織田は
「織田様が明智に?」
「はい。織田様が京に滞在している所を明智に狙われたとの事であります。」
「この報の出処は?」
「金山の商人からであります。」
金山は森長可の本貫地。そこの商人は森長可の川中島移封に伴い信濃にも進出。
「景勝が魚津に向かった理由は?」
「無人となった魚津の奪還を目論んでいるとの事であります。」
「柴田様は?」
「柴田様は魚津を落とした後、放生津で打ち上げをしていた所。この報を受けた模様であります。」
放生津は今の富山県射水市にある港。
「魚津が無人になっていると言う事は?」
「はい。柴田様以下北陸の方々は皆。それぞれの本拠地に戻られました。」
と言う事は……。
「越後周りで織田の家臣は?」
「我らしか居ません。」
「景勝は?」
「越中に居ます。」
「すぐにここが狙われる事は?」
「ありません。しかし芋川と島津が居ます。」
芋川親正と島津忠直は川中島北部。武田上杉の境を領していた国人領主で武田滅亡後、上杉景勝の誘いに乗り反旗を翻して来た人物。この時森は徹底抗戦。川中島から追い払うのに成功したのでありましたが……。
「あの時我らがやった事に恨みを覚えている者が居るやも知れません。」
森長可が芋川以下反抗して来た者に対し行った行為。それは……撫で斬り。
「今我らに従っている者の中に、その時斬られた者の身内も居る事でありましょう。二度と刃向かう事が出来ないよう行った措置でありましたが、あまりにも日が浅い。京の政変に柴田様の撤退。越後周りの織田方はうちだけである事がわかった時、間違い無く彼らは我らの命を狙う事になります。まずはここを脱出しなければなりません。」
「芋川、島津に動きは?」
「徹底的にやった価値があると言うものであります。」
「今採るべき手立ては?」
「奴らの態勢が整う前にここを離れる事であります。」
「川中島の。芋川島津に通じた者共が待ち構えては居ないか?」
「旧芋川島津領は我らの直轄地。街道筋は押さえてあります。」
「芋川、島津が背後から狙って来る恐れは?」
「御安心下され。しんがりは某が承ります。尤も奴らが動く事はありませんが。」
「感謝する。ただ無理はしてはならぬぞ。」
「お任せ下され。」
「ところで?」
「如何為されましたか?」
「名前を確認しても宜しいでしょうか?」
「殿。若いのに大丈夫でありますか?」
「申し訳ない。」
「仕方ありませんね。某の名は大塚次右衛門に御座います。以後お見知りおきを。」
「わかった。其方を信じ、ここを離れる。」
「では海津城でまた。」