んで感謝を述べた。


「命を助けていただき、しかも治療まで。本当にありがとうございます」


御者はグラベルの手に自分のもう一方の手も重ねてしっかりと包み込んだ。二つの手で包み込み、感激に満ちたように何度か慎重に手を振って、自分の気持ちを伝えた。


「いえいえ。それより、馬車が襲われたと言っていましたが、詳しく話してくれますか」


「はい。プロイクトンまで、華麗な鎧を着た騎士様がトルで購入した馬車一杯の荷物を運ぶ馬車を運転してくれと雇われました。大きな鍔の帽子をかぶった女魔法使い様もいらっしゃいました。でも騎士様が一日でも早く行かねばならないと、明け方から出発しようと急かされました。日が昇っていない時は危険だと私が言ったのですが、護衛の兵士たちがいるから、盗賊どもなどどうにかなるだろうとおっしゃって……」


「今、馬車の位置はどこですか?」


グラベルが腰から水筒を取り出して渡しながら、御者に尋ねた。


「お二人はプロイクトンから来られたのですか?」


「はい。私たちはプロイクトンからトルに向かっていました」


「それなら、街道を八道ほど下れば着きます。でも、お二人が行かれても大丈夫かは……」


「何か他の理由があるんですか?」


困ったように言葉を濁す御者の言葉に、グラベルが質問した。


「いえいえ、ただ、この盗賊どもの数が膨大だったんです。逃げるのに必死で詳しくは見えませんでしたが、少なくとも五十人は超えていたと思います」


「それなら大丈夫です」


「ええ? 五十人と言いましたよね?」


「はい。逃げるのに必死で詳しくは見えなかったが、五十人は超えていたとおっしゃいましたね」


「冒険者様は強いんですね、どんなに盗賊どもとはいえ……それでもそんなに多いと聞かれても……」


御者が驚いた目でグラベルとイリスを交互に見つめ、手に持った水筒を飲んだ後、グラベルに返した。


「それじゃ、私たちの代わりにプロイクトンに行って助けを呼んでください」


「はい。それがいいですね。冒険者様も、むしろ私と一緒にプロイクトンに戻られるのはいかがですか? それとも、私がプロイクトンの兵士たちを連れて戻るまで待っていてください」


自分の命を救ってくれた恩人に、御者ができるのはそれだけだった。どんなに冒険者が強いと言っても、五十人を超える敵を相手に二人の冒険者が勝つというのは想像しにくいことだったので、無駄な命を失わせないよう、御者はグラベルを説得しようとした。


「それなら、周りに隠れて待っています」


どうしても心配で足を踏み出せない御者が、グラベルのその言葉で安心したのか、死んだ盗賊の一人の馬に乗り、グラベルとイリスに再び感謝の挨拶をした。


「それでは、お二方、私がプロイクトンから兵士たちを呼んでまいります。どうか安全な場所に隠れてお待ちください」


何度も念を押した末に馬に乗った御者が、イリスとグラベルから離れていった。


「早く行こう、イリス。話からすると、少し道を下れば着きそうだ」


「はい。それでは、私が先を走りましょうか?」


「いや、今度は一緒にいくよ。速度強化の魔法を使うから」


グラベルが両手を広げると、濃い青い光が二人の足元から揺らめいて広がった。続いて魔法陣の光が収まり、その場に残った小さな粒子が空中に舞い上がり、イリスとグラベルを包んだ。


「行こう! これなら馬に乗って行くより速く行けるよ」


二人の姿が一瞬で森を抜け、街道の上へ、そしてその道に沿って移動した。

「プロイクトン·トル街道:盗賊出現率★★★★★」


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