第15話 馴染んだ立ち位置
その後、女の子を交えてサッカーを続けた。
この子は参加を渋っていたわりにはやたらとボール扱いが上手く、男子たちを手球に取り、最終的には「先生」と呼ばれるほどの技術を見せつけた。
「きみすごいねー。あたしが知ってるクラブチーム紹介してあげようか?」
顔が広い瑞望のスカウトを受けるほどだった。
一方の俺は、最後まで空振り連発で、一向にボールと友達になれる気配がなかった。
早急にどうにかした方がいいのは、俺の運動能力かもしれない。
遊び終わったときには、すっかり夕焼け空だ。
まさか、高校生にもなってここまでガチと小学生と遊ぶことになるとは思わなかった。
公園をあとにして、隣を歩く瑞望は満足そうだ。
「楽しかったね。あたし、あの子とラインの交換までしちゃった」
「ホント人付き合いがいいよな、瑞望は」
こんなときの瑞望の表情は、俺が良く知る小学生のときを彷彿とさせる姿のままだ。
「翔ちゃんもだよ」
「俺が?」
「あたしに付き合ってくれたもんね?」
「そりゃ、一人で帰るわけにもいかないだろ」
「それに、あの女の子のことだって助けてくれたでしょ?」
「瑞望が声かけなかったら俺も無視してたよ」
「素直じゃないんだからー」
瑞望が微笑みながら、手を繋いでくる。
恋人同士がやるような、ぬっちょりねっちょりえっちなアレではなく、ペアになった幼稚園児がお散歩に行くときにやるようなノリの手繋ぎだ。
「でも、翔ちゃんは本当に運動が苦手だね。今日も体育でボールにノックアウトされちゃったし」
「あれはちょっとぼーっとしちゃっただけだ」
「そうだ。あたしが稽古つけてあげるから、これからは放課後一緒に練習する?」
「遠慮しとくよ。瑞望のペースに合わせたら体が持ちそうにないからな」
「ちゃんと翔ちゃんのレベルに合わせるってー。ほら、怖くないから一緒に地獄のトレーニングしよ?」
「地獄って言っちゃってるじゃねえか」
「気のせい、気のせい」
夕焼けに照らされながら微笑む瑞望。
小学生のときは、毎日こんな感じで夕方になるまで遊んでは、隣り合って一緒に帰ったものだ。
男子とか女子とか関係なく、俺の一番の友達だった。
二人でいると、恋愛のドキドキ感とも、家族でいる安心感とも違う、不思議な心地よさを感じることができた。
なんだか、久々にあの頃と同じ感覚でいられているような気がする。
「あー、なんだなんだ、すっごく意味深なニヤニヤ笑いしてる!」
「気のせい、気のせい」
「気のせいじゃないよ! あたし見たもん!」
話せ、とばかりに肩をぺしんぺしんと叩いてくる瑞望。
この遠慮のなさが懐かしい。
やっぱり俺にとっては、まだ。
恋人というより、仲良しの友達としての浅葱瑞望の方が、しっくり来ちゃうんだよな。




