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プロローグ

 俺の学校には、みんなから聖女様と呼ばれている美少女がいる。

 それが、泰栖やすずみ希沙良きさらさん。

 金色に近い栗色の長い髪はサラサラ。

 触れることすら許されなさそうなくらい白く美しい肌。

 女子の中では身長が高く、手足も長くて細身なのだが、出ているところはしっかり出ているというチート体型だ。

 県内では評判がいい紺色ブレザーにチェック柄の赤いスカートも、彼女のために作られたのではと思えるくらい似合っている。


 俺は川幡かわばた翔哉しょうや

 運がいいのか悪いのか、そんな美少女と同じクラスの地味な男だ。


 泰栖さんは凄い。

 今日もホームルームが始まる前から、男女関係なくクラスメイトが泰栖さんの周りに集まっている。


「ねーねー、泰栖さん! すっごく肌綺麗だよね~。どこのコスメ使ってんの? ていうか爪もヤバい綺麗じゃね? 今度ネイルさせてもらっていい?」


 と、ギャルっぽい女子が訊ねれば。


「えっと、ネイルはですね……」


 泰栖さんは、涼しい顔を保ちながらもちらりと隣に視線を向ける。


「うーん、きーちゃん家は厳しいからネイルとかできないからねぇ。でもほら、興味はあるもんね?」


 まるで泰栖さんの通訳でもするみたいに、その隣にいるちっこい女子が明るく答えた。


「はい。見ていて、とても素敵に見えますから」

「そっかぁ、じゃあ、あとでおすすめのネイル動画いっぱい教えてあげんね!」


 満足そうにギャルが言った。


「泰栖さん! 休みになったら一緒にお出かけしよーよ。カラオケとかどう? ていうか、泰栖さんって普段何歌うの~?」


 すると今度は陽キャグループ筆頭の女子が盛り上がった様子で泰栖さんに声を掛ける。

「歌ですか? そうですね……」


 またも泰栖さんは、隣の元気女子に視線を向ける。


「きーちゃんは歌うより楽器派だからね~。ピアノもヴァイオリンも上手だから。まあ、そのための習い事で放課後は予定いっぱいになっちゃうんだけどね。でもみんなと一緒に歌うのは大好きなんだよね?」

「そうですね。なかなか時間を合わせられないというだけで」

「そっかぁ。忙しならしょうがないよねー。でも、好きだって言ってくれるなら、いつか絶対聖女様と一緒に歌ってみたいなー」


 こちらもまた、気分を害した様子はない。

 とにかく、クラスの目立つ人たちが総出で泰栖さんに群がっていた。

 そんな中でも、泰栖さんは言葉少な。

 質問に答えることはあっても、深く掘り下げることはない。

 それでもみんなは冷めることなく、なおも泰栖さんへの興味を強くする。

 きっと、ほんの少しお話できただけで満足してしまうのだろう。


 で、そんなキラキラな美少女がいる一方。


 その傍らには、ふわふわとした茶色い長い髪を二つ結びにした、ちっこい体の女子がいる。

 先ほどから、言葉少なな泰栖さんのスポークスマン、もしくは通訳のごとく立ち回っている女子だ。


 浅葱あさぎ瑞望みずもといって、クラスのムードメーカーだ。

 目は大きくパッチリとしていて、顔立ちは整っているのだが、小柄な体型のせいか全体的に幼い印象があって美少女として持て囃されることはなかった。


「はいはいごめんねー、もうすぐホームルーム始まっちゃうから、今日はここまでねー」


 泰栖さんの盾になるみたいに立ちふさがって、群がる人たちを交通整理するかのように誘導する。


「わかったわかった、いいよね~。瑞望ちゃんは泰栖さんと仲良しなんだもん。うらやまし~」


 陽キャな女子が、ニコニコしながら瑞望の頭にぽんぽんと触れる。


「もう! あたしの頭ぽむぽむしたらダメっていつも言ってんじゃん~」

「ごめんごめん、瑞望ちゃん小学生みたいで可愛いから」

「女子高生なんですけど!? これでも昨日測ったら1センチ伸びてたんだから! ふふん、まだまだ成長期だよ」

「夜と朝とで身長変わるって言うけど、もしかして瑞望ちゃんが測ったときもそのパターンじゃない?」

「あ……」


 何も言い返せなくなると同時に、予鈴が鳴った。


「おーし、ホームルーム始めるぞー」


 担任教師がやってきて、賑やかな朝の時間が終わりを告げる。

 それぞれが席に戻っていく間、俺は浅葱さん……いや、瑞望にちらりと視線を向ける。

 瑞望は俺の幼馴染で……実は、今、恋人として付き合っている。

 クラスのマスコット的な人気者とお付き合いをしていることは、俺みたいな地味なヤツからすれば飛び上がって喜ぶべきなんだろうけど。

 そうもいかない事情があった。

 俺の席から右斜上すぐには、泰栖さんの席がある。

 柔らかく美しい栗色の髪の毛先が揺れて、泰栖さんの視線がこちらに向かってきた。

 しまった。

 目が合った……。

 気まずくなった俺は、慌てて視線を手元に向ける。


 俺と瑞望は、とある事情によりみんなには秘密の恋人同士。

 瑞望とは親友同士である泰栖さんは、俺と瑞望が付き合っていることを知らない。

 そして瑞望は……俺が先日、泰栖さんから告白されていることを知らない。

 俺はそのことを、瑞望にも、泰栖さんにも、何も言えないでいる。

 浮気でも、二股でもないはずなんだ。

 瑞望と付き合っていながら、泰栖さんに告白の返事を保留にしているだけなんだから。

 でも、そもそも俺は、泰栖さんからめちゃくちゃ嫌われていたはず。

 そういうことがあったから、親身に元気づけようとしてくれた瑞望と付き合うことになったわけで……。

 こんな妙な状況になった、そもそもの原因。

 それは、今からほんの一週間前に起きた出来事のせいで――


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