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ツンデレ朔愛からは逃れられない  作者: 柚野ゆず
第1章 縁の始まり
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第1話 些細なキッカケ



「はぁ……どうすっかなぁ……」


 放課後、ゲーセンに寄ってお目当てだったプライズのぬいぐるみキーホルダーをゲットしてウキウキ気分だったオレ、水樹(みずき)春人(はると)は自宅へ帰る道すがら頭を悩ませていた。

 その原因は、少し先にあるコンビニの入口で揉めている3~4人の私服姿の男達と制服を来た女の子のせいである。

 男達はいかにも『どやっ!俺達ヤンチャだぜ!』みたいな服装をしており、袖を捲った腕には入れ墨が入っている者もいる。

 もうね、絶っっっっ対に関わりたくない系統の方達である。普段だったら何も考えずにこのまま下を向いて通り過ぎる所だが、それが出来ない理由は制服の女の子にあった。


 絡まれている制服の女の子――結城(ゆうき)朔愛(さくあ)――は同じクラスの同級生だった。


 結城はクラスの中でも目立つ女子で、栗色の綺麗な長い髪をポニーテールで(まと)め、クリクリとした猫目と自由奔放な振る舞いからか、『朔にゃん』と言う愛称で呼ばれていた。

 気の強い性格で、男子にもタメ口であれやこれや命令をしているが不思議と回りからは好かれており、いわゆるカースト上位の女子だ。


 かたやオレは、何の取り柄も無く勉強もスポーツも中の中、外見も極々普通。

 高校2年に進級してまだ2ヶ月、初めて同じクラスになった結城からはクラスメイトとして認識されているかすらも怪しい訳で、ここでそのままスルーして帰ったしても特に問題はなさそうである。

 が、やはりクラスメイトな訳だし、もし仮に絡まれているとしたらそのまま無視するのはなぁ……と溜息を付きながら歩を進める。

 もしかしたらあの(やから)的な方達はご友人で、わちゃわちゃ(じゃ)れ合っているだけかもしれないし、それだったら邪魔をしても申し訳ないし、とりあえず近くまで行って会話の内容が穏やかであれば、その時はそのままスルーしようかね、と都合良く考えていたオレの希望はあっさりと裏切られる。


「だから離してっていってるでしょ!!何なのよあんた達は!!」

「は?オメェから喧嘩売ってきたんだろ?」

「お店の前で座り込んでるから中に入るのに邪魔って言っただけでしょ!?それの何が悪いのよ!!!」

「だからそれが喧嘩売ってんのかつってんだよ!!ツラが良いからって調子乗んなよオイ!?」


 まだコンビニまで少し距離があるのに……皆さん、声がとても大きいので一瞬で理解できました。はい。ご友人では無いみたいです……


 腕に入れ墨が入った男に手首を捕まれ凄まれている結城だが、全く臆すること無く男を睨みつけている。

 コンビニに入る客も出て行く客も『私、関わるのは御免です』と言わんばかりにそそくさとその場を後にする。


 と、言う事はやはりオレがどうにかするしか無い訳で。


 でもオレ、喧嘩とか殆どした事が無いし、お礼参りとかも怖いし、漫画みたいに結城を助けてオレ強えーをやりたいとかも無いし、ただただ学生生活を平穏に過ごして行きたいだけのモブ学生だし。


 遠目で結城達を眺めながら、さてどうしたものかと色々悩んだ結果、『よし、ここは世界でも優秀な日本警察の威を借りよう!』と言う何の捻りもない、ごく普通の結論にたどり着く。

 コンビニから10数メートルほど離れた所で脇道にそれ、男達の視界から隠れながら身体を屈め、出来るだけ大きな声で叫ぶ。


「こっ!こっち!!!!こっちですお巡りさん!!!!!いそっ、急いで!!!女の子が……女の子が悪そうな男達に襲われてます!!!!」


 そう叫ぶオレの声に驚き、掴んでいた結城の手首をパッと離した入れ墨男が辺りを睨む。


「あぁ!?誰だ!?どこにいる!!!」


 その声を無視してオレは更に大声で叫ぶ。


「あぁ!!お巡りさんこっちこっち!!早くしないと!!男達が逃げちゃう!!!」


「チッ」


 苦々しい顔をして舌打ちをする仕草をした入れ墨男は、仲間に何かを話しかけ、こちらとは反対方向に走って逃げて行く。こんな古典的方法、果たして上手くいくのだろうかと自分自身でも半信半疑だったが意外と上手く行くもんだ。


 流石、世界でも優秀な日本警察。ネームバリュー凄い。


 脇道に隠れながら男達が走って去って行く様子を見て、オレはホッと胸を撫で下ろす。

 気がつけばギュッと握った手にはじんわりと汗が滲んでいた。


 さて、後は残された結城だけど別にお礼を言われたい訳でも無いし、そもそも自分が助けましたと名乗り出るつもりもない。

 決して嫌いな訳では無いが、やはりクラスカースト上位でキラキラした結城には何となく苦手意識がある。


 なので、ここはこのまま逃げる事にしよう。

 自宅までは少し遠回りになるけれど、道路を渡ってコンビニの反対側から迂回して帰るとするか。

 オレは身体を屈めたまま脇道から出て、そのまま結城の方を見ずに走ってその場を後にした。



 


「あいつ……あの(かばん)の人形……」


 後日知る事になるが、結城に見つからずその場を後に出来たと思っていたのはオレの思い違いで、どうやらしっかりと見られていたらしい。


 そしてこの出来事がオレと結城を結びつける……いや、違うな。

 正確にはこうだ。



 この些細なキッカケによって、オレが『ツンデレ朔愛』に追い回される物語が始まる事になったのだ。




『ツンデレ朔愛からは逃れられない』に興味を持っていただき、誠にありがとうございます。

作者の柚野ゆずと申します。


本作第1章、『縁の始まり』は10月29日の第13話で完結の予定です。

一先ず、そこまでお付き合いいただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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