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ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
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第12話 春人の過去



「ねぇねぇ、水樹くんって英語好きなの?」

「えっ?」


 放課後、図書室で英会話の本を読んでいると頭上から声が掛かり、ふっと顔を上げると同じクラスの佐伯(さえき)有桜(ありさ)が目の前に立っていた。


「あれ、佐伯じゃん。えっと、何だって?」

「英語。水樹くん、いつも放課後に英語の本を読んでるでしょう?」


 そう言って佐伯はオレの隣の椅子を引きストンっと座る。


「あぁ。ん~、別に凄い英語が好きって訳では無いんだけど、洋画が好きでさ、オレ。最初は吹き替えで見てたんだけど、どうも最近の声優にしっくりこない事が多くてね。今は字幕で観てるんだけど、どうせなら英語が分かった方がもっと楽しめるかなーと思って」


「へー!水樹くん()洋画が好きなんだ!」


 佐伯は目をキラキラさせて若干前のめりになる。


「そうだねー……って『も』って事は佐伯も洋画が好きなの?」

「うん!好き!最近だとマーベ◯シリーズを一気見したの!」

「マー◯ルって……女の子にしては珍しいね」

「むぅ……そうなの。周りは大体、邦画の恋愛物とプリンセス系のディ◯ニー作品好きが多いの」

「まー、中学2年の女子だとそうなるわなー」


 オレはハハハと乾いた笑いを上げる。


「……ねぇ、水樹くん。私もさ、放課後の英語勉強会に参加しても良いかな?」


 佐伯が伏せ目がちにして問いかける。


「いや、『勉強会』って言われてもオレしかいないし。まぁ全然構わないけど大して勉強なんてしてないよ?英会話の本を流し見してるだけだし」

「うん!それでも全然構わないの!やったー!」


 椅子の上で両手を上げてぴょんっと跳ねた佐伯は、静かに本を読んでいた周りの生徒から睨まれる。


「あっ……すみません……」


 無言の圧力にしょぼんとする佐伯。今まで全然話した事がなかったけど、面白いやつだなーと笑いを噛み殺す。


「でさ、水樹くん」

「ん?何?」

「英語の勉強だけじゃなく、映画のお話とかもしたいんだけど……良いかな?」

「……お前、そっちが本命だろ?」

「あっ、バレた?」


 テヘッと舌をペロリと出す佐伯。


「でも私、水樹くんが映画好きだなんて知らなかったし。いつも英語の勉強をしているのを見て私も興味が湧いた訳だし、英語の勉強をしたいのは本当だよ?」

「いやまぁ、良いけどね。オレも映画の話をするの好きだし」

「やった!!あっ……(やった!!)」


 一瞬大きな声を出すが直ぐに体を丸くし、小さくガッツポーズを作る。


「これから宜しくね!水樹くん!!」

「あぁ、宜しく。てかオレ、佐伯の事を全然知らないんだけど」

「そうだよね。余り喋った事が無いもんね。私達」

「余りと言うか、全然」

「じゃ、これから知って行くと言う事で!」


 えへへと笑う佐伯。




 ……そう、これがオレと佐伯が初めてまともに会話をした時の記憶だ。

 この時はまだ佐伯と……外見の可愛さと明るい性格で、学年でも1,2位を争うほど人気のある女の子と2人で放課後を共にする事が、周りからどう見られるかなんて全く分かっていなかった……




 佐伯と一緒に放課後を共にするようになったのが中学2年生の夏休み前。気がつけば季節は移り変わり、外で雪がちらつく季節になっていた。

 通っていた中学は1年生から2年生に進級する際はクラス替えがあるが、2年生から3年生に上がる際は行われない。

 オレと佐伯は3年生になってもそのまま同じクラスになって、放課後の勉強会も変わらずに続くはず……だった。


 2月中旬、いつもと同じ様に佐伯と放課後を図書室で過ごし、借りていた本を棚に戻しに行くと、いつの間にか背後に佐伯が立っていた。

「どうしたの?」と佐伯に尋ねると、佐伯は後手に持っていたバレンタインデーのチョコレートをオレの前に差し出し「はい、これ!」と含羞(はにか)みながら渡してくれた。

 生まれて初めて女の子から貰うバレンタインチョコをドギマギしながら受け取り、乾いた声で「ありがとう」と言ったのは今でも覚えてる。

 当時はハッキリと自覚はしていなかったけど、オレは佐伯の事が好きだったと思うし、多分佐伯もオレに好意を寄せてくれていたんだと思う。

 その日、オレは佐伯と手を繋いで帰った。オレの人生で初めて女の子と手を繋いだ瞬間だった。


 そして翌日……教室のドアを開け中に入ると、クラスメイトが一斉にオレを見てニヤニヤ笑みを浮かべていた。

 何だ?と思ってふと黒板を見ると、オレと佐伯を揶揄(やゆ)する絵が書かれていた。佐伯がオレのチョコを渡し、手を繋いで歩いて帰る四コマ漫画の様な絵だ。

 ふと佐伯の席を見ると、椅子に座り顔を伏せてずっと下を向いている。


 どうやら昨日の図書室での事や、手を繋いで帰ったところを誰かに見られていたらしい。

 オレは拳をぎゅううと強く握りながら無言で黒板の絵を消して行く。

 するとクラスでもお調子者の西山(オレはこいつが大嫌いだった)がヘラヘラしながら近づいて来た。


「何だよ水樹ー、消しちゃうのかよ~折角上手く書けたのにさ~。でも、お前がまさか()()佐伯と付き合えるとはなぁ。身の程知らずでもチャレンジすれば奇跡が起きるもんだなぁ」


「は?」


 オレは西山を睨む。


「あれ?佐伯が言ってたぜ?お前から告ったんだろ?だからチョコも貰えたんだろ?上手くやったよなぁ。お前ごときが。どんな手を使ったんだよ?オレにも教えろよ」


 ニヤニヤと笑う西山を無視して佐伯の方を見ると、肩を震わせて今にも泣き出しそうにしてる。

 ……いやまぁ分かるよ。

 きっと相手がオレじゃ無く、もっと華やかな奴だったら佐伯おまえもそんな嘘を付く必要は無かったんだろうな。そりゃ相手がオレじゃ言いにくいよな。

 生まれてからこの方、相応とか不相応とか釣り合いが取れる取れないなんて考えた事も無かったけれど……今日初めて分かったよ。


「で、水樹」


 ニヤついた顔を更にゲスくさせ、西山が顔を近づけてくる。


「もう、やったの?」


 そう西山が小さくオレに問いかけた瞬間、オレは固く握った拳を西山の顔面に叩きつけていた。




 ベッドに座ったままオレはふーっと深く溜息を付く。

 結城はオレの顔を見つめたまま微動だにしない。


「結局さ、当時オレと佐伯は知らなかったんだけどさ。まぁ影じゃ結構噂になってたみたいでね。オレと佐伯が怪しいって。でも何で水樹みたいな奴が佐伯と?って。中学2年なんて本当にクソガキだから、悪意無く茶化すのは今考えてみればちょっとは理解出来るんだけどさ……」


「その後、水樹とその佐伯って子はどうなったの?」


 表情を変えず、淡々とした様子で結城がオレに問いかける。


「ん?あぁ、どんな理由があろうとオレは暴力を振るったんで呼び出しを食らったけど、西山の行動もそれなりに問題があったからね。お互いの親を呼び出した上でオレが頭を下げて終わったよ」

「……佐伯って子は?」


 再びオレに問う結城の顔が一瞬険しくなる。


「佐伯はまぁ……その後、放課後の勉強会も一緒にやらなくなったし3年に上っても必要最低限の事しか話をしなくなったし……結局どう思ってたんだろうね。今となってはもう分かりようがないけどさ」


 オレは首を横に振って、下を向いていた顔を上げる。


「まっ、こんなとこ!大して面白い話じゃないでしょ?だからさ、そんな事があってか、クラスでも人気のある結城さんとは出来るだけ関わらないようにしていたんだけど……でも、」


『今は結城と友達になりたいんだ』


 そう伝えようとして、オレは言葉を失う。

 


 結城は怒りに満ちた目でオレを見つめながら、大粒の涙を流していた。





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