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第2章 死神の剣

黒い血が地面に滴った。

その血はどこまでも濃く、腐った土に染み込んでいくと、まるで大地そのものが喉を鳴らして飲み干しているようだった。

クロウの剣が、怪物となった兄の肩口を裂いた。

だが、それだけでは足りない。

「ギ、、、、、、ギィ、、、、、、アァァ、、、、、、!」

醜悪な声が喉の奥から溢れ出す。

皮膚は裂け、筋肉がむき出しになり、黒く変色した骨が関節から突き出ている。

もはや、人間の形は残っていなかった。

「、、、、、、チッ」

クロウが舌打ちする。

まだ、動く。まだ、殺し足りない。

怪物はフィーネを見つめていた。

その目に、理性はない。ただ、飢えた獣のような欲望だけが渦巻いていた。

「に、げ、、、、、、」

かつて兄のものだった声が、静かに響く。

だが、それも一瞬だった。

次の瞬間、怪物はフィーネへと飛びかかる。

「ーーッ!!」

彼女の目の前で、鋭利な爪が振り下ろされる。

ザクリーーッ!

フィーネの目の前で、兄だったものの手が、別の何かを引き裂いた。

それは、村の崩れた家に隠れていた少女の体だった。

フィーネの知る顔だった。

近所に住んでいた、いつも花を詰んでいた少女。

少女の小さな身体は引き裂かれ、内蔵がこぼれ、赤黒いものがぬらぬらと地面を這う。

そして怪物は、それを貪るように口に運んだ。

くちゃ、くちゃ、、、、、、くちゃ、、、、、、

音がした。

肉を咀嚼し、骨を噛み砕く音。

フィーネの喉の奥から、何かが込み上げる。

「、、、、、、ぁ、、、、、、」

声にならない悲鳴が漏れた。

「おい、こっちだ!」

クロウの声がした。

次の瞬間、フィーネの腕が強引に引かれる。

「まだ立ってる場合か、ボサッとするな!」

引きずられるようにして、フィーネはその場を離れた。

しかし、目の前の光景がこびりついて離れない。

兄が、人を喰っている。

「、、、、、、いや、、、、、、嘘、嘘だよね、、、、、、?」

震える声で囁く。

これは夢だ。悪い夢だ。

だって、昨日まで普通に暮らしていた。

兄は優しかった。

いつも守ってくれた。

その兄が、少女の臓物を咀嚼している光景が、現実のはずがーー

「ーー甘えたこと言ってる暇はねえ」

クロウの声が響く。

ズバァッ!!

鮮血が舞った。

クロウの剣が、怪物の腹を切り裂く。

「ギィィィアアアアアッ!!!」

悲鳴。

いや、断末魔。

黒い血が噴き出す。

それでもまだ、兄は生きている。

フィーネはその場に座り込んだ。

何もできない。何もしたくない。

「、、、、、、兄さん、、、、、、」

その言葉は届かない。

クロウは、冷たく言い放つ。

「、、、、、、もう、終わらせる」

そしてーー

剣が、兄の頭部を両断した。

パチャッと、何かが地面に転がる音がする。

それが兄のものだったと、フィーネは理解した。

「、、、、、、っ」

何かを叫びたかった。

でも、何も出なかった。

ただ、ただ、空っぽになった心だけがそこにあった。

クロウは剣を振り払い、黒い血を飛ばすと、フィーネを見下ろした。

「泣くな」

「、、、、、、つ」

「泣いても、何も変わらねえ」

冷たい瞳が彼女を射抜く。

「ここに残って死ぬか、俺についてくるかーー決めろ」

フィーネは、ゆっくりと顔を上げた。

兄はもういない。

家族も、村も、何もかもなくなった。

神が死んだ世界で、自分はどうすればいいのか。

答えは出なかった。

でも。

「、、、、、、どこへ行くの?」

かすれる声で、問いかけた。

クロウは少し考え、答えた。

「"神の墓"だ」

それは、この世界が滅びた原因。

かつて神々がいたとされる場所。

フィーネは、震える手でクロウの手を取った。

もう、帰る場所はない。

ならば、彼の言う通り進むしかない。

ーー神が死んだ世界で、少女は運命に足を踏み入れた。

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