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ストーカー?襲来

※Nika※


堕落計画がスタートして早数日。...進捗は、あまりいいとは言えなかった。

にいがちょっぴり元気になって料理をしてご飯も食べるようになったのはまだいいと思う。本当は料理すらしたくな~いっていうぐーたらっぷりまでに堕としたいけれど、そこに至るのはまだ難しいだろうから、仕方がない。

にいの料理は美味しいし…。

問題は、にいが堕落するような趣味が全く出来なかったことだ。

アニメも映画もラノベも全然ダメ。真面目過ぎるにいはいろいろな物語の粗が気になって素直に物語を楽しむのが苦手みたいで、ちらちらと時計を気にしては誤魔化すような笑みを浮かべていた。他にも、ちょっとしたことをきっかけに仕事であった嫌なことを思い出すのか、急に表情が暗くなることもよくあった。

ラノベで誤字を見つけた時に、出版前に止められなかった編集さんが上司から詰められている姿を想像して泣きそうになっていたのには流石に心配になった…。

勢いで堕落させるとは言ったものの、にいはなんとも手ごわい。


「あ、またダメだった…」


そんな私は、次こそにいもハマる趣味を見つけてもらうために私イチオシのソシャゲ「ぷるるんクエスト」にて、絶賛リタマラ中だ。

このゲームは運営から石の配布が多くて無課金でも十分に楽しめるゲームで、私もサービス初期から楽しませてもらっている。

とはいえ、最初からつまずいていては楽しめなかろうということで、にいのために新規アカウントを作成して、かれこれ5時間近くリタマラを続けている。そう、5時間もだ。

私の狙いは人権と呼ばれているヒーラーキャラのもちもちペココと、序盤を楽に進められる大範囲攻撃持ちキャラクター、ぴよぴよルルルの二枚抜き。しかし、さすがに最高レアの二枚抜きはなかなかに厳しかった。

私の時は30分くらいで終わったから、まぁ余裕かなと調子こいた結果がこれである。今更後に引く気にもなれず、意地と根性でひたすらチュートリアルとガチャ画面を行き来し続けての5時間だった。


「ふわぁぁ……」


そんな繰り返しの単純作業を続けていたせいか、さすがに眠たくなってきてしまった。

にいには昨日のうちに、今日の昼の12時に私の部屋に来るよう言ってある。

今からだいたい2時間後。幸い時間はまだある。…ということで。

10分くらい仮眠をとってもいいよね。

完璧を求めず、寝たい時に寝る。これがぐーたらの心得だ。

スマホを充電器につないだ後、私はベッドに寝転がり、タオルケットにもぐりこむ。

目を閉じても、ついつい考えてしまうのはやっぱりにいのことだ。

今頃、にいはちゃんと眠れているだろうか。少しはぐーたらが浸透して、安眠できるようになっているといいな。じゃないと私も、ASMRの収録ができなくて収入が無くなってしまう。

超がつくほど真面目なにいを本当の意味で堕落させるには、まず私が、自分でもお金を稼げるということを証明して見せるのは必須だ。

だからどうにか収録する本数を増やしてもらおうと百奈に…。

…って、あれ?そういえば、なんか、忘れているような…。

まあ、いいや。今は眠いし、あとは起きてから…考え…ょ……。


……Z……

………ZZ……

…………ZZZ……


~2時間後~


※hitomoto※


約束の時間になったので、僕は二佳の部屋を訪れた。

しかし、ノックをして暫く待ってみても二佳からの返事はない。

物音も聞こえないし、寝てしまっているんだろうか。

そういえば、もし眠ってたら起こしてとも言われていたっけ…。

僕はやや緊張しつつも、二佳の部屋の扉を開けることにした。


「二佳、入るぞぉ…」


前回は扉を開けただけで引き返したから二佳の部屋へ入るのはおよそ1年ぶりになる。二佳の部屋には、いつのまに増えたのかよくわからない機材がたくさん転がっていた。

複数のPCディスプレイに、よくわからないコード類がいくつかと、あとはマイクと思われるものがなぜか複数転がっている。

元は母さんの部屋だし、これも全部、母さんの持ち物だったのだろうか。

と、そんなことを考えながら部屋を見渡していると、ベッドの上で幸せそうに眠る二佳を見つけた。

このまま寝かせてあげたいけれど、ここで起こさないと後でなんて言われるかわからない。二佳と仲直り出来てからまだ数日。以前のような関係には絶対に戻りたくないという思いもあり、僕はただ二佳に言われた通りに彼女を起こすことにした。

そっと二佳に近づき、肩をゆすろうとする。

と、その時。


ピコンッ。ピコンッ。

ピコンッ。ピコンッ。ピコンッ。


大量の通知音と共に、PCモニターの隅にメッセージが表示された。


『もう約束の時間から二時間だお?早く話したいヨ~(。>﹏<。) 』

『あ、別に全然怒ってはないから怖がらないでネ?』


「なんだこいつは…」


独特の喋り方(確かおじさん構文って言うやつじゃなかったっけ?)をした二佳の知り合いらしき人物からのメッセージに目を寄せる。

その時、追加でもう一つメッセージが送られてきた。


『で、でもぉ、お詫びとしてエッチな画像とか…送ってくれたら嬉しいなぁなんて… (/ω\)キャー 照れるけど、二佳ちんのこともっと知りたいからサ!』


「は??」


これまで生きてきた中で最も低い声が漏れた。

僕の大切な妹に、なんていうセクハラメッセージを送ってくれているんだ、こいつは?男か?男なのか?男だよな??

僕は衝動のままにメッセージをクリックし、SNSアプリのトーク画面を開いた。

左上に表示された名前を確認する。二佳に対する気持ち悪いセクハラメッセージを送りつけている不届者の名前は『Momo』というらしい。

以前にもやり取りしたことがあるのかどうか気になり、少し遡ってみたが、マイクロビキニを着ているおじさんがキス顔で迫ってくる謎のセクハラスタンプしか見つけられなかった。

起きて、といったメッセージを送ってきていたし、寝ている二佳をスタンプの通知音で起こそうとしてたのだろう。


『おぉ~!既読ついた!!もう、いくらなんでも遅すぎダヨ(笑) (^m^)クスクス』

『さっそく電話いいカナ?はぁ、はぁ…、やっと二佳ちんの声が聞けるヨ…』


「うわっ」


爆速でメッセージが送られ、必死に文字を目で追っていると、相手から通話がかかってくる。

その瞬間、鼓動が早くなり、息が苦しくなった。

会社にかかってくる電話を取るのは、新人の仕事だ。以前は反射的に受話器をとることができていたが、今の僕は当時の記憶がフラッシュバックしてくるだけで動けなくなってしまった。

僕の声が社内に響くだけで、周りは不快そうに顔をゆがめていた。舌打ちをされることも日常茶飯事だった。僕の周りには、誰も味方だと思えるような人はいなくて…。


「んん……」

「……!」


その時、二佳が寝返りを打った。

僕はゆっくりと息を吸って、吐く。そうすることで落ち着いてきた。

今考えることは、過去じゃない。今、このセクハラおじさんからどうやって二佳を守るかだ。

二佳を守る。

その言葉を頭に思い浮かべるだけで不思議と力が湧いてきた。

恐らく、こいつはネットのどこかで二佳を知り、粘着するようになったストーカーか何かなんじゃないかと僕は推察した。この変態野郎と、引っ込み思案な二佳が知り合いだとは思えないからな。

仮にそうでないとしても二佳のえっちな画像を要求してきた時点でこいつは有罪だ。

僕の心は怒りで煮えたぎっていた。

さあ、行くぞ!

僕はマウスを勢いよく操作し、相手の通話を受けた。


「やっほ~、二佳ちん!もう、遅」

「未成年に対して、卑猥な画像を要求するのは良くないと思います。証拠としてスクリーンショットも撮らせてもらいました。これ以上、二佳に粘着するのはやめてください」


一息で喋り切った。相手になめられないように淡々と。

声まで低くして語ることを心がけたつもりだが、一瞬動揺して声が上ずりかけてしまった。


「へ?」


今も聞こえる相手の第一声が、予想に反して若い女性のものだったからだ。

だが、今時、電話越しの声が高いからと言って本当に女性とは限らない。ボイスチェンジャーの可能性もあれば、男性なのに女性の声を出すのが得意な人もいるという。

電話の向こうの相手は、そういうテクニックを使用して相手を同性だと油断させてエッチな写真を収集しているのかもしれない。だとしたら余計に悪質に思えた。


「え、怖!誰!?二佳ちんに彼氏は絶対ないし、パパ…は、いないって聞いてるし…」

「僕は兄です。…ずいぶんと妹の事情にも詳しいようですが、あなたは二佳のストーカーか何かなのですか?」

「は、はぁ!?そんなわけないじゃん!俺は二佳ちんと親友だし!」

「そう思い込んでいるタイプのストーカーですか…、やっかいですね」

「だから違うって!そもそも俺は女子高生で……」


話をすればするほど本当に若い女性の声にしか聞こえない。

しかし、一人称には違和感があった。詰めが甘いのか先ほどから電話の相手は自分のことを『俺』と呼んでいる。僕とかならまだしも俺が一人称の女性はほとんど見たことがないし、やっぱり相手は何かしらの方法で声を変えている男なのではなかろうか。


「ていうか、そういうあんたこそ誰?兄って言ってたけど、二佳ちんは兄とは一年近く口をきいてないって言ってたよ?」

「……っ!そんなことありません。二佳とはつい最近仲直りをして今ではとても仲良しです。少なくとも僕は二佳のことが大好きです。二佳がどう思っているかはわかりませんが、僕は二佳のことが大好きです」

「キモ!どんだけ二佳ちんのこと好きなんだよ!…俺も人のこと言えないけど。でも、二佳ちんにこんなキモい兄いるとは思えないし!やっぱ絶対嘘でしょ!」

「…そういうあなたこそ、一人称を俺と呼んでいるようですが、二佳に、はあはあしているおじさんなんじゃないんですか?」

「二佳ちんにははあはあしてるけど、おじさんじゃないから!てかさ、ぶっちゃけマジで誰なの?二佳ちんが約束の時間に来なかったのと関係あったりする?……二佳ちんへの感情も激重だったし、ストーカーってあんた自身のことなんじゃないの?」

「な、なんで僕がストーカーになるんですか」


思いもよらない展開に、つい声を荒げてしまった。

だが、それが動揺と受け取られたのか相手は調子を増していく。


「二佳ちんと仲良さそうに話す俺のメッセージがつい気になっちゃって、通話に出ちゃったんじゃないの~?」

「セクハラに腹が経っただけです…。というか、それを言うなら僕だってあなたのことを疑っているんですが?」

「じゃあ、証明してあげるよ!今からビデオ通話にするからあんたもそうしてよ」

「…わかりました。二佳の中学の入学式に撮ったツーショット画像があるので、その画像と僕の顔を同時にカメラに映します。それで兄だって信じてくれますね?」

「いいよ。けど、その代わり、もしそれであんたが兄じゃなくて、本当にストーカーか何かだって判明したら……マジで殺すから」

「……っ」


とても若い女性の声から出たとは思えない本物の殺意が込められた声に、思わずゾッとする。

やっぱりこいつは、粘着質な嫉妬深いストーカーなんじゃないか?じゃないとこんな冷たい声は出せないだろう。

しかし、なぜ相手はわざわざこんな提案をしたのかがひっかかる。今時、おじさん構文を使うセクハラ女子高生がいるとは思えないし、嘘だとしてもいったいどうやって乗り切るつもりなのか。

お互いの準備が終わり、合図に合わせて同時にビデオ通話に切り替えることになった。


「「せーの!」」






「「…………!」」


しばらくの沈黙が流れた。

目と目が合い、互いに見つめあう。


僕はスマホのロック画面に設定された二佳とのツーショット写真と自分の顔をカメラの前にさらけ出していた。一方、画面の向こうにいる相手は、…どう見ても女性だった。

幼い端正な顔立ちに、茶系のロングヘア―には、大きな星形のヘアピンを付けていた。高校の制服に身を包んだ小柄な女性が、画面の向こうで胸を突き出してふんぞり返っている。

僕が想像した変態おじさんのイメージとは、だいぶかけ離れた存在だった。


「うそ……、本当なの!?」

「女装…でもなさそうですね」


信じられないといった形相でしばらくお互いに見つめあう。

それは、第三者の声が入ってくるまで続いた。


「ん……、にい…?もう部屋に来てたんだぁ……」

「……え?」


ゆっくりと声がする方に顔を向けると、二佳が目をこすりながらベッドから身を起こしていた。

通話でうるさくしていたから、起こしてしまったのかもしれない。

そして…、今になって僕は自分が置かれている状況のまずさに気づいた。無断で二佳のPCを勝手に操作し、通話までしてしまったのだ。

1年前に、絶対に部屋には入らないでとまで言った、あの二佳の、プライベート空間にずけずけと踏み込んでしまったのだ。

しかも通話相手はおそらく本当に二佳の知り合いで…。



「……っ!」


ベッドから身を起こした二佳は、僕の顔、そして次にPCモニターに目を向けたかと思うと、口をあんぐりと開けたまま硬直した。

頭が真っ白になり、手足が震えてきた。

このままだと、二佳に嫌われてしまう!


「ち、違うんだ!二佳、これには深いわけが…」

「おほぉぉ!!二佳ちんの寝起きボイス可愛!…じゃなくて!ねぇねぇ、この男って本当に二佳ちんのお兄さんなの?」

「……な、なんで、百奈ももなとにいが通話してるの!!?」


珍しい二佳の大声が、部屋中に響いた。

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