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ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
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第5話 朔愛の頼み事



 保健室の件から数日が経った放課後、部室で漫画を読んでいると背後でガラッとドアが開く音がした。


 あれ?今日は武史も沢渡も部室に来ないと言ってたし、先輩達が来るなんて連絡もなかったし、はて、誰だ?と椅子に座りながら後ろを振り向くと、そこには結城が立っていた。


「へっ???結城さん????」


 オレが()頓狂(とんきょう)な声を上げると「あっ、水樹!いたいたっ!」と結城はニンマリ笑みを浮かべ、こちらへ歩いてくる。

 そしてオレの隣の椅子にぽふっと座り、前かがみになって下から見上げるような感じでこちらをじっと見る。


「ねぇ、水樹。お願いがあるんだけど」

「お、お願い???結城さんがオレに???」

「そ。お願い」


 オレが結城にお願いされる事なんて思いつかないんだけど!

 てか、わざわざ部室にまで来てするお願いって、聞くのが怖いんですけど!


「な、何だろ。お願いって」

「私のお願い、聞いてくれる?」

「あ、いや、だから内容は……」

「聞いてくれる?」

「うっ……」


 真っ直ぐにオレを見つめる結城の目に、思わず言葉が詰まってしまう。

 結城(このこ)は何でこんな力強い目で、人を見つめる事が出来るんだろう。

 その押しの強さにひるんでしまう反面、何故か魅力を感じてしまう自分がいる。


「その……オレに出来る事であれば聞くけど」

「ほんと??やったー!!」

「いやいや、だからまずは内容を!!」

「ふっふーん♪」


 にまにまと笑いながら嬉しそうにオレを見つめる結城。

 何かもう既にお願いを聞く空気が形成されているんですが。

 はぁ……一体、何なんだこの子は。


「……で、オレは結城さんのどんなお願いを聞けば良いの?」


 やれやれと諦めの溜息を一つついて、結城に問いかける。


「ふふっ。あのさっ、この前下駄箱の裏でエンジェルメルトの話をしたじゃん?」

「あぁ、うん。オレの鞄についてるフラウの話とか、後は結城さんのお姉さんだっけ?が好きとか何とか」

「それそれ。そのお姉の件なんだけどさ、もうすぐ誕生日なんだ」

「へぇ。それはおめでとうだね」

「でね?誕生日祝いは何にしようかなーって悩んでたんだけど、それを水樹に選んで貰おうかと思って!」

「いや、何でオレ!?」


 結城の全く予期せぬお願いに、思わず目を見開いてしまう。


「お姉が今一番ハマってるアニメがさ、エンジェルメルトなんだよね。だからそれに関連するグッズとか何か良さそうな物があれば、お姉も喜んでくれるかなーって」


 そう言って結城はふふんっと鼻を鳴らす。


「な、なるほど。それは確かに嬉しいかもしれないね。えっとそれじゃ、オレがお姉さんが欲しそうな物を選んで、結城さんに教えれば良いのかな?それともオレが買ってきて、それを結城さんに渡せば良い?」


「なんで?」


 結城が、何を言ってるの?みたいな顔をして首を傾げる。


「私も水樹と一緒に買いに行く」

「はっ?結城さんが?オレと?」

「うん」

「えっと、それはオレと2人で買い物に行くって事?」

「うん」

「いや、えっ、あの……2人きり?」

「うん!!」

「それはあの……」

「水樹は私と2人では買い物をしたくないの?」


 オレが何と答えれば良いか分からずにモゴモゴしていると、先程同様、あの強い真っ直ぐな目でオレを見つめる。



「いやいやいやいやいやいや、そう言う訳では決してないんだけど!!!!」


 オレは慌てて手と首を横にぶんぶん振り、全力で否定する。


「なーーんだ、良かったー。ふふっ、じゃ水樹と買い物に行くー!」


 オロオロするだけのオレをよそ目に、結城は椅子をガッタンガッタン前後に揺らして喜んでいる。


「でも、その……良いの?オレなんかと2人きりで買い物に行って。もしクラスメイトに見られて変な誤解とかされたら……結城さんに迷惑を掛けちゃったりしないかな」


「変な誤解?変な誤解って何?」


 結城はきょとんとした表情を浮かべ、オレを見る。


「あっ、いや誤解と言うかその……普段、結城さんと話をしたり行動を共にしたりする事が全くないのに、オレと一緒に買物をしてるところを見られたらさ。何であの2人が?みたいな好奇な目に結城さんが晒されたら悪いなって」


「は?そんなの関係ないじゃん。私が誰と仲良くしようと勝手だし、私が水樹と2人で買い物に行ってそいつに迷惑を掛ける訳でも無いし。別に何を言われても勝手に言ってろバーカって感じでしょ」


 そう言って、『にんっ』と笑う結城の自信に満ちた笑顔を見て、オレの胸がキュッと小さく痛む。

 確固たる自信があって、しっかりとした芯を持っていて、オレには無い強さを持っている。それに比べて自分はどうだ。自信は無く、芯も無く、あるのは卑屈さだけだ。

 それでも結城のこの強さが昔の自分に少しでもあったら……という思いがふと頭に浮かぶが、ぎゅっと拳を握ってその考えを否定する。

 

 世の中には相応・不相応がある。


 今まで何度も自分に言い聞かせてきた。

 結城のお願いは聞いてあげても良いが、ちゃんと立場を(わきま)えよう。

 それが結城にとってもオレにとっても最善だ。


 オレは結城にわからないよう、小さく深呼吸をして結城の目を見る。


「うん、分かった。それじゃ、オレは特に気にしないでおくね」


 オレの言葉を聞いて、結城は『にしし』と可愛く笑う。


「オレ、土日は大体予定が空いてるから、結城さんの都合に合わせるよ。買い物はそうだな、やっぱりアニメグッズは色々なお店がある秋葉原が良いと思うんだけど、そこで良いかな?」


「秋葉原??えー行く行く!!私、まだ行った事が無いんだよね!!テレビとかで良くアキバ特集とかしてるから、一度は行ってみたいと思ってたんだー!!」


 嬉しそうにはしゃぐ結城を見てホッとする。

 今どきアキバでなければ手に入らないグッズなんて極一部の限定品で、それらも買おうと思えば通販で手に入る。

 本当は出来るだけ学校から離れたところに行って、同級生に見られる確率を極力少なくしたいだけなんだけど、それは心の内に仕舞っておこう。


「あっ、あとお姉さんの好きなキャラがいたらそれも何気に聞いておいて。そのキャラのグッズを中心に探すから」


「うん分かった!そしたら教室に戻ってスマホの予定表見てくるね!多分今週の土日はどっちも空いてた気がする!」


 ガタンッと椅子から立ち上がりパタパタと走って行った結城が、部室のドアをガラッと開けたところでふいっとこちらに振り返る。


「水樹!ありがと!」


 そう言って部室から走って出て行く結城を見て、オレの心臓は自分でも驚くくらいに高鳴っていた。


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