15話-ドレイク捕り (8)
「来たぞ~、団長!」
エコーが響くウクの声。茂みを掻き分けて、ラミル狩猟団のバリスタが設置された広い空き地に向かってウクが走ってくる。夜明けから狩猟団の人々が組み立てておいた巨大なバリスタ、パリントノンが、ウクが走ってきた方向に向かってその先端の照準点を移動し始めた。
パリントノンは高さだけで10キュビット(5m)に達する巨木で構成された投射兵器だった。全体の構造は固く編まれた太い木々でできていて、各部材は節と継ぎ目で精密に連結されていた。兵器の上部には二つの丸い木軸が乗せられており、その周りを何重にも捻られた弓弦が巻き付いていた。弦は固く捻られており、発射の瞬間を待つかのようにピンと張り詰めていた。
発射台を支える支持枠は五人の肩幅ほど広い脚四本で構成されており、その下には狩猟団員が上り下りできるように木製の梯子が設置されていた。弦を引いて放つ装置はすべて木製の歯車と取っ手で構成されており、鉄釘一本なく木材と革紐で組み立てられていた。作業中の狩猟団員たちと比較すると、パリントノンの規模は実に巨大で、その存在だけでこの狩りが平凡なものではないことを示していた。
兵器の横にはグロマイヤーが立っていた。赤い髭が風に揺れていて、パリントノンを見つめる彼の眼差しは静かだが堅かった。史上最高のドレイクという伝説的存在を狩るために、ラミル狩猟団はこの木材の怪物をおびき寄せたのだ。
「クルート。聞こえるか? んむ・・・。これ聞こえてるのか? お~い、ルタン! これちゃんと動いてるのか?」
片手にルタンが渡した魔道具を振り、もう片方の手で自分の顎髭をいじくりながら、グロマイヤーがルタンに言った。
しかし、ギシギシと音を立てて捻られる縄とパリントノンの歯車が噛み合う音が、グロマイヤーの声がルタンに届くのを妨げていた。
「団長。グロマイヤー団長~!」
再びルタンに向かってより大きく叫ぼうとした直前、グロマイヤーの手に持った魔道具からクルートの声が聞こえた。
「はい、よく聞こえます。団長、来てますよ。頭に角の生えた巨大なドレイクが・・・今すぐそちらに到着します!!」
グロマイヤーはパリントノンの下で、依然としてギシギシ音を立てて兵器を操作していたプロンとバリスタ班員たちに向かって大声を上げた。
「速度を上げろ! 早く! もっと早く!」
「うわあああ!」
「はっ・・・はっ・・・力を・・・もっと入れろ!」
狩猟団員たちの肩が上下し、腕や脚に太い筋が浮き出た。弓弦を巻き上げる兵器の軸が鈍い音を立てて回り、横でドンドン響く足場の振動が地面を伝わってきた。
弦を引いていたトリンがバランスを崩して膝をつくと、グロマイヤーが駆け寄った。彼は頑丈な腕で取っ手を掴み、目を剥いて叫びながらパリントノンの弦を引き始めた。
「早くぃぃぃぃ! ぐわああ!」
パチッと袖口が裂ける音。赤い髭の下に汗の滴が流れ落ち、グロマイヤーは両足を地面に固定するようにしてパリントノンに力を注ぎ込んだ。巨大な弓弦がゆっくりと、しかし確実に固定位置まで巻かれ、徐々に緊張を高めていった。
-ガタン-
噛み合って動いていた歯車が止まり、グロマイヤーの目に暗い青色の巨体が見え始めた。巨大な前足を大きく動かし、道を塞ぐ小さな木々などを倒し散らし、ラミル狩猟団のパリントノンが待っている場所に向かって近づいてきていた。
「くあはは! やはり汚らしくでかいな! ドレイク野郎! ラミルのオヤジに捧げる贈り物として不足はないぜ!」
グロマイヤーだけでなく、周囲の他の狩猟団員たちにもホーンドレイクの姿が見え始めた。
狩猟団の人々も初めて対峙する想像外の大きさのドレイク、雇われたルード一行と熟練の冒険者であるドシェルとトゥラロックも見たことのない大きさの巨大な怪物だった。
「うわあ・・・」
「ものすごい大きさ・・・・」
「ふぅ~い。他のドレイクとは・・・、比較にならないわね?」
「本当に角があるね? ホーンドレイクって呼ぶにふさわしいよ・・・」
「こんな怪物と戦うのか・・・」
ホーンドレイクの圧倒的な大きさに萎縮して、むしろ獲物を待っていた狩人たちが動揺した様子を見せていた。
「団長、準備が整いました。いつでも発射できます!」
ルタンがグロマイヤーに叫んだ。
「僕たちもまた出る準備ができましたよ、団長。」
いつの間にかグロマイヤーの傍に近づいてきたラト、ウク、エトがグロマイヤーに言った。ドレイクをおびき寄せに行く前の姿とは変わった様子だった。重ね着した厚い金属製の鎧と、隙間がほとんどないクローズドヘルム、そしてその大きさが大きすぎて地面に引きずって動かさなければならない大型両手剣を武装した状態だった。
「おお、そうだ! よ~し! よし! よし! よし! 準備しよう。冒険者の皆さん! 僕らの頼もしい魔法師の皆さん! 僕らに強化魔法を!」
グロマイヤーが叫んだ。グロマイヤーの指揮に合わせて、冒険者のヴァリードとドシェルが魔法を詠唱し始めた。目を閉じて集中し、地面に広がった魔法陣に向かってマナを流すと、少しずつ魔法陣の文様が明るく光を発した。
そうして狩猟団と冒険者たちの戦闘準備が終わる頃、ホーンドレイクも自分を待っていた小さな狩人たちが集まっているのを発見した。小さくて苛立たしい人間を追うのに夢中で忘れていた、背中に刺さった銛の存在に気づき、頭を曲げて口で噛んで抜き取り、地面に吐き出した。
ジャラジャラと音を立てて繋がれた鎖と共に二本の銛が地面に落ち、集まっている人間たちに向かってドレイクが走り出した。
「来るぞ! プロン! 発射準備できたか?」
グロマイヤーが大声で叫びながらプロンに尋ねた。
「はい。中型ボルト三本、準備完了です!」
「よし! 準備~ぃ。」
パリントノンの発射レバー横に立っていたプロンが顔を向けてグロマイヤーに言った。二人とも大きく見開いた目と歯を見せて大きく笑っていた。獲物を捕らえる高揚した意志から出た笑みなのか、それとも目の前のドレイク狩りの新たな歴史を記録する獲物に直面した興奮からなのかはわからない、そんな笑みだった。
「エト~お! ラト! ウク! 行けぇぇ!!!」
「うおおおおお!」 「おおおお!」
三人がパリントノンが向いている方向に向かって走り出した。エトは肩に両手剣を担ぎ、ラトとウクがエトの左と右に先んじて進む。敏捷な動きではなかったが、重い中甲がガチャガチャと鎧の部位が互いにぶつかる音を出し続け、歩みを進めるたびに響いた。
「くあ~、くへ~、エトお、この・・・毎回やるたびに・・・きついよぉ・・・」
ラトが息を切らしながらエトに言った。
「もう少しだ! あと少し、あと少し走ればいいんだ!」
ホーンドレイクと三人の距離が徐々に縮まり、近づいていった。
ドレイクも自分に向かって走ってくる三人の姿を見て頭を低くし、攻撃の準備をしながら少しずつ歯を見せて口を開け、前へ走っていった。そして三人の距離が自分の間合いに入ったと思ったのか、一番近くにいるウクに向かって口を大きく開けて攻撃した。
「ラト! 今だ!」
「う・・・うん!」
ヘルムの中で響き渡るエトの叫びに、ラトが片膝をついて自分の両手剣を地面に向かって叩きつける。隙あらば練習し、息を合わせてきた三人の約束された動作。
V字型でドレイクに向かって走り出せば、どんなドレイクでも左端か右端のラトかウクに向かって攻撃してくる。そうすれば自然と攻撃を受けない側の人間と一番後ろから追ってくるエトがドレイクの首を狙う。複雑ではないシンプルな約束の攻撃だった。
「うら~あ!」
エトがラトの背中を踏み台にして高く空中に跳び上がる。ラトも自分の背中にエトの重さを感じた瞬間、地面に刺さった両手剣の柄をより強く握り直し、エトが跳躍する瞬間に合わせて自分も体を起こしてエトをより高く空中に送り出した。そして自分の剣を地面から抜き、腰の下の方に後ろ向きに両手剣の刃を向け、前へ飛び出した。
ウクも自分に向かって攻撃してくるドレイクを避けて横へ長く体を飛ばし、地面に転がって攻撃を避けた。
空中に跳び上がったエトが自分の頭上に掲げた剣を空中から下へ振り下ろすと、その重さで両手剣を握ったまま空中で回転を始めた。剣を肩にしっかり担いで柄をより強く握り、膝を曲げて胸の方に折り、回転力を加えた。巨大な剣の竜巻がドレイクに向かって素早く回転しながら叩きつけられた。
「ローリング(Rolling)! マイスター(Meister)!!」
誰かは攻撃前に大きく声を出すのは愚かな行為だと言うかもしれないが、エトはそんなことなど気にしなかった。そもそもどんなドレイクも自分の叫ぶ声を聞いて避けるドレイクはいなかった。それどころか自分に向かって首を向けて襲いかかってくる奴の方が多く、エトの剣に倒れる奴の方が多かったからだ。そしてむしろ空中でドレイクの注意を引き、下から攻撃するラトとウクがドレイクの首を狙いやすくするためにも、大きな声で『ローリング・マイスター』を叫んで攻撃するのは、それなりの理由があった。
今回のホーンドレイクも例外ではなかった。エトに向かって首を上げ、右前足を上げてエトを叩き落とそうとする。
ドレイクの前足がようやく地面から離れた瞬間だった。上げていた前足が止まった。鋭く立てられた爪を止めたのはラトの厚い両手剣だった。巨大な両手剣の刃がドレイクの前足の爪の間に命中し、血が噴き出る。一度噴き出した血をラトが被った瞬間、エトの一撃がホーンドレイクの頭を狙う。
エトが空中での速い回転を止めるために丸く縮めた体を伸ばし、回転力を加えた渾身の一撃をドレイクの頭に向かって叩きつける。
-カガガガガク-
振り下ろしていたエトの剣がホーンドレイクの角に当たって滑り落ちる。
「ちっ。よりによって角に・・・」
エトの攻撃がホーンドレイクの頭に命中した。しかし運悪く剣の刃が当たったのはドレイクの角。頭を斬り落とす勢いで回転力を加えたエトの攻撃だったが、角に引っかかったせいで刃が滑り、角の下辺りに刃が浅く食い込んだ。
痛みを感じたホーンドレイクが頭を素早く振ってエトを吹き飛ばした。
「うわあ!」
短い叫び声と共にエトの体が地面に落ちた。
「エ・・・エトお!」
ラトが剣が刺さったまま痛みに対する反射的な反応で振り回されたドレイクの攻撃を避けながら、エトに向かって叫ぶ。
「げほっ。げほっ、俺は大丈夫だ!」
エトが咳き込んだ後、大きく息を吸って叫び、一方の腕を上げて手を振ってラトを安心させた。
「うわあ~あっ!」
ウクもホーンドレイクの攻撃を避けた後、エトとラトの攻撃に自分の存在を忘れていたドレイクに再び接近し、体に向かって剣を振り回す。他の二人の剣とは違う独特の鋸刃の剣だ。
ウクは狩猟団で骨を加工する職人だ。主にドレイクの歯と爪、そして骨の加工をするため、鋸刃の剣はウクにとって最も大切な道具であり、戦闘にも使いやすい馴染みの武器だった。ウクの攻撃がホーンドレイクの体に命中する。重さが乗った鋸刃の両手剣がドレイクの肉を裂き、深く食い込んだ。
脇腹に食い込んだ鋸刃の剣が与える痛みにドレイクが体を捩り、尻尾を振ってウクを吹き飛ばす。
-ドゥゥゥーン-
パリントノンの捻られた縄の束が解け、激しい音がした後、三本の魔獣用中型ボルトがドレイクに向かって飛んだ。
尻尾でウクを攻撃するために体を捩っていたせいで、三本のうち一本はドレイクを過ぎて地面に刺さり、残りの二本のボルトがホーンドレイクの肩と前足に飛んできて刺さった。
「よし! もう一度いくぞ!」
周囲に響き渡るドレイクの咆哮にグロマイヤーの声が小さく聞こえたが、痛みに満ちたドレイクの咆哮が相手する狩人たちと冒険者たちに勇気を加えた。
Everybody!!ローリング! マイスター(Meister)!!




