14話-ドレイク捕り (7)
グラベルの強化魔法の効果だろうか? それとも高い場所から飛び降りて叩き込んだせいだろうか、厚く見えたドレイクの鱗を貫き、巨大な銛が容易く食い込んだ。続いてほぼ同時に—クチャク—という音を立てて五本の銛がドレイクの背中に突き刺さった。噴き出るドレイクの血、そして痛みに悶えて迸る咆哮が森に響いた。
「よし。全員、退がれ!」
銛をドレイクの背中に突き刺すや否や、後ろに飛び退きながらウェレンが叫んだ。
「はい! わかりました。ウェレ…ン…うわっ!」
銛に刺されたドレイクの傷口から噴き出した血が目に飛び込んだのか、片目を閉じて顔をしかめながら答えようとしたクラウがドレイクの背中から弾き飛ばされた。
他の銛班の仲間たちも危なかった。ボーム(ボーム)はバランスを崩してよろめきながら尻餅をつき、何人かは辛うじて身を転がして地面に着地した。幸いなことに大部分はドレイクの背中に刺さったままの銛から素早く身を離し、無事に退がることができた。
ドレイクが一瞬、体を大きく捻って背中の銛班の者たちを振り落とした後、再びドレイクの咆哮が大きく響いた。怒りの咆哮、自分の背中に痛みを与えた小さな存在たちへの敵意の表出だった。グルルルと唸りながら首を回して、ついさっきまで自分の背中に乗っていた存在たちを探した。背中に刺さっていた五本の銛のうち、さっきの体全体を大きく捻る動きで二本の銛が抜け落ちて地面に転がっていた。
残った三本の銛がドレイクの動きに合わせてガチャガチャと繋がった鎖が音を立てると、その音が耳障りだったのか、刺さった銛の痛みのせいか、ドレイクが首を背中側に曲げて自分の背中に刺さっている銛の一本を口で咥えて背中から抜き取った。
自分の血がジュルジュルと流れている銛を口から吐き捨て、二本目の銛を口に咥えようとした瞬間、ドレイクの頭の周りで紫色の煙の塊がポンという音を立てて爆ぜた。
「いいよ〜、こっちだよ、こっち!」
エト、ラト、ウクの三人だった。弩で小さな袋を射ったのがさっきの紫色の煙の正体だった。エトが手に持った弩を高く掲げて振りながらドレイクに叫ぶ。
「こっちだーよー! 何してる、ラト。早く早く!」
エトが持っていた弩を、エトの傍で弩の弦を引いていたラトに差し出しながら、次の弩を渡せと急かした。
「よ···。ここー」
ラトが素早くエトの弩を受け取り、自分の弩を渡した。
—ヒュルルル—
弩が射った袋が末端に付いた紐飾りの影響か、独特の音を立てて飛んでいた。
飛んでいった小さな袋が再びドレイクの角に当たって紫色の煙を立ち上らせた。
「じゃあウェレンー、予定通り私たちは先に行ってるねー」
見えないウェレンを向いて最後まで叫んでいたエトは、すぐに長く伸びた草むらに向かって素早く身を低くして消えた。その直後、ドレイクの眼前で爆ぜた紫色の煙の残骸が虚空に散らばった。
エトの震盪粉が効果を発揮したようで、ドレイクは何度も頭を左右に振った後、エトが消えた方向に向かって走り出した。
まだドレイクの背中に深く刺さった二本の銛はそれぞれ近くの岩柱に鎖でしっかりと固定されていたが、ドレイクの無茶苦茶な力はそれさえも無力化した。鎖がピンと張られて金属が捻れる音が連続して響き、岩柱はついに耐えきれず鎖ごと引き抜かれて崩れ落ちた。
岩が崩れる音とともに砕けた石片が飛び散り、土埃と石粉が広がって視界 を覆った。
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「うん···。どうしたんだ? ゲホッ! 何が···あったんだ。」
ドレイクの背中に繋がった鎖が岩から引き抜かれて崩れた岩柱の余波で、その周辺は埃が満ちていた。そんな埃だらけの崩れた岩から少し離れた木の下にクラウが背を凭れかけて座ったまま咳を吐き出しながら目を開けた。
「あ、目が覚めたんですね。」
「起きたか、新入り。」
目覚めたクラウを迎えたのはグラベルとレサだった。レサが腕組みをして隣の木に凭れかかりながら、血が流れている傷ついた肩の辺りをグラベルに治療してもらっている最中、クラウが目覚めたのだった。
「あはは···。はい....。それで奴は?」
凭れていた木を支えに立ち上がりながらクラウが周りを見回して言った。
「エトたちが誘引して連れていったよ。どうせあんなデカい奴が鎖銛で止まるはずもないけど、それでも一発、いや五発は食らわせたんだから、少しはダメージを与えたはずさ...。それにウェレンたちとスミル、ボームはすぐ追っかけたよ。」
「あ。そうか···。すみません。僕のせいで...」
「何言ってるのさ。まさか今度は「“新入りじゃない”クラウ様」をお守りするために私が残ったと思ってるの?」
「違うんですか?」
回復魔法の気配がレサの腕に満ちると、治った肩をぐるぐる回しながらレサがクラウに向かって歩いてきた。小さな声でグラベルに『ありがとう』と感謝の挨拶をするのも忘れなかった。
「勘違いしないで。新入りじゃないクラウ様。私もさっき奴が暴れた時に崩れた岩柱の石に当たって怪我しちゃって遅れたんだよ。ウェレン班長が私の分は残しといて狩るからちゃんと治療受けて合流しろって言って遅れたんだよ。」
「あ~。はは。そうなんですね···。じゃあ早く行きましょう。ウェレン兄貴の方に早く合流しないと...」
レサと会話を交わしながらクラウが何かを探すように周りをきょろきょろ見回していた。おそらく岩柱に繋がった銛を使うために岩柱の上に登る前、近くの木に立てかけて置いた 魔石ランス を探しているようだった。
魔石ランスが元々置いていた場所に見えないと、クラウの表情がだんだん固くなっていった···。当惑感に背中から冷や汗が流れそうになった瞬間、レサがクラウに探していた魔石槍の位置を指先で示しながら言った。
「ほら。あっちにあるよ、お前の 魔石ランス 。さっきあっちのイリスさんが持ってきて置いてくれたよ。」
遠くでドレイクが走り去った方向を眺めていたイリスが、自分の話のような声が聞こえたのでクラウとレサの方を振り向いた。
「ありがとうございます! イリスさん、ありがとうございます。」
イリスに向かってクラウが深く頭を下げて感謝の意を伝えた。
「じゃあ、出発前に速度強化の魔法をかけるよ?」
レサの治療を終えた後、着ていた外套の埃を手で払いながらグラベルが言った。
「お願い、グラベル。」
クラウの言葉が終わると同時にグラベルが手を伸ばして魔法陣を展開した。
「あ、いや、私は魔法は別に...」
「えっ! もう詠唱しちゃったのに...」
すでに魔法は詠唱を終えていて、それほど高レベルの魔法ではなかったので、詠唱を途中で止める間さえなかった。
「ふん。ま、いいか。先に行った他の人たちと合流するための強化魔法なんだから。」
埃まみれの濃い茶色の髪を紐で結んでまとめながらレサが言った。レサが強化魔法を拒否するのには特別な理由があったわけではない。ただ単純なドレイク猟師の潔癖だった。『純粋な猟師の力で獲物を相手にする』という考えから、これまで強化魔法を拒否して意地を張っていたのだった。
「ただ受けなよ。団長さんが私たちのグラ~ベルを雇うのに大金かけたんだから。」
クラウがグラベルに向かって片目をウィンクした。
強化魔法の魔力が二人の体に染み込むと、温かな気配が足先からゆっくり体を這い上がって広がった。息遣いが軽くなり、固くなっていた手足が柔らかく解けるような感覚だった。ぼやけていた視界が澄み渡り、焦点がはっきりした。まるで体を圧し潰していた、地に引きつける何かが一枚剥がれ落ちたような軽さが感じられた。
「どう? 体が軽いでしょ? これ本気なんだから。」
「ふん! それでもまた狩りが始まる時はダメだ。」
レサがその場で空中に飛び上がってグラベルが詠唱した速度強化魔法の効果を体感していた。
「えー···。それでも···。いや、レサ姉貴は強いから~」
「今、皮肉ってるのか? クラウ? 魔法で強化されたついでにいつもより速くぶん殴ってやろうか?」
「いえ、いえ。本心から出た言葉ですよ。早く行きましょう。遅れるよ。遅れるー。」
クラウが逃げるように先を走り出した。
番外編:ドレイクを待ちながら
ラミルドレイク狩猟団の銛班の人々が岩柱の上からドレイクを待っている頃。グラベルはイリスと共に岩柱から少し離れた岩に向かって歩いていた。岩柱と言うには太く、岩の丘と言うには小さい、そんな定義しにくい大きな石塊だった。高さも適度で銛班の人々がドレイクを狩る様子がよく見えそうなので、そこに待機することに事前にクラウとウェレンに話しておいた状態だった。
『レイドモンスターなら···。いくらレベルが低くてももう少し強力な威力の魔法に耐えられるかな... いや、低レベルだという証拠もないじゃない...』
目的地の大きな岩に向かって歩きながらグラベルはいろいろなことを考えた。これまでプロイクトンさまざまな依頼を受けて遂行してきたが、こんな大規模な人数が参加する依頼は初めてだった。だから内心期待はしていたが、ただ期待だけできるわけではない···。もし期待に届かずドレイクがあまりにも弱い存在だったり、逆に予想以上に強い存在だったりするのが測れないからだった。
浅はかな考えかもしれないが、グラベルが詠唱した魔法やイリスの攻撃に虚しくドレイクが倒れる可能性もある。あるいはその逆で自分の予想の範囲を遥かに超えた強さなら? その時はどうするかもいろいろな対策を考えなくてはならなくて頭の中が複雑になる。
まだこの世界に完全に適応したとは言えない。すべてが不確実な今は、もっと多くの情報を集めて把握しなければならない時期だ。迂闊に動いて、必要以上の注目を集めるのは一番避けなければならないことだ。
逃げるのはいつでも可能だが、残った人々を置いて自分とイリスだけ逃げたら後事がもっと複雑になる。雇われた冒険者としても、一人の人間としてもそれはできない。
「イリス、どう思う? 今回のドレイク狩り。」
「え? 私は特に意見はありません。グラベル様をお守りすること、それ以外はグラベル様がお下しになる命令に従うこと。」
「ふむ。まあ···。(こいつに意見を聞いても...)」
歩みを止めずに歩き続けながらグラベルが考えを整理する。そして少し後、再び口を開いてイリスに言った。
「じゃあ私の考えを言ってみるよ。まず結論から言うと、私たちはドレイク狩りに直接的には参加しないよ。雇われた冒険者としての役割だけするんだ。怪我した人に回復魔法をかけてあげたり、強化魔法を詠唱しながら。例外があるとすれば君と私、そして今回の狩りに一緒に参加する人たちの誰かが命を失う危険がある場合にだけ、私たちの力を全力で発揮するってことにしよう。」
「はい。グラベル様、わかりました。」
「あまりに一方的な命令かな? 力を抑えすぎて逆にそれが害になって私が危険に陥るんじゃないかって心配してるのもわかってるよ。まあ理由を説明すると簡単なんだけど、たくさんの人の前で私たちの力を晒したくないんだ。少なくとも異世界に来て間もない今は。もう少し···、もう少しだけこの世界を知るまでは。だからそれまで我慢して。」
表向きは静かにグラベルの後ろを歩いていたが、その歩みを一瞬止めるほどイリスは内心驚いていた。自分が抱いていた小さな不安さえ見逃さずに言ってくれることに驚き、そして自分の命令について理解させて了解を求めたことに驚いた。いや驚いたというより感動した。
「いいえ、グラベル様。グラベル様の安否に問題が生じないのであれば、どんな命令をお下しになっても従います。」
「そうだ···。理解してくれてありがとう、イリス。」
普段より力がこもったようなイリスの返事にグラベルが軽く微笑みながら答えた。
速度強化魔法を私も一度受けてみたいですね




