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12話-ドレイク捕り (5)

翌日の朝、ラミル狩猟団の野営地から少し離れた空き地で、一人の男が他の三人を取り囲まれて震えていた。


震えていた男の正体は、狩猟団の会計士であるクルートだった。朝早く起きて近くの小川を探し、顔を洗い、髪を整えて戻ってきたクルートは、三人の団員たちに連れられて今ここに立たされていたのだ。


赤い髪を短く刈り込んで整然とまとめ上げたトリンは、鋭い目つきとバランスの取れた筋肉質の体躯(たいく)のおかげで、第一印象から敏捷(びんしょう)で冷静沈着な印象を与えた。


赤い髪を短く刈り込んで整然とまとめ上げたトリンは、鋭い目つきとバランスの取れた筋肉質の体躯のおかげで、第一印象から敏捷で冷静沈着な印象を与えた。


そして最後にルタン。どんなに荒れた道を何日も走っても、彼の髪はいつも滑らかで(つや)やかだった。きちんと整えられた服装と整った目鼻立ちは、彼が外見の管理にどれだけ気を遣っているかをよく示しており、彼の存在は仲間の中でもいつも一歩引いたような優雅さを漂わせていた。


「あの……。これ、安全なものなんですよね?」


クルートが隣に置かれた、人三、四人が入るかどうかの(かご)を指差して尋ねた。


「もちろんですよ、クルート兄さん。もうテスト済みだってば」


トリンが自信たっぷりの声でクルートに答え、いつも無口なダイロが横で何度も頷きながらクルートを安心させようとした。


「いや……、それにしても、これって飛空艇(ひくうてい)でもないし。ちょっと、せめてある程度の大きさがなければ浮かないんじゃないかって……」


クルートは隣に置かれた籠とその中央に置かれた魔道具、そしてその籠の周りをいくつもの糸のような細い紐で繋いだ隣のぼろ布を縫い合わせた布に視線を向け続けていた。


『いくら軽い空気で中を満たすって言っても、あんなぼろ布に詰め込んで浮くのかな?』という疑念が頭から離れなかった。魔道具自体を疑っているわけではなかった。昔、王国の首都に行った時に飛空艇を見たことがあったので、空を飛ぶ器具に対する疑いはなかった。


しかし、一日に数十個の魔石の魔力を消費するという飛空艇と、この目の前のぼろ布の籠とは別物だったため、クルートは不安に汗を拭いながら、仕方なく質問を続けざるを得なかった。


「さあ、クルートさん。一旦空に浮かんだら、偵察に出たラト、エト、ウクが煙を上げるよ。そしてその煙の近くからドレイクが出てきたら、この魔道具の丸く突き出たのを押せば、地上の団長にクルートさんの声が伝わるんだ」


ルタンが長い髪を掻き上げながら、クルートに小さな金属製の魔道具を手渡した。


「あ、あ~、あ! こうすればいいんですよね?」


クルートが渡された魔道具の凸状(とつじょう)に突き出た金属のボタンを押しながら言うと、ルタンが持っていたもう一つの魔道具からクルートの声が聞こえてきた。


「うん、音はよく聞こえるね。じゃあ……。二つの魔道具の間に距離がある時はどうかな……」


ルタンが腕を組んでダイロと視線を交わし、無言の合図を送り合っているようだった。二人が言葉を交わさず頷いた後、クルートを抱え上げて飛行器の籠に乗せた。


「さあ~、よく聞いて。この歯車を回せば器具が上へ。下へ。この歯車は前へ後ろへ。そしてこれが左、右」


器の簡単な操作法をルタンがクルートに教えてくれた。それでもルタンの説明を聞くと、クルートの不安は最初よりマシになっていた。方向も指定して動かせるようだし、今はあのぼろ布さえまともなら……『少しでもおかしいと感じたら器を降りればいいさ』という気持ちがあったのか、今はただ早く器の運行テストが終わってほしいという思いだった。


「じゃあ、上がってみましょう!」


ルタンの言葉とともに、器の中央に置かれた装置の歯車を回して魔道具を起動させた。


「うわあああっ!」


ゆっくり浮かぶだろうという予想に反して、クルートが心配していたぼろ布が一瞬で膨らみ、器はクルートごと一気に空に向かって浮かび上がった。


浮かび上がる器の様子を三人が首を上に向けながら見守った。空に上がった器を眺めるのも束の間、ルタンが持っていた魔道具からクルートの声が聞こえてきた。


「き、聞こえますか……ルタンさん?」


壁を隔てて話しているような、くぐもった濁った音だったが、クルートの声だと判別できるレベルだった。


「うん! とてもよく聞こえるよ。それじゃあ、今日クルートさんがやることを教えてあげる。簡単だよ、上からドレイクが来る方向を団長に伝えるだけ。空の上から見る方が位置把握がしやすいからね。まあ、暇なら(いしゆみ)でも持って乗って撃つか」


「いええ……。じゃあ、もう降りてもいいですよね?」





*****

クルートが空の上で冷や汗を流している頃。グラベルとイリスの二人がクラウの案内を受けながら野営地を離れ、峡谷(きょうこく)に向かって歩き下りていた。


生い茂った草を踏み倒して作られた道を辿って歩いた。あちこちにそびえる岩の柱とその岩の隙間に生えた小さな植物が、通り過ぎるグラベルの腕や肩に触れる。湿気をたっぷり含んだ草の匂いと、種のわからない鳥の声が聞こえてくる。


「もう少し行けば着くよ、あの岩柱の辺りだ」


先を歩いていたクラウが振り返ってグラベルに言った。


「はい。でも、他の皆さんはもう準備中なんですか?」


「ああ。俺たちもバリスタを組み立てなきゃいけないプロンおじさんほどじゃないけど、狩猟前にやっておくべきことが結構あるんだ。きっとウェレン兄貴とボームおじさんは、夜明け前からあそこに行って寝てるはずだよ」


「そうですか。それじゃあ、私たちは今からそこで待機するんですね?」


「うん、そうだよ。そしてドレイクが近づいてきたら信号を送るって言ってたけど。あれかな? あれ! あそこ!」


グラベルの後ろをクラウが指先で指した。


「あ、熱気球ですね。こんなところで見たなんて」


クラウが指した先には、狩猟団の器が見えた。巨大な風船とその下に吊り下げられた小さな籠に、一人が乗っていた。


「あれを熱気球って言うんだね。俺もあれは今回初めて見るよ。団長さんが今回の狩猟は空から信号を出すって言ってたけど、何のことかと思ってたよ」


少し止まって空に浮かぶ器を眺めた後、再び一行は体を回して歩き始めた。さほど長くない時間を歩くと、ウェレンが一行を迎えてくれた。


周囲の岩柱と他の丸い岩があり、その横の空間には小さな焚き火が消えて間もないのか、一筋の細い灰色の煙が立ち上っていた。そしてその焚き火の残り火に当たって、二人が頭を深く垂れて岩に体を寄せて眠っていた。


「ははは、クラウ! わざと遠回りしてきたのか? 遅いぞ。遅いって!」


「そんなわけないですよ。できるだけ早く行って来たんですよ。それよりレサ姉さんが見えないですね?」


「あっちの向こう側で鎖の作業中だよ。ちょうどいい、来たついでにこれをあいつに持ってってくれ」


ウェレンが焚き火の横に置かれた道具の中から、一把(ひとわ)の長さの大きな釘三本が束ねられた包みをクラウに渡した。


「私が手伝えることはありますか?」


傍らに立って周囲をきょろきょろ見回していたグラベルがウェレンに言った。


いくら魔法で支援するために雇われたとはいえ、狩猟が始まるまでぼんやり時間を過ごすのは退屈だと思ったからだった。そしてグラベルは知っていた。レイド前の準備過程の楽しさを、特に攻略情報のない初回攻略ならその楽しさはより大きいだろうと。


「ええ~。いや、いや。俺たちの貴重なマナの道を歩む方は、ただここで少し休んでてくださいよ。ドレイク狩猟は俺たちが専門ですから」


ウェレンが両手で手を振りながら、焚き火の横にグラベルを案内した。


「それじゃあ、ちょっと休みながらお話でもしましょうか?」


グラベルが微笑んでウェレンにも座るよう勧めた。ちょうど相手はドレイク狩猟に経験豊富な人らしいので、様々な知識欲を満たす機会だと思った。


「へえ~。じゃあ、俺たちの魔法使いさんにどんな話を聞かせてあげましょうか?」


「はは。私は大陸東側の国フルド王国にいた頃から、魔法使いである前に学者でもあったんですよ。ドレイクに関するどんな知識でも構いません」


他の言葉はすべて偽りだったが、最後の『どんな知識でも構わない』という言葉は本心だった。


「うーん……。じゃあ、まずは今日の狩猟に関連したことからいきましょうか? 今日狩るドレイクは普通のサイズじゃないって聞きましたよね?」


「はい、それはプロイクトンから聞きました。図鑑に載るくらいの最大級だって……」


「まあ、サイズは普段狩ってる奴らよりちょっと大きいと思って狩ればいいんですけどね。問題はこいつが図鑑にもない種類のドレイクだってことが、今日の狩猟が普段と大きく違う点です」


「(おお……。じゃあレアか。特殊種なのか……?)それじゃあ、ドレイクの希少種か、もしくはドレイクじゃない可能性もあるんですか?」


「うーん……。ドレイクであることは確かですよ。まず知っておいてほしいのは、ドレイクは自分が住む環境に適応して特徴を持つようになるんですよ。例えば火山地帯にはファイアドレイク、岩場にはストーンドレイク、森にはフォレストドレイク。名前通り、それぞれ地形に適応して進化したからそんな名前がついてるんです。例えばフォレストドレイクは他のドレイクに比べてサイズが小さい代わりに鱗膜(りんまく)があって、木の間を飛ぶんですよ」


ウェレンが説明しながら喉が渇いたのか、腰の水筒から水を取り出して飲んだ。


「他のドレイクも名前通りですよ。ファイアドレイクは熱い息で火を吐き、ストーンドレイクは皮膚が岩のように硬くて普通の武器は通じないんです。フォレストドレイクはさっき言ったように、木の間をリスみたいに滑空(かっくう)します。あ、そういえばスワンプドレイクの話はしてなかったな。あいつらは泥の中に隠れて奇襲が得意で、臭いがものすごく臭いです」


また喉が渇いたのか、ウェレンが水をもう一口飲んだ。


「くはっ! これが酒ならもっと楽しく説明できるのにね」


「今でも十分有益です。ドレイクの種類は多いんですね?」


「うーん……。昔、図鑑で見た時は30種以上あるって見たからね。重要なのは、そんなに種類が多いのに、今日のこいつはどれにも当てはまらないんですよ。体の形や頭の形、尻尾、爪とか全部ドレイクの特徴そのままだのに。一つだけ!」


ウェレンが『一つ』という言葉を強調するように指一本を立てて見せた。


「頭に大きな角が生えてるんですよ。これが……、これが……、どう説明したらいいかな。あ……。見たらわかるんだけど、めちゃくちゃ大きな角です。他のドレイクには角がないんですよ。こいつの名前はどう呼べばいいかな。ホーンドレイクとか?」


「何の話してるの? ホーン? ホーンドレイク?」


ウェレンから受け取った大きな釘の束を届けに行ったクラウが、いつの間にか後ろから近づいてウェレンに尋ねた。


「お~、クラウ、早いな? 今回の狩る奴だよ。あの角付きドレイクの話。レサは? 岩柱に鎖全部設置したんじゃないの? なんで一人で」


「レサ姉さんはただ開始信号まであそこにいるって。いつから強化魔法受けてドレイク狩ったんだって……」


「ちっ。レサの奴……。意外とそういう面で頑固なんだよな。まあ、仕方ないよ。それじゃあ、俺たちもそろそろ準備しよう。前回みたいにバリスタに行く前に俺たちの手で終わらせちまうんだ! クラウ、信号開始後のことについて俺たちの魔法使いさんに説明してくれよ? 俺は最後に昨日作業したものちょっと確認してくる」


「了解! 行ってらっしゃい、ウェレン兄貴!」


ウェレンが峡谷の入り口の方へ向かう。その後、クラウがグラベルに(もり)班が必要な強化魔法とドレイクの予想進行方向を教えてくれた。近くの適当な枝を折って地面に描きながら、グラベルが待機する位置を教えた。狩猟開始後には偵察班と銛班が一緒にまずドレイクを攻撃するそうで、岩柱と繋がった銛が失敗したら魔石槍を持って追撃しなければならないことも教えた。


重い魔石ランスを持って走ったらドレイクを追うのも難しいし、周囲の長い草も掻き分けて行かなきゃいけないし、でこぼこの地面も走って行くにはきつそうなので、その時のためにグラベルに速度強化や、筋力を上げる魔法について尋ねるためだった。二人の会話は長かった。


クラウは強化系統魔法の正式名称を全く知らず、グラベルもこの世界の魔法体系に慣れていないため、簡単な話でも『体が軽くなる魔法』、『筋力が強くなる魔法』、『バリアみたいに守ってくれる魔法』、『武器を鋭くする魔法』のように魔法の特徴だけで表現しなければならなかった。正確な名称なしに推測に頼らざるを得ないため、二人の会話は他の人たちとの会話よりずっと時間がかかるしかなかった。


「クラウ~~!」


遠くからウェレンの声が聞こえた。またクラウの名前を呼ぶ声がだんだん近づいてくる。


「信号だ! 上だ。上! 上を見ろ!」


ウェレンが近づいてくると声がより大きくなった。ウェレンが言った方向には、さっき話した器が空に浮かんでいた。そして巨大な風船の下に吊られた籠からは、狩猟の開始を告げる赤い煙の信号が峡谷の方へ軌跡(きせき)を描きながら伸びていた。


「ボーム~! スミル~!! 起きろ!」


素早く走ってきたウェレンが、うずくまって寝ていた二人を足で蹴って起こした。


「狩猟だ! ドレイク狩猟!」

さあぁぁぁ!!狩りの始まりだ!

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