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ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
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第3話 気の置けない仲間


「ういーっす」


 そうひと声かけ『現代メディア研究部(メディ研)』と書かれた用紙が張られたドアを開けると、パンにかじりついていた真田が心配そうな顔をしてこちらへ走ってくる。


「おい、おい!大丈夫だったか?春人。お前、結城に何かしたのか?」

「お、おう……まぁ、大丈夫かと聞かれれば大丈夫だよ。別に結城さんに何かした訳でもないし、何かをされた訳でもない。ただ、その何と言うか……オレが変な誤解をしていないか確認されただけだから」

「変な誤解?」


 武史が首を傾げ、眉をひそめる。


「あー、それについては飯を食いながら話すよ」


 オレはやれやれと言った表情を浮かべ、鞄を机の上に置きドカッと椅子に座る。


「何か大変だったみたいね?水樹くん。平気?」


 オレと同じ2年生の沢渡(さわたり)(はな)が本を読む手を止め、心配そうに話しかけてきてくれた。


「あぁ、うん。大丈夫大丈夫。心配してくてありがとう」

「私は同じクラスになった事がないから良くは知らないけど……結城さんって水樹くんや真田くんと同じクラスの凄い綺麗な人……」

「そそ。その凄い綺麗な人の結城さん」


 オレはふぅと一つ溜息をついて鞄の中から取り出した弁当箱を机の上に置き、蓋を開ける。


「まぁ聞いてくれよ。昨日の事なんだけどさ……」


 オレは弁当のおかずを口に放り込みながら、昨日起こった顛末を2人に伝える。



「えー、水樹くん凄いじゃん!!」

「やるな、春人!!」


 かい摘んでではあるが、昨日起こった出来事を一通り2人に説明し終えると、同時に称賛の声が上がる。


「別に凄かーないよ。オレ、大声で叫んで逃げただけだもん」


 最後の一つになったミートボールを口にぽんと投げ入れ、もぐもぐと口を動かしながら目を(つぶ)って首をコキコキと鳴らす。


「ま、結果的に結城さんに怪我もなかったみたいだし、オレもバレてはしまったけれど、特に面倒くさい事にはならなそうだし、とりあえずこの件は問題なしで終わりかな」


「ううん……それでも凄いと思う。普通だったら怖くて素通りしちゃうもん」

「そうだなー。オレも春人みたいに大声を上げて、結城を助ける自信はないわ」


 何だかべた褒めされてくすぐったい気分だけど……この2人に褒められるのは素直に嬉しい。


「……ありがと」


 ちょっと照れくさいが、2人にお礼を言う。


「でもさ、何だか漫画みたいじゃない?クラスのヒロインのピンチに颯爽と駆けつけるなんて」

「だなだな!ここでヒロインに恋心が芽生えちゃったりしてな!」


 先程までオレに尊敬の眼差しを向けていた2人の目がニヤリと笑う。


「ないない。勘弁してよ。そう言うの、本当にないから」


 オレはぐんにゃりとしながら天を仰ぐ。


「いや、分からないわよ?女の子にとって、自分がピンチの時に颯爽と駆けつけてくれる人がいたら、それは王子様に見えちゃうんだから」


「王子様って……」


 沢渡、お前少女漫画の見すぎだろ。


「だなだな。そこから恋が始まってあんな事やらこんな事やら……くぅー、羨ましいぞ!!春人!!」


 武史、お前はエロ漫画の見過ぎだ。


「はぁ。いやマジで無いって。相手は『あの』結城朔愛だぞ?仮に天地がひっくり返ってその可能性が0.001%生まれたとしても、オレと結城さんでは全く釣り合いが取れないし、バランスの取れない付き合いはするべきではないよ。どっちも不幸になる」


 胸にチクッと痛みを覚えながら、空になった弁当箱を眺める。


「そんなもんかー。夢がないのぅ」


 武史が両手を広げて大げさに天を仰ぐ。

 沢渡は口を結んだままじっとオレを見つめる。


「まーほら、オレみたいな陰キャモブ男子はまったり学生生活を送れればそれで十分上出来さ。それでこうやって何の気も使わない友達がいれば、もうそれで言う事はないよ」


 オレは2人に向けて軽くウインクをする。


「いやー、安心してていいぞ?俺は何が起きてもずっと春人の友達だ!」

「ふふっ、私も水樹くんに『気を使わない友達』って言われて嬉しいけれど、それって女としてよくよく考えてみたら褒め言葉になるのかしら?」


 武史は嬉しそうに俺に向けて親指を立て、沢渡は意地悪そうな笑みをオレに向ける。


 本当、気の置けない友達ってのは良いもんだな、とつくづく思う。

 オレは「これからも宜しくな」と心の中で小さく呟いて、2人に向けて穏やかな笑みを浮かべた。


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