第30話 決意改め
無事新入生歓迎会を乗り切れるだろうかという不安で埋め尽くされた夜。
瑞望から電話が来た。
なんだか初っ端から申し訳無さそうな声音で。
「ごめんね! きーちゃんと実行委員やりたかったって誤魔化しちゃって!」
「いいよ。気にすんなって。どうにかなったみたいだし」
「あたしも翔ちゃんと一緒に実行委員できるようにくじ引きではお祈りしたんだけどー、無理だったよー。ていうか翔ちゃん、きーちゃんと二人で大丈夫?」
「……大丈夫とは?」
ひょっとしたら、『きーちゃんのこと好きになっちゃわない!?』って心配をしている可能性もあるから。
「ほら、きーちゃんと一緒ってことは、きーちゃんを守らないといけない機会もあるってことだから」
「ああ、そっちか」
「え、他に何かあったの?」
「いいや、何もないよ。瑞望からすれば、泰栖さんを自分でサポートできないわけだから心配だよな」
「うん、どうしてもね。翔ちゃんだって、そんなにきーちゃんと話したことあるわけじゃないでしょ?」
「……ああ、そうだな」
ウソをついてるようで後ろめたかったのだが。
「上手く接する自信はないかも」
これは本当のことだ。
「翔ちゃんなら大丈夫だよ。きーちゃんを泣かせちゃうようなことは絶対言わないからね!」
その信頼で胸が痛む。
そりゃ傷つける気はないけれど、俺はこれから泰栖さんの告白を断らないといけないのだから。どうしたって泰栖さんが喜ぶようなことにはならない。
「ありがとうよ。泰栖さんのことは、頑張ってどうにかするから」
「……待って。翔ちゃんが頑張り過ぎたら、きーちゃんが翔ちゃんのこと好きになっちゃわない?」
「俺はそこまでモテる男じゃないだろ」
告白されたということは泰栖さんは俺を好きということなのだが……ここは瑞望を不安にさせないようにした方がいいはず。
「そんなことないよ! 翔ちゃんがモテないなら誰がモテるの!?」
「お、落ち着けよ」
「そ、そのうち翔ちゃんをスカウトしたいって人が殺到したりして……そうなったら、翔ちゃんが遠い存在になっちゃうよぉ」
やばい。瑞望が俺の盲目オタになってる……そう思ってくれているのは嬉しいけれど、自己評価と瑞望の評価に差がありすぎて恥ずかしいな。こんな地味な男を引き抜きたいと考える業界はどこにもないだろうよ。
「怪しいお誘いは断ってね?」
「あ、ああ、気をつけるよ」
「それとぉ」
「なんだ?」
「翔ちゃん、ビデオ通話に切り替えられる?」
「待ってろ」
スマホをタップすると、瑞望の顔が映し出された。
「あっ、やっほやっほ、見える~?」
「見えるけど……」
自分の部屋にいるらしい瑞望は、ずいぶん薄着だった。キャミソールみたいな格好に薄手のカーディガンを羽織っているだけ。それにカーディガンが開けていて、肩どころか鎖骨まであらわになっている。今日は暖かいから、部屋着も薄手になるのはわかるんだけど……。
「なかなか学校では話せないから、こういうときじゃないとね!」
瑞望が、少しでも早く恋人っぽい付き合いをしたくて焦っていたのは先日聞いたけれど、今の瑞望は特に扇情的に振る舞っているわけでもなさそうだった。
「それに今日……翔ちゃんに『好き』ってまだ言ってなかったし……」
顔がよく見える位置にスマホを構えながら、もじもじする瑞望。
「だから……翔ちゃん、好きだよ!」
はにかむような笑みを見せながら、瑞望は言ってくれた。
こんなことを言われた以上、俺だってきっちり返さないといけない。
めちゃくちゃ恥ずかしいけど。
「俺も、好きだから……!」
本心には違いない。
けれど、心置きなく瑞望に好きだと言えるのは、泰栖さんの告白に断りを入れてからの話になりそうだ。
今日は、よりによって泰栖さんと二人で学校行事をこなすことなる、非常にマズい結果になってしまった。
けれど逆に言えば、上手く断る機会を得たということだ。
限られた期間とはいえ、一緒にいれば、泰栖さんを傷つけることなくお断りの返事をする方法が見つかるかもしれない。
「瑞望、俺、頑張るよ」
本当の意味で、後腐れなく瑞望と恋人づきあいをするために。
新入生歓迎会に挑もうと決意するのだった。




