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10話-ドレイク捕り (3)

プロイクトンの外郭(がいかく)、行き交う人々がほとんどいない閑散(かんさん)とした道をグラベルが歩いている。さほど長い時間を歩いたわけではないが、分かれ道の上にある道標(みちしるべ)の前に立ち止まり、道を外れて森の中へと歩き入った。時折耳に聞こえてくる鳥のさえずりを聞きながら木々を抜け、歩き続けると広い空き地に出た。


「ようこそおいでくださいました、グラベル様。」


森の中の空き地でグラベルを迎えたのはイリスだった。


イリスが自分の主君に向かって片膝をついて礼を尽くそうとすると、グラベルが手振りでそれを制した。


「それじゃ今日もよろしくね、イリス先生。」


腰の剣鞘(けんしょう)からソード・オブ・イースト・エンドを引き抜きながらグラベルが言った。


「先生だなんて、私にはもったいないお言葉です、グラベル様。」


先生という言葉に慌てたイリスが頭を下げた。グラベルが笑みを浮かべ、頭を下げたイリスの姿を見たその瞬間、グラベルの頭に別の名前が浮かんだ。ベブルンブルーム(Bevroren Bloem)……凍った花。イリスの師匠であり母親であるラリット・フォン・ロイテルン(Lalit・Von・Reutern)の異名(いみょう)。彼女がそんな異名で呼ばれたのは、表情の変化がない冷たい目つきと微笑まない顔も一役買っていたが、凍った花という名前がグランド・ワールド・オンラインのユーザーたちに広く知れ渡ったのは、彼女の独特なスキル動作による剣術のためだった。


プレイヤーより強いNPC。あまりにも優れた彼女の剣術の実力のため、グランド・ワールド・オンライン のユーザーたちの中でも、どんなプレイヤーも決闘で彼女を倒せなかった。NPC特有の速い反射速度を利用した対応力で防御にも優れ、ラリットのスキルたちはブロックやパリングのような被害を相殺(そうさい)する防御方法では対抗しにくいことでユーザーたちの間で有名だった。


そしてイリスはラリットのすべてを引き継いだ。グランド・ワールド・オンラインで最強の剣士という地位を引き継いだのはラリットの娘である。今グラベルの前に立っているイリスだった。


グラベルがこの世界で剣を学ぶことに心を決めた時、イリスほど適した先生はいないと思った。この異世界でグラベルがイリスに剣を学ぶことになった理由は、ゲームではなく現実世界でクラスとレベルという制約を脱ぎ、より強くなれるかどうかの疑問と、見知らぬ世界で自分を守るためにキャスター系が持つ弱点を克服しようとした自己防衛本能から来ていた。


そしてもう一つ、グランド・ワールド・オンライン のキャラクターであるグラベルの主人。現実世界の地球のどこかでグランド・ワールド・オンライン をプレイし、グラベルというキャラクターを操作していた人の性格から来る理由もあった。


グラベルの愛剣ソード・オブ・イースト・エンド。グランド・ワールド・オンライン でラヴィルーン大陸のある今この場所に来る前に最後に手に入れたグラベルの剣。


グランド・ワールドでゲームをしていたグラベルはいつも一人だった。ギルドにも入らず、時折連絡を取り合う他のプレイヤーはいたが、大半の時間を仲間NPCの入手と育成に費やした。


そして次に時間を多く費やすのは、そうして成長した仲間NPCたちと自分用の高いレア度のアイテムの入手。同じ性能であっても、それを手に入れる過程や能力、外見が独特なアイテムをグラベルは好んだ。


ソード・オブ・イースト・エンドの情報を入手した後、その悪辣な入手難易度を突破して手に入れた名剣。せっかくそんな良いアイテムを自慢できる友達はいなかったが、誰かが見たら羨ましがるアイテムを所有しているという事実が嬉しかった。そしてそんな大切なアイテムを活用しなければその価値が光らないと思った。


どんなアイテムでもそのアイテムの最適な活用法と最大の使用法を見つけなければならない完璧主義的な性格、あるいは強迫。もしくはゲーマーとしての特別な性質だろうか? そのどれが影響したかははっきりわからないが、そのうちの一つであることは確かだった。その性格に起因して最初にやったことは「名剣を手に入れたら扱い方を学ばなければならない」という心を行動に移したことだった。だから隙を見てイリスに今日のように剣を学び始めたのだ。


「イリス。ミデン(Midden)をもう一度見せて。」


「はい。それでは、まず姿勢を低くして……。」


グラベルの依頼にすぐイリスが剣を構え、自分を攻撃しようとする仮想の攻撃に対応して剣を自分の近くに引き寄せ、防御的な姿勢を取った。


「こうして剣を斜めに後ろ向きに構えた後、敵の攻撃が剣に触れる瞬間、その力の方向に合わせて剣を流し落として……。」


少し続く動作を示すためにイリスが言葉を止めた。そして剣で円弧(えんこ)を描き、剣先は地面に向かった。


「そして、続けて斬り上げて反撃すればいいのです。」


イリスの説明とともに斬り上げる剣が空気を切る軽やかな音がした。


その様子を眺めていたグラベルが何度も動作を真似した後、一人で言った。


「うん……。効率が全然違うんだよね……。」


「え? それはどういうお言葉でしょうか……。」


「あ。イリスとおれが同じ動作で攻撃しても、体から消費されるマナと放出されるマナが全然違うってこと。」


「それがグラベル様には見えるのですね。」


イリスが自分の手のひらと甲を返しながら体の中に流れるマナを見ようとしたが、何も見えなかった。


何度もイリスと自分のマナの流れを観察して比較した結果、剣術の動作ごとにその差はあったが、確かなのは消費されるマナに比例した威力の差が激しいということだった。そしてイリスが剣を使う時は体に流れるマナが特定の地点で速く流れたり増幅したり複雑な動きを見せたが、熟練度の差か、そんなマナの運用を剣術動作をそのまま真似して行うのは難しすぎた。


その原理をイリスに聞いた時は、自分も体に染みついた動作をそのままやっているのでマナの流れは意識していないと言った。


『これがこの辺の冒険者たちが言うスチールパスとウェイ・オブ・マナの違いかな?』


剣であれ魔法であれ、この世界でそのうちの一つに一定の境地以上に達した人に出会えさえすればその疑問が解決しそうだったが、とりあえず今の疑問についての考えは後回しにすることにした。


「うん、それじゃ今回はズワッド・ブルーム(Zwaard Blome)を見せてくれる?」


数多くのグランド・ワールドのプレイヤーたちを倒したラリットの究極技ズワッド・ブルーム(剣刃の花)。数えきれないほどの剣の斬撃(ざんげき)が一点を通り過ぎて描かれるスキル。エフェクトが花のようだと言ってプレイヤーたちが名付けたスキルだった。


ゲーム制作会社の悪戯と言えるほどラリットの剣刃の花は弱点がなかった。一点の単一対象を狙うスキルだったが、その周囲を攻撃する範囲が広く、だから避けることもできなかった。盾や武器あるいは魔法で防ぐには一点に集まる累積ダメージが高く防げない、まさに欠点のないスキルだった。


グランド・ワールドでは不可能だったが、ここではそんな最高のスキルを学べる。ゲーマーとして感じる喜びか、新しい名剣を手に入れた剣士としての喜びかは区別がつかなかったが、イリスに剣を学ぶ時のグラベルは楽しげに見えた。


「それでは少し後ろに下がってください。」


イリスが剣を再び鞘に納めグラベルに言った後、イリス自身も数歩グラベルから離れながら姿勢を取った。


イリスの目が一瞬閉じられ、深く息を吸った後、再び目を開いた瞬間、鞘から剣を抜く鋭い音がした。そして続いて聞こえてくる笛のような空気を切る音が連続して響く。目で追えない速さで眼前空間を捻じ曲げて引き裂くような勢いの剣だ。耳を刺激する剣刃の音が止まった刹那(せつな)の瞬間。イリスが立っている前の空間に、剣から発散された剣気が続いて美しい花の形で、青く輝く矢車菊の形状とともに体が押し戻されるほどの圧力とともに爆発音を立てて飛び出し、徐々に光を失いながらゆっくりその姿が散っていった。


誰かが言っていたか、殺傷(さっしょう)を目的とした武術でも極の境地に達すれば美しいものだ、と。どこかで拾い聞いたその文が今、この瞬間グラベルの頭をよぎった。


「はは。素晴らしい腕前だよイリス。ベブルンブルーム(凍った花)の剣を完璧に受け継いだね。」


「ありがとうございます、グラベル様。」



グラベルの一日 -終-




二日後、グラベルとイリスは冒険者ギルドの前に停められた複数の馬車たちの間に立っていた。グラベルとイリス。ルードとレインホルド、そしてヴァリード。ツラロックという戦士とドシェルという名前の魔法使いも一緒だった。ツラロックとドシェルはプロイクトンで高い依頼成功率と冒険者たちの間でも評判の良い冒険者たちだった。


「あっち~。前に一番大きな馬車の横を歩いてる五人見える? よく見えるかな? うん……。私よりグラベルの背が高いから見えるよ。とにかく、あの茶褐色の革兜に体格の大きな人の周りに四人。」


「うん。馬車の横にいる方々の中で同じ兜をかぶった五人さんが見えますよ。」


「あ。で、あの体格の大きな人がプロンさんって私たちの狩猟団のバリスタ班の班長で、その横の左がヌルテンおじさん、そんでその横がダイロさん、右に長い髪がルタンおじさんで。その横にリュックだけ見えてるのが多分私の友達のトリンだと思うよ。ドレイク狩りには対對魔獣バリスタが必須だから、私たちの狩猟団で一番大事な仕事をする人たちだよ。後で正式に紹介するね。」


二人の会話が続いた。大半の言葉はクラウが話し、グラベルはただ頷いたり、時折クラウが指差す人たちが見える、見えないと答えて会話を繋げていった。


そうしてグラベルはクラウとの会話を通じて狩猟団の構成を知った。初代団長であるラミルの後を継いだ2代団長グロマイヤー、バリスタ班の5人。料理人のルセンとパラト。会計士のクルート、ドレイクの解体と素材の加工を担当する職人たちのラト、エト、ウク。そしてクラウが所属する銛班のウェレン、レサ、スミル、ボームがドレイク狩猟団の構成員たちだった。


クラウが休みなく話し、時折馬車の上に上がって団員たちを一人一人指差しながらグラベルに団員たちの名前を教えてくれた。あまりに多くの人を一気に紹介したかな? 名前なんか全部覚えられるかな? 後になって聞く相手の立場で考えてみたクラウだったが、『目的地に着いて野営地を設置した後なら十分時間があるから、またその時にゆっくり教えてあげればいいよね?』という考えであまり気にしなかった。


クラウとグラベル以外にも馬車に沿って歩く人々の会話の音が聞こえた。この度の遠征に雇われた冒険者たちと狩猟団の団員たちがお互いを知ろうとあれこれ話を交わしていた。そして道の外に目を向けると数多くの木々と、さらに遠くにはノルワン山脈の山々が姿を見せ始めた。景色を楽しみながら狩猟団と冒険者たちは道に沿って馬車とともに動き続けた。

それにしても、グラベルは本当に完璧主義者ですね!

名刀を手に入れたら使い方を学ばないと!」なんて、まるでRPGでレアアイテムをゲットした瞬間に最適な使い方を探し回るゲーマーのようではありませんか!?(あ、実際にゲーマーだったんですね。。。皆さんもそういうタイプですか?)

そしてついに、狩猟団との本格的な旅が始まりました!

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