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ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
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第2話 予期せぬ呼び出し


『キーンコーンカーンコーン』


 午前の授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響き、静かだった教室内がガヤガヤと騒がしくなる。

 オレは自席でぐぐっと背伸びをしながら窓際に座る結城の方にチラリと目を向ける。

 普段と変わりない様子で、結城はクラスメイト達と談笑をしていた。


 昨日、多少なりとも怖い思いをしたんだ。気が強いとは言え一応女の子だし、今日はちゃんと学校に来れるんかね?と少し心配しながら登校したけれど、教室の中に入ると既に結城がいて、いつも通りカースト上位組と仲良さげに笑い合っていた。


 流石、陽キャ組筆頭キラキラ女子である。


 もし昨日絡まれたのが自分だったら、心の傷が深すぎて今日は学校を休んでいたかもしれん。打たれ弱いんよ。陰キャモブ男は。

 そう自虐しながらも、結城の様子に特段変わりがない事にホッと胸を撫で下ろし、横に座る友人の真田(さなだ)武史(たけし)に話しかける。


「武史ー、今日昼飯どうする?部室行って食う?」

「おう!あ、でも今日は弁当を持ってきてないから購買行ってパン買ってくるわ。先に行っててよ。オレも後から部室に行くからさ」

「へいへい。んじゃ、先に行ってるかー」


 むにゃむにゃと欠伸を噛み殺し、鞄から弁当箱を取り出そうとすると、ふっと目の前に人影が出来る。

「んー、何だ?」とポソリとつぶやいて顔を上げるとそこには……オレを見下ろす結城の姿があった。


「ねぇ、水樹……だっけ?聞きたい事があるんだけどさ、この後ちょっと良い?」


 猫のようなクリクリとした目でオレを見つめる(睨む?)結城。

 オレが呆然と結城を見上げていると、結城の言葉を聞いた武史が顔を引き()らせながら、「春人、何かあの、忙しそうだから俺は適当に部室で飯を食ってるわ。だからその、気にせずゆっくり、な?」と言ってそそくさと教室から出て行く。


 あいつ……逃げたな……


「ねぇってば。あんたに聞いているんだけど?」


 腕を組んでこちらを見る結城の目がギンッと強くなる。


 何だろう、悪い事をした覚えはないのに何故か背筋がピンッと伸びてしまう。こう言う訳の分からない時は極力冷静に、そして穏やかに話をしていくしかない。


「あぁ、うん良いよ。何だい?結城さん」


 頑張って口角を上げるが、果たしてちゃんと笑えているだろうか。


「ここじゃ何だからさ。裏で話そうよ」


 そう言ってクルッと(きびす)を返し、教室のドアの方へ歩いて行く。

 ポニーテールにした長い髪からふわっと良い匂いがオレの鼻に香り、ついドキドキしてしまう。

 ……いや、違うな。これはそんなヌルいドキドキではないな。不安と緊張が入り混じったドキドキだな……


 小さい溜息をひとつ付き、ゆっくりと立ち上がって結城の後を追う。

 今日お昼ごはん、食べられるかなぁ……

 お腹がぐーっと鳴り、体の『おい!腹減ったぞ!』と言う訴えを感じながら、オレはとぼとぼと結城の後を付いて行った。




 結城に連れてこられたのは1階の下駄箱裏、人気の無い裏庭だった。

 何でこんな所に……別にオレは結城に悪い事なんてしていないぞ!?と不安を感じつつ、極力冷静な雰囲気を装う。


「あのさ、昨日の放課後に近くのコンビニで私を見たでしょ」

「えっ?」

「だから、私がコンビニでクズみたいな男達に絡まれているのを助けてくれたの、あんたでしょ?」


 腕を組んで、小首を(かし)げた結城がオレをじっと見つめる。

 そうか、バレてたのか……でも、なんでバレたんだろう?

 と言うか、結果的にちゃんと結城を助けたはずなのに、こんな緊張感を味わわないといけないのは何故っ!


「……」


「はぁ~……絡まれてる時にどこかで『お巡りさん、こっちです』って大きな声が聞こえて男達が逃げた後、うちの学校の制服を着た男子が走って行くのを見かけたけど、あれ、あんたでしょ?」


 まさか見られていたとは。

 目ざといなぁ、結城。


「……うん。確かにそれはオレだね。でも何でオレって分かったの?顔とか分からない様にしていたつもりだったんだけどな」


 率直に浮かんだ疑問を結城へ投げかける。


(かばん)

「えっ?」

「あんた、鞄にエンジェルメルトに出てくるフラウのぬいぐるみキーホルダー付けてるでしょ?そんなん付けてるの、あんたしか見た事ないもん。私が昨日見た男子も同じキーホルダーを付けてたのよ。走りながらぬいぐるみがぶんぶん揺れてて目立ってたわよ?」


 結城の言葉を聞いてオレの胸がキューーーーっと締め付けられる。


 魔法少女エンジェルメルトはオレが今一番ドハマりしている深夜アニメで、フラウはその中でマスコット的なキャラクターとして登場する猫である。

 まさか、結城がエンジェルメルトを知っているとは……普段から鞄に付けていたフラウの存在を知られていたとは……

 現代男子高生にとってクラスの陽キャに、しかも女子に魔法少女物を嗜んでいる事を知られてしまうのは、今後の学生生活を平和に過ごして行く上で大変よろしくない。


 くぅ……何でお前、そんなマニアックな深夜アニメを知っているんだよ……


「へ、へぇ!結城さん、良くそんなマニアックな深夜アニメを知ってるね!結城さんはそう言うの、見ないと思ってたよ!!」


 オレは不安と動揺を心の奥深くに埋め込んでその上からコンクリを流し込み、平然を装って笑顔を浮かべる。


「あぁ。お姉が漫画とかアニメが結構好きで、私もたまにだけど一緒に見てるからさ」


 結城は「ふぅ」と軽く息を吐いた後、改めてオレに問いかける。


「で、あれはあんたで間違いないのね?」


「んー、まぁ、そうだね。結城さんが見た走り去る生徒はオレだし、お巡りさーんって声を上げたものオレだよ」

「ふーん。助けてくれたんでしょ?私の事を。で、何であんたも逃げちゃう訳?」

「あー、うーん……その、別に助けたって言うほど大げさな事でも無いし、わざわざ名乗り出るほどでも無いし、何て言うか結城さんに変な恩を感じさせちゃうのも嫌だったし」

「ふーん」


 結城のクリクリした目がジトッとした半目になりオレの顔を見つめる。

 うっ、そんな目で見ないでっ……オレ、別に悪い事してないじゃん!!っと心の中で涙目になる。


「何も言わずに走って行っちゃったからさ。もしかしたら、あんたがあのバカ男達の事を私の友達とか、付き合いのある奴等だとか思ってたら嫌だなと思って」

「あぁ、結城さんて色々な友達多そうだもんね。でも流石にあいつ等は違うってすぐに分かるよ。あんな奴等と付き合う様な子じゃ無いでしょ、結城さんは」

「ふーん?『子』、ねぇ」


 オレを見る結城の目がニヤッと笑う。


「あっ、ごめんごめん。つい。『子』じゃ無くて『人』だったね」


 そう穏やかに笑って訂正するが、心の中でオレは「どうしよー!!!どうしよー!!!間違った!!!変な事を言っちまった!!!」と泣き叫びながら、おでこをゴンゴンと地面に叩きつけていた。


 オレの言葉を聞いて『ふふっ』と笑い、一度視線を下げた結城が再び顔を上げると、普段のクリクリとした目に戻って笑顔を浮かべていた。


「ま、勘違いされて無かったのなら別にいいわ。あと、ありがと。助けてくれて」

「いや、本当に大した事はしてないし。でも良かったよ、結城さんに怪我も無かったみたいで……ってそう言えば大丈夫だったの?手首を掴まれてたけど?」


 ふと、昨日の入れ墨男が結城の手首を握っていた事を思い出す。


「あぁ、うん。大丈夫。特に痣にもなっていないし」

「そっか。それなら良かった」

「……悪かったわね、こんな所に呼び出して」

「いや、いいよいいよ。色々誤解も解けたみたいだし……おっと、そろそろお昼ご飯に行かないと。オレは部室で真田と待ち合わせしてるから、もう行くね?」


 オレが考えうる最高のタイミングで、この場から離脱する言葉を結城に伝える。


「うん、それじゃーね水樹……あっ、そう言えばさ。水樹って何の部活をやってるの?」

「ん?メディ研……現代メディア研究部。別に特別何かをするって部活じゃ無いけど、漫画とかアニメとか映画とかの感想を適当に駄弁だべるゆるーい部活だよ。部員は5人しかいないけどね」

「ふーん」

「それじゃ結城さん、またね」

「……うん、『また』ね。水樹」




 オレが発した社交辞令の『またね』とは若干ニュアンスの違う結城の『またね』を背中で受けオレは部室へと歩いて行った。

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