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18話-ドレイク捕り (11)

「グラベル~、イリス~さん。何してるの?」


クラウが野営地(やえいち)の外の木にもたれて休んでいたグラベルとイリスに向かって手を振って挨拶しながら近づいてきた。


「あ、クラウさん、からだの具合はどうですか?」


「へへ。何とか、おかげさまで、前より良くなったかな?」


「良かったですね。でも、何か用でみんな集まって行ってるんですか?」


「あ! それなんだけどさ。これからドレイクの解体(かいたい)作業を始めるんだ。グラベルなら興味ありそうだけど…一緒に来ない?」


クラウが遠くにあるホーンドレイクの死体を指さしながら言った。


「もちろんです。今から始まるんですか?」


ドレイクの解体作業はゲームでも見られない珍しい場面だろうと思ったグラベルの心の中に沈んでいた好奇心が再び発動した。座っていた場所から立ち上がり、クラウを先導してグラベルが早足で歩き始めた。グラベルがドレイクの死体がある場所に近づくにつれ、賑やかな人々の声が聞こえ始めた。


「ヌルテン! これ受け取って…」


「これは油鍋に入れればいいんですよね?」


「いや、それは圧搾機(あっさくき)に持って行かなきゃ。」


死体の近くに到着したグラベルの目に映ったのは、あちこちで皮が剥がれたドレイクの解体に忙しい狩猟団の人々の姿だった。エト、ラト、ウクの指示に従って、人々が忙しなくドレイクの肉や内臓(ないぞう)、皮、骨などをあちこちに運んでいた。


グラベルが首を傾げながら解体中のドレイクの周りをうろついた。骨に付いた肉を繊維に沿って、大きな棒の先に付いた独特な形の刃の解体用ナイフが肉を切り裂き、油の多い肉は隣に置かれた鍋の横に積まれていた。ドレイクの血の匂いが死体の近くに濃く沈んでいた。


少し姿が見えなかったクラウがウクと共に再び現れ、グラベルに声をかけた。


「よっ、グラベル、こっちは俺たちの骨加工担当のウク! 一人で遊んでるみたいだから連れてきたよ。」


「こんにちは。グラベルです。」


「こんにちは。あの…角…パシャック! 魔法使いさん。うふふふ。」


「あっ! その角が問題になるんですか? すみません…」


グラベルが頭を下げて謝ると、ウクが両手を振って手を振って慌てた。


「いえいえいえ。いいんですよ、角はすでにエトが剣で削ったのもあるし、魔力が宿った角は折れた大きな角の後ろにあった小さな角だったから、大きな角は折れても大丈夫です。どうせ運ぶなら細かく砕かなきゃいけない角だったし、心配しなくていいです。」


「良かったですね。でも、ドレイクの角にも魔力が宿るんですね…」


グラベルが安堵の息を吐きながらウクに尋ねた。


「角付きのやつはこいつが初めてだから…確実には言えないけど、骨は確かに魔力が宿ってるものがあります。大抵は頭蓋骨(ずがいこつ)や心臓近くの肋骨(ろっこつ)に宿ることが多いですよ。ここ、この魔道具で確認するんです。」


ウクが自分の腕をグラベルに差し出して、手首に巻かれた魔道具を見せた。


ウクが差し出した魔道具は薄い青銅の輪に黒い宝石の欠片がびっしり嵌め込まれていて、中央にはかすかに青い光が渦巻く小さな水晶の玉が嵌め込まれていた。


「へへ、イクスターンで高く買ったんですよ。」


「おい二人! ここで何してんだ!」


ウクとクラウの後ろから近づいてきたルセンが二人の頭を掴みながら言った。二人の頭がルセンの大きな手に包まれて苦しんでいた。次第に力を入れて強く握るルセンの前腕が彼の怒りを示すようだった。


「うぐぐっ! そ、そ、俺たち今やってる解体作業をグラベルに見せてたんですよ。」


「忙しくて死にそうなんだけど、そんなの見せる時間なんてどこにあるんだ! クラウ、お前これ持ってラトのところ行け。」


ルセンが近くのテーブルの上にあった長い棒にシャベル状の刃が付いた道具をクラウに投げてよこした。


「はーい、行きますよ。あ、じゃあまたね。グラベル。」


クラウが肩を落として、手に持った解体道具を地面に引きずりながらトボトボと歩いて行った。


「クラウ~、それの使い方知ってるよな? ただ皮と肉の間に押し込んで、ずーっと押せばいいんだよ!」


「はーい…使ったことありますよ…使いすぎましたよ…」


ルセンに振り返って質問に答えたクラウが再び背中を見せて歩いて行った。


「じ、じゃあ俺は骨を…手入れに。へへへへ…」


ウクがこっそり自分の頭を掴んでいたルセンの手から抜け出して逃げようとした。


-ぐうううっ-


「うぐぐぐっ!」


「お前どこ行くんだ! どうせ今やってる皮と肉の作業が終わるまでは特にやることもないだろ。」


「僕が手伝えることありますか?」


グラベルがルセンに言った。


「おお? 手伝ってくれるならありがたい。ついて来いよ、このドレイクの野郎がちょっと大きめだからさ。処理する肉が果てしなく出てくるんだ。」


ルセンが片手にはまだウクの頭を掴んだまま、グラベルに自分について来るよう手のひらをパタパタさせて合図した。


「どれどれ、肝臓と心臓は綺麗に切って塩漬けにして壺に入れたし…腱も…とりあえずエトに剥ぎ取るたびに渡さなきゃ。」


ルセンが独り言のようにやるべきことを整理しているようだった。


「僕がエトのところに行きましょうか? 腱を漬ける溶液も準備しなきゃですし。」


「何? お前は俺とやることがあるよ、見ろよこの肉たち? これ全部燻製(くんせい)しなきゃ。塩漬けにするのは塩漬け、ジャーキー用は別に薄く切って、胡桃(くるみ)の木の欠片を燃やして燻すからそれも準備しなきゃ。」


ルセンが山積みの肉が積まれた長いテーブルの真ん中を指さしながら言った。


「ひいっ! これ全部いつやるんですか、パラトは? 助手はどこ行って俺と冒険者さんまで必要なんですか…」


「パラトも忙しいよ。今からこの冒険者さん、え…だから名前が…?」


「グラベルです。」


「グラベルさんはじゃあ俺の助手のパラトを手伝ってくれよ。おい~! パラト!」

ルセンが大声でパラトを呼んだ。


「はーい、ルセン先生。」


ルセンの言葉に積まれた肉の山の後ろから白い頭巾を被った小さな女性が小走りでルセンに向かって歩いてきた。丸い顔と大きな目の可愛らしい容姿(ようし)とは似つかわしくない赤い血の染みが頭巾と服のあちこちに見えた。


「こっちの冒険者さん――いや、グラベルさんが手伝ってくれるって言うから、君が今やっていることを少し分担(ぶんたん)できるように、やり方を教えてあげて。」


「え? え…。今ドレイクの内臓を叩き潰してる最中なんですけど?」


パラトが困ったように言い淀んだ。


「どうして? 何が問題だ。」


「これ、臭いもすごいし、私たちの狩猟団の人たちも大変がってるんですよ…」


「だから? この冒険者さんがそんな仕事やるには繊細(せんさい)すぎて見えるってか?」


出会うすべての女性の心を揺さぶるほどの容姿ではなかったが、狩猟団の人々の中でのグラベルの容姿は目立っていた。特にルセンの隣ではなおさら。


「違いますよ! ついて来てください、グラベルさん。」


頭を下げて赤くなった顔を隠し、体をくるっと回してパラトが先頭に立って歩いて行った。


積まれた肉と沸いている油鍋を通り過ぎ、ドレイクの暗赤色の内臓が置かれた広いテーブルの前にパラトがグラベルを案内した。


「とりあえず使える部位は全部私が洗ってきました。ここ、このナイフで細かく刻んでくれればいいです。」


「はい。それじゃあ、こっちのナイフを使います。」


グラベルがテーブルの上に刺さっていた刃の広い短いナイフを抜いて、テーブルの上の内臓を切り始めった。


「ところでこの内臓たちは何に使うんですか?」


二人の間の静けさが気まずかったので、グラベルが口を開いてパラトに尋ねた。


「細かく刻んで塩に3日くらい漬けた後、燻製にして石で3日くらい押さえつけるんですよ。」


「ジャーキー?…ああ、干し肉みたいなものか?」


プロイクトンで生活しながら簡単なジャーキーくらいはグラベルも作ったことがあったので、自分が知っているジャーキーと違う製法(せいほう)かと思ってパラトに尋ねたのだった。グラベルが知っていたジャーキー作りの工程は、脂肪を除去した肉に雑貨屋で買った塩と香辛料(こうしんりょう)を塗った後、一晩中焚き火のそばに木の枝を折って作った台に掛けておけば完成する簡単な製法だった。


「うーん…干し肉と似てるけど、内臓で作るから干し肉よりずっと時間がかかりますよ。その代わり、完成した干した内臓の欠片を熱いお湯に入れるだけで香ばしい内臓スープになるんです! 干し肉よりずっと美味しいですよ。」


食べ物の話になるとパラトの目つきが変わった。


「おお…。いつか食べてみたいですね。」


「今作ってあげましょうか?」


「え?」


「今作れますよ、内臓スープ。」


「はい。お願いします。」


パラトが自分の服に付いたいくつかのポケットを探った後、小さな袋を取り出した。


「これは前回のドレイクを捕まえた時に作っておいたんですよ。」


パラトがグラベルの前から少し席を外した後、湯気が立ち上る小さな木の(わん)を手にして再び現れた。


「召し上がれ。即席ドレイク内臓スープ。」


パラトが碗を差し出してグラベルに渡した。


「甘い味に、香ばしいまで。美味しいですね。内臓で作ったから雑味が少しはあるかと思ってました。」


「ひひ。秘伝(ひでん)の調味料で漬けた後燻製したんですよ、今回のも完成したらお渡しします。ルセン先生が一緒に狩りした冒険者の皆さんに分けてあげるって言ってましたから。」


グラベルの褒め言葉に機嫌が良くなったパラトがにこにこ笑いながら言った。


少し後、パラトとグラベルの手さばきが素早く動いていた。内臓を細かく刻む音とテーブルの横の水桶から水を汲んでテーブルの上のまな板を洗う音が繰り返し聞こえた。


時間が経つとテーブルの上のあんなに多かった内臓はなくなり、もう顔をしかめて息を切らしながらテーブルの上にドレイクの内臓を運んでくる狩猟団の人々が来なくなった。


「ふう~。グラベルさんのおかげで凄く早く終わりましたよ。」


「お役に立てて良かったです。」


「うははは。飯食おう、飯! お疲れ、パラト。グラベルさんもお疲れ様!」


パラトの身長と同じくらいの巨大な鉄板と大きな肉塊が刺さった串を両手に持ってルセンがパラトとグラベルに近づいてきた。


「ルセン先生!」


「うん。そろそろみんなお腹空く頃だろ! だから何か食わせて仕事させなきゃ!」


その後、狩猟団と冒険者たち全員が野営地の真ん中に集まって再び食べ物と酒を食べる席が設けられた。ルセンの鉄板からは香辛料を塗った肉焼きの煙が焚き火のそばに立てた串料理から滴り落ちた油が作る煙と混ざって幻想的な香りを作り出した。


完成した料理が全員に分けられ、食べ物を受け取った全員が目を閉じて肉の味を味わうと、心地良い音楽の音が耳と顎をくすぐるような感じがした。料理は絶え間なくルセンの手に持たれて出てきて全員の皿を満たした。玉ねぎと人参を炒めてハーブを巻いて焼いたドレイク肉料理の登場には全員の目と鼻が集中した。


まだやるべきことがたくさん残っていたが、美味しい料理と楽しい時間を過ごしながら酒を飲む瞬間だけは、皆この瞬間が続いてほしいと願う気持ちだった。


深い夜が来てからかなり経ったが、夜を照らす橙色の焚き火の周りでは日が昇るまで笑い声が聞こえていた。





*****


ホーンドレイクが倒れた後、肉、骨、油などを加工して処理するのにはさらに3日の時間がかかった。狩猟団の馬車にはドレイクの油が入った壺と乾燥した肉たち、小さく切った骨と爪、そしてドレイクの牙でいっぱいに詰められた。グロマイヤーがいつもドレイクたちを呼ぶ愛称『歩く黄金の塊』という言葉が理解できるほどの莫大な量の金貨に変わる商品たちと共に、プロイクトンへ狩猟団と冒険者たちは帰ることができた。

そしてまた数日後の朝。冒険者ギルドのホールではグラベルとイリスが依頼を受けるために受付台前の長いベンチに座っていた。


「おい! グラベル。」


「こんにちは。」


グラベルが嬉しそうにクラウに挨拶した。


「俺たちはこれからイクスターンに出発だよ。イクスターンの南側の海岸(かいがん)に飛ぶタコが現れる季節が近づいてるから。」


「タコが飛ぶんですか?」


「うん。翼もない奴らが海岸に数千匹飛んでくるんだ。正確に言うとタコじゃなくて別の名前だったんだけど、何だったかな? まあ、見た目はタコに似てるよ。」


「狩猟団の方々はドレイク以外も狩るんですね?」


「まあ、新しいドレイクを探す前に副収入を稼ぐためさ。ふふ。」


「それにしても、気になりますね。空を飛ぶタコみたいな生き物だなんて…。それにイクスターンは大きな都市だって聞いたけど、どんな感じですか?」


「凄く大きいよ。プロイクトンの50倍? 100倍? いやもっとかな? イクスターンの一方の城門(じょうもん)から一番近い別の城門に行くのに一日以上かかるから。」


話すクラウの顔には馴染みと懐かしさが混ざっていた。


「想像もつかない大きさですね。ただ大きな都市だって聞いただけなのに。」


「うふ。どう? この機会に大陸一の都市に行ってみるのは?」


「はは。お誘いありがとうございます。でも今回は僕たちは南側のトルっていう都市に行ってみようと思ってます。」


「トル? よく聞いたことあるな。あ~あ! ラトゥール洞窟道(どうくつどう)がある都市だろ?」


「はい。そう聞いたんです。山脈(さんみゃく)を貫通する巨大な洞窟道がある都市だって、冒険者のドシェルさんがおすすめしてくれました。」


「うん…。あっちにはダウィとムワもいるし、ノルワン山脈の向こうの西側にはエルフたちも住んでるからな。」


「ダウィ? ムワ? 初めて聞きましたよ? エルフたちの土地だってのは聞いたことありますけど…」


「あ? それ聞いてなかったか? ダウィは熊の獣人(じゅうじん)で、ムワはフクロウの獣人だよ。」


「おお、獣人か…」


グランドワールドには存在しなかった種族だったため、グラベルが興味を示した。隣で二人の会話を聞いていたイリスも『熊の獣人』という言葉には首を向けてきらきらした目で反応するようだったが、5キュビト(2.5m)を超える巨大な獣人族だというクラウの言葉を聞くと、すぐに興味が失せたようだった。


「じゃあ、いつかイクスターンに来たら西の城門でマズ家を探してくれ。あの辺の人ならマズ家はみんな知ってるはずだよ。クラウ・マズの友達だって言えばいいよ。それじゃ……」


「はい。それじゃ、無事にイクスターンに到着するのを祈ってます。」


「じゃあ、いつかまた会おう。」


クラウ、グラベル、イリスの三人がお互いに頭を下げて挨拶した。

私は痛風のために内臓スープが食べられません。(泣)

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