表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
7/13

第7話 2人きりでのお買い物(後編)



「美味しかったー!!!うーん、満足満足!!!!」


 ラーメン屋から出た結城は両手を上に伸ばし、ぐぐっと背伸びをして満足気な笑みを浮かべている。

 気に入ってくれて良かったとホッと胸を撫で下ろすが……いやはや、良く食べたなぁ結城、と心の中で感心する。

 結城が頼んだのは北海道味噌ラーメンに野菜増し、チャーシュー増し、半ライスを付けて更にオマケで半熟卵乗せたフルコンボだったのだが、それをペロリと平らげるなんて……この細い体のどこに入ったんだろうか?


「さてと。お腹もいっぱいになった事だし、そろそろお買い物に行こうか結城さん」

「うん!よろしくね水樹!」


 事前に結城からお姉さんの推しキャラ情報を教えて貰ったので、そのキャラのグッズを中心に攻めて行く。

 幾つかの店舗を回って、特典付きのグッズや限定品をチェックした後、個人的に買うならここかな?と当たりを付けていた店舗に到着する。


「うっわー!何ここ!すごい広い!!」


 大きな目をくりくりさせて、結城は店内を見渡す。


「ここはエンジェルメルトのグッズを作っている会社の公式直営店って言えば良いのかな?他の店舗にも各々限定品があったけど、ここには直営限定品があるからね。色々見比べてみると良いかも」


「うん!ねぇねぇ水樹、エンジェルメルト以外にもいっぱいグッズがあるんだけど見てきて良い?」


 子供の様に目をキラキラさせる結城を微笑ましく思いながら、「いいよ。ゆっくり見てきな」と送り出す。

 パタパタと走って行く結城の後ろ姿を眺め、オレはこれまで結城に対して抱いていた印象が今日一日で随分と変わった事に気が付く。

 変に気取った感じも無く意外と話しやすくて、何だかんだでオレは結城との買い物を楽しんでいた。


 結城と直接話す機会なんて今まで無かったが、少なくても教室で見る結城はもっとこうツンケンしてると言うか……女子に対してはそうでも無いが男子に対しては結構当たりがキツい。

 男子の中にはそんな結城の事を女王様のように捉える奴がいたり、自由気ままな猫のように捉える奴がいたりで結局のところ、何だかんだ男子からは好かれているのだが。


 だがこうして1人になると、そんな女の子と何でオレは2人きりで買い物をしてるんだろう、と、ついつい思考がまた振り出しに戻ってしまい溜息を付く。

 結城の気持ちはオレには全く理解が出来ない。

 本当に勝手気ままな猫みたいな奴だなと苦笑して、オレも店内をぐるりと回る。

 暫く店内のエンジェルメルトのグッズを物色し、やはり購入するならここの限定グッズだな、結城を探して相談してみようかなと思った矢先、突然背後から英語で話しかけられた。


「Excuse me,Are you a registered member of this shop?」(すみません。あなたはこのお店の会員ですか?)


 振り返ると旅行者風の外国人の男性が2人、手に商品を持って困った表情を浮かべている。


「Yes,I am.How can I help you?」(はい、そうです。どうかしましたか?)


 どうやらオレの片言の英語でも通じたようで、ホッとした表情を浮かべる2人。


「This product is only available for members,……so……I'm sorry,but could you please purchase this product on my behalf?」(この商品は会員でしか買えなくて……なので、申し訳ないのですが私の代わりに買っては貰えないでしょうか?)


 オレにそう伝え、手に持っている商品をこちらに見せる。

 成る程、確かに転売防止の為、会員かつ1人1個までしか買えないドラゴン○ールの限定品フィギアだ。

 この手の物はその場で会員になっても購入する事はできず、少なくても会員継続期間が1年は必要になってくる。旅行者だとしたら、この縛りは確かにキツい。


「Sure, I got it.I'll buy it for you」(わかりました。良いですよ)


 そう伝え、フィギアの箱を受けとる。


「Thank you sooooo much!!!!!!!!!!」(ありがとおおおおおおお!!!!)


 余程嬉しかったのか、フィギアを渡してきた男にぎゅうううううっと握手をされ、手をぶんぶん振られる。


 高値転売をする訳では無いのでこの程度の融通はお店も目を瞑ってくれるだろう……瞑って下さい……と心の中で謝りつつ3人でレジへと向かった。




「Enjoy your trip!」(良い旅を)


 店舗の外に出て商品代金を受け取り、熱烈な感謝のハグをされた後、2人を見送って再び店内に戻ると結城がててててとこちらに走って来た。


「ねね!!どうしたの????」


 好奇心に満ちた目をこちらに向けてくる結城。


「あー、うん。実はね……」


 会員限定の商品を代理で買って上げた事を伝えると、元々くりくりとした結城の目が更に大きくなる。


「えー!水樹って英語喋れるの?凄いじゃん!!!」

「あっ、いや……喋れるって程じゃなくて何となく伝わるかな?ってくらいのレベル。本当に片言だよ。」

「それでも凄いじゃん!!!いつから喋れるの????」

「いつから……中2の時かな?少し勉強したから……」


 そう結城に伝えると、思い出したくも無い記憶が否応なしに頭に浮かんでくる。

 放課後の図書室、映画の話、英語の勉強、あの子の顔……あの子の声……

 オレはそれらの記憶を打ち消すかの様に結城に話しかける。


「どうだった?結城さん。店内は楽しかった?」

「え?あっうん。めっちゃ楽しかった!お姉と一緒に見た事のあるアニメのグッズとかいっぱいあったし!」

「そうだよね。結構ここの直営店って色々なアニメや漫画を扱ってるからね。多分、商品の取扱い数的にこの辺りで一番充実していると思うし、楽しんでもらえて良かった良かった」

「……」


 何となくオレを見る結城の目に今までとは違う何かを感じ、少し気まずくなってしまう。

……ボロを出す前にさっさと買い物を終わらせよう。


「ね、結城さん。レジの前にあるあのフィギア、お姉さんがエンジェルメルトの中で一番推してる『バトラ』のフィギアなんだけどさ。発売されたばかりで、ここの特別会員じゃ無いと買えない物なんだ。でさ?丁度オレはここの特別会員で購入できるし、あれがお姉さんのプレゼントに良いとオレは思うんだけどどうかな?」


「んー、詳しい事はわからないけど、水樹がそう言うならあれを買う!!だって最初から水樹に選んで貰うつもりだったし!!」


 結城に笑顔が戻り、ホッとする。

 何故だかわからないが、結城には笑っていて欲しい。


「じゃ、結城さんはちょっとここで待っててね。オレが買ってくるから」


 そう結城に伝え、オレは一人でレジに向かって行った。




「はい、これフィギアのお金。ありがと!!水樹!!」


 結城と共に店の外に出たオレはバトラの限定フィギアが入った袋を渡し、代金を受け取る。


「うん、確かに。プレゼント、お姉さんに喜んで貰えるといいね」

「喜んでくれるよ!だって、色々ある中で水樹が選んでくれたんだし!!」

「オレ、そんなに目利きがある方じゃないからちょっと心配だけど」


 そう言ってオレは苦笑いを浮かべる。

 ふと気がつけば空は既に薄暗く、街灯が辺りを照らし始めた。


「結城さん、ごめんね。色々お店に寄ってたら随分と遅くなっちゃって」

「えっ、私は全然大丈夫だよ?何ならこの後、一緒に夕ご飯も食べても全然大丈夫だし!」

「……ごめんね、結城さん。今日、こんなに遅くなるとは思わなくて、家の人には特に何も伝えていないんだよね。だから多分、家で夕飯を作ってしまっていると思うんだ」


 オレは咄嗟に……嘘を付く。

 元々買い物を終わらせ結城と別れた後、アキバでご飯を食べていくつもりだったので家に夕飯は無い。


「そっかー……うん、それじゃ仕方ない!今日はありがと!水樹!」


 一瞬表情を曇らせた結城だが、直ぐにパッと明るい表情に戻り笑顔をこちらに向ける。

 その笑顔が今のオレには何だか申し訳無くて、結城からスッと目を離す。


「いやいや、こちらこそ。今日は楽しかったよ。お姉さんへのプレゼント、気に入って貰えると良いね」

「うん!!」

「それじゃ結城さん、またね」


 下駄箱裏の時と同じ調子の『またね』を結城に伝え、その場から立ち去ろうとするオレの背中に結城の声が掛かる。


「ねぇ、水樹。私はもっと水樹の事が知りたい」


 その言葉を聞いてオレは足を止める。拳をぎゅっと握り、道路の一点を見つめる。

 結城の顔は見えないが、初めて聞く声のトーンで、きっとオレが見た事の無い表情をしているのかもしれない。


 ……今のオレは結城に対して最初と違った印象を持っている。


 自由奔放で自分に自信があって、キラキラしていて異性に媚びずツンツンしてて。オレとはまるっきり正反対で、決して自分と交わる系統の人だとは思っていなかった。

 でも、ひょんな事から少しだけ話をしてみると、確かに強引ではあるけれど決して嫌な感じでは無く、何故か苦笑いを浮かべて許せてしまう。

 それが結城の魅力の一つなのだろう。ツンツンしてるのに男子から人気があるのも今となっては良く分かる。

 ただ分からないのは、何故こんなにもオレに絡んでくるのだろうか。

 もっと言えば、他の男子に接する時よりも何となくだけど当たりが柔らかく感じる。

 でも、それらは全てオレの勘違いかも知れない。


 『身を(わきま)えろ』


 頭の中で『中学2年生のオレ』が警鐘を鳴らす。


「……いや、きっと知ったところでそんな大層な物はオレに無いよ?ほんと、普通のモブ男子だから。きっと結城さんをがっかりさせるだけだよ」


 結城の方に振り返らず、絞り出すようにそう口にするのが精一杯だった。

 そして重い足を引きずるように、オレは駅の方へと歩いて行った。






 ゆっくりと駅の方へ歩いていく春人の背中を、朔愛は黙って見送る。

 その表情に笑顔は無かったが、目には強い意思が宿っていた。


「どうして()()()()()になったか分からないけど……諦めないよ?私はもっと水樹の事を知りたいんだから!」


 にんっと口角を上げ、朔愛は春人の背中が見えなくなるまでずっと見送り続けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ