13話-ドレイク捕り (6)
峡谷の奥深くの森の道……。三つの影が慎重に周囲を窺いながら動いていた。腰を低く屈め、膝を少し曲げて姿を小さく見せ、歩く際は音を立てないように歩いた。
ラミル狩猟団の職人三人組、ドレイク狩りの終わりと始まりはこの三人にかかっている。皮を剥ぎ、鱗を加工するラト、肉を解体するエト、骨と牙、そして爪を加工するウク。狩りの終わりはこの三人がそれぞれの仕事を果たすことで終わるが、始まりはこの三人組がどうやって担うのだろうか?
簡単だ。今のようにドレイクのいる場所まで行き、獲物を仲間たちが待っている場所まで連れてくること。だから狩りの始まりと終わりはこの職人三人組が担うのだ。
峡谷の奥、三人がさらに歩き続ける。三人とも皮職人のラトが手入れし、残った皮と鱗を集めて作った服を着ていたため、遠くから見ると誰が誰かも区別しにくいほどだった。
「こ……。こっち。」
一番先頭を歩いていた男が、自分を追って来いと手招きする。残りの二人が後ろについて歩いた。そして三人が同時に止まった。止まった場所には大きな洞窟の入口が見えた。峡谷内のもう一つの峡谷と言ってもいいほど巨大な洞窟の大きさが三人の前にあった。三人が洞窟の入口に近づくと、急な傾斜が洞窟の深いところまで続く道が見えた。
「ラト、ここで合ってる?」
片手で口を覆い、囁くように小さくエトが二人に言った。
「う……。うん……。あの中から匂いがする…厚くて柔らかいドレイクの鱗皮の匂い…」
「ふむ~? どんな匂い? 何の匂いもしないじゃん…おい~ウク!」
「…」
「おい! ウク!!」
「あ? あ、あ! なにエト。」
「匂う?」
「いや、俺昨日水辺で洗ったよ?」
「いや~い、ドレイクの匂い。あの洞窟の奥からするかって。」
「あれ? 何の匂いもしないけど?」
「だろ?」
「でも息遣いは聞こえる…」
「息遣い? どんな息遣…。いや、そうか。あの中にいるってことだろ?」
ラトとウクの二人が頷いた。
「じゃあ準備しよう。ラト、木を集めてきて。俺は火を起こす場所作るよ。ウク、お前も木持ってきて。」
再びラトとウクの二人が頷いた後、洞窟の入口から離れた。
少し後、洞窟の前には薪が人の背丈ほど積み上げられていた。
「さあ~それじゃ薪に油を撒いて。次は震盪粉を混ぜて~。」
エトが薪の山の前で片膝を地面につけて座った後、背負っていた袋を前に回して、袋の中から油瓶を取り出して薪に注いだ。そして青い粉が入った袋を逆さまに振って薪の山の上に振りかけた。
積み上げた薪がさっき注いだ油と青い粉が絡まって青みがかった光を帯びた。
「そして今度は仕上げにこの風を起こす魔道具を薪の横に置い~て。」
「じょ……。じょ心して、前回俺が逆向きに置いちゃって……。お前に怒られたよ…」
「.......わかった。教えてくれてありがとう、ラト。」
少しラトの方に顔を向けて視線を止めたまま見つめていたエトが、袋から取り出した金属製の青緑色の箱を地面に置いた。
「今この魔石を嵌め~ば!」
指一本分の大きさの光る魔石を魔道具に押し込むとカチッという音とともに箱に刻まれた文様が光る。そして周りに立っていたラト、エト、ウクの三人が感じ取れるほど強い風が洞窟の奥に向かって吹き始めた。
「ウク!」
「うん?」
「松明!」
「うん。今作るよ~。」
ウクが慣れた手つきで枝を束ねて松明を作り、火打石で火をつけてエトに渡した。
「さあ、さあ! 狩りの始まりだ!!」
エトが両腕を広げて洞窟の奥に向かって叫んだ。そして松明を力強く高く掲げた。炎がエトの顔を赤く照らし、口角が少し上がっていた。松明を握っている手は微かに震え、息遣いには妙な興奮が乗っていた。
*****
「じゃあお願いね、グラベル!」
峡谷の方から薄い青い煙が見え、少し後には飛行機具から峡谷の方に向かって赤い煙が伸びていった。赤い煙の信号を見た途端、クラウを始めウェレン、スミル、ボームの眼差しが変わった。ウェレンの説明によると青い煙は単なる信号用の煙ではないと言っていた。魔獣狩り用の震盪粉。ラミル狩猟団のエトが沼地の麻痺キノコと山の果実を組み合わせて作った特殊な粉だと言っていた。火に触れると青い煙が立ち上る。
煙を吸ったドレイクはサイズの小さい種の場合、よろめくほど強力だと言っていた。通常は動きが速かったり、少しの間空を飛べるフォレストドレイクの素早い動きを少しでも遅くするために考案されたものだと言っていた。そんな青い煙が空に見えたということは、今すぐ目の前の峡谷の入口からドレイクが飛び出してくるかもしれないということを銛班の者たちは知っていたため、クラウがグラベルに強化魔法をお願いしていたのだ。
一生に一度も強化魔法を受けたことのない四人はどうしたらいいかわからず、ぎこちない姿勢を取った。
スミルは背中を差し出して首を半分振り返り「これ、受ける側が頭を下げるのが正しいかな?」と呟き、
ボームは背後に腕を上げて自分なりに魔法をより吸収しようと両腕と両脚を広げた姿勢を取っていた。
ウェレンは真剣に腰を曲げ、手の甲を太ももに置いた姿勢を取り、
クラウはそんな三人を見て結局両手を腰に当て、「これ何よ姿勢を必ずこう…?」と独り言を吐いた。
グラベルはそんな彼らを見て無理に笑いを堪えた。
「はは。別にそんな姿勢を取らなくてもいいですよ。」
緊張した表情と硬直した姿勢の人々に、グラベルが魔法を詠唱した。
グラベルが掌を広げると五つの異なる文様と色の魔法陣が空中に広がった。魔法陣から出た細い光の糸が前にいる四人に伸びて繋がった。繋がった四人に魔法陣の光が移り、徐々に魔法陣が薄れて消えた。
「うおおおお!!」
グラベルの強化魔法を受けた全員が叫んだ。
「これ本気じゃん?」
「魔法ってこういう感じなんだな。」
「ありがとう、グラベルさん。」
初めて受けた魔法の効果に感想を味わっている頃、遠くの峡谷の奥深くから周囲を響かせる轟音が鳴った。森と峡谷に響き渡る咆哮。その音だけで今日対峙する巨大なホーンドレイクの咆哮だと一瞬で察せられた。
「奴だ! クラウはあっちで俺と一緒に。スミルとボーム。お前らは反対側へ。」
ウェレンが素早く動きながら指示した。四人それぞれ肩に大きな 魔石ランスを担ぎ、ウェレンが指示した方向に散らばった。
「ふむ……。レイドか……。ゲームでもやったことない協力プレイの実現とは。楽しみだ……。」
ゲーム時代の記憶を思い浮かべながら静かに独り言を言い、グラベルが峡谷の方へゆっくりと歩みを進めた。
峡谷の入口周辺にはいくつもの柱のように長くそびえる岩の峰があったが、ウェレンはその中から峡谷の入口に一番近い五つの岩柱を選んで銛組の人々を配置した。ウェレンは地面から8キュビト(キュビト)(4m)ほど離れた岩柱の中間くらいの小さな棚に腰を下ろしていた。そしてその横には岩柱に先端が刺さった太い鉄鎖に繋がれたドレイク用大型銛が置かれていた。
「ふむ…そろそろ来る頃だけど…..」
いつも仕事の始まる前のこの時間がウェレンにとっては一番緊張する時間だった。再び遠くからドレイクの咆哮が聞こえる。まだ距離は遠い。こちらに来るにはもう少し時間がかかる。
また音が聞こえた。おそらくラトの新発明品かエトの矢が効果を発揮しているようだ。激怒ではなくじわじわと沸き上がる苛立ちが混じったような短い咆哮が素早く草を掻き分ける音とともに聞こえてくる。
「おお? そろそろお越しになるかな?」
ウェレンが腰を下ろしていた柱の棚から立ち上がる。隣の柱の方を見るとクラウの姿が見えた。緊張しているのか、ずっと両手で銛をいじくり回し、唇を丸くすぼめて深呼吸をしていた。
「プツゥ~! クラウ~」
唇を開いて歯を食いしばり、その間から風を強く吹いて独特の音を出してクラウを呼んだ。万一の事態を考えて音を小さくしろという意味で人差し指を唇の上に置いて静かにしろという合図も見せた。
「お? なに? ウェ…ル…」
ウェレンと目が合ったクラウが答えようとした瞬間、ウェレンが送った合図を察知したクラウが言葉を止めた。
「なに? ウェ。レン。兄貴。」
クラウが音を出さず口の形を大きくしてウェレンに見せた。
「俺が(指で自分を指し)。跳べば(地面を指し)。お前も(クラウを指し)。跳べ! (虚空に銛を持って突き刺す動作を見せ)。」
身振りで説明した意味をクラウが理解したようで頷いた。
峡谷方向から騒々しい音が聞こえた。太い枝か細い木かわからないがウドクという音とウジキンという枝が折れる音が聞こえる。峡谷の入口方向だ。ウェレンが首を少し出して音のする方向を眺めた。
「ふむ…まだか?」
「おーい~~、ウェレーン。」
声を低く抑えて囁くように風の音が混じった声で呼ぶ声。エトだった。横にはウクとラトがウェレンに向かって頭上で手を大きく振っていた。少し前までドレイクを誘引しながら走ってきた人間とは思えないほど晴れやかな笑顔とともにだった。
「奴は? 来てるんだろ?」
「今来てるよ~~。あそこ! あーそこ。」
エトの声がドレイクに聞こえたのか、遠くから聞こえていた藪を踏む巨大なドレイクの足音がだんだん近づいてくる。
「来る!」
ウェレンが待機していた岩柱の下の藪で立っていたエトとラト、ウクの姿もいつの間にか消えて見えなくなっていた。
ドレイクの息遣いが聞こえてくる。息遣いを聞くだけでドレイクの巨大なサイズが想像されるそんな息遣いだった。厚い皮でできた通路を風が通るような荒い息遣いがだんだん近づいてくる。
ウェレンが首を傾けてドレイクの位置を確認しようとした瞬間、足元から音が聞こえた。グルルンと神経がピリピリ立ったドレイクの音だった。
ウェレンが立っている柱の下を通るドレイクのサイズは巨大だった。奴を最初に発見した狩人の案内を受けて初めて見た時は、距離の離れた峡谷の上側の山の上から見たため、普通のサイズをはるかに超えた大きさだとわかったが、正確なサイズは測れなかった。今の距離で見ると頭から尻尾の先までその長さを一目で収められず、目を動かすだけでは足りず首を動かさなければならないほど巨大なサイズだった。
黄色い蛇の瞳のような形の瞳を転がしながらエト一行を探すようだった。背中から尻尾まで覆う青みがかった皮質の鱗は厚く固そうだった。
他のドレイクと違い頭にある大きな角が特徴なのは知っていたが、近くで見るとその形はさらに独特だった。一つの大きな角だと思っていた角は二つで、前の角が後ろの角よりサイズが大きく、その後ろには半分のサイズの二番目の角が生えている形だった。
素晴らしい風景を見たように、一瞬時間が遅くなるような感覚をウェレンは感じた。数え切れないドレイクを見てきたが、このように美しさを超えた驚異を感じたドレイクは初めてだった。圧倒的なサイズ、暗い夜の色のような青みがかった黒色のドレイク。緑の森を進むドレイクの威風にはウェレンだけでなく、周りにいたクラウ、ボーム、スミル、グラベルまでもが同じ思いでドレイクをぼんやりと見つめていた。もしかすると想像を超えたドレイクのサイズに心が押しつぶされて体が動かないようでもあった。
『このまま行くと攻撃のチャンスはない。鎖に繋がった銛の範囲を外れてしまう!』
これ以上躊躇できない。普段相手にするドレイクならもう銛を投げていただろうが、弾かれるのは明らかだった。実行しなかったが経験がそう教えてくれた。ならば答えは一つだ。
『飛び降りながら!』
『全身の体重を乗せて!』
『銛を直接刺し込んで入れればいい!!!!!』
岩柱を足場にウェレンが飛び降りる。鋭い銛の先がドレイクの背中に触れる前、他の四つの銛たちもドレイクに向かっていた。グラベル、ボーム、スミル、そしてクラウまで。皆が自分が待っていた位置から銛を持ってドレイクに向かって飛び降りた。
この一話を書いているとき、私はウェレンとその一行が感じる緊張と畏怖をできる限り伝えたいと思いました。巨大なホーン・ドレイクと対峙する瞬間、彼らの勇気と恐怖が混じり合った気持ちを想像しながら書きました。読者の皆さんはこのシーンでどんな感情を抱きましたか?




