人質は
その頃海津城では……。
林通安:既に皆様の所にも森長可からの書状が届いている事と思われます。
出浦盛清:まだ届いていないと言う方……宜しいでしょうか?今回は皆様にお集まりいただきましたのは、深志城での件についてであります。今、木曽義昌管轄内を始めとした東国の織田領において次の噂が駆け巡っています。
「森長可が深志城で川中島の国衆から徴収した人質を亡き者にした。」
と。この件につきまして林より説明があります。
林通安:まず皆様に御心配をおかけしました事。深くお詫び申し上げます。しかしこれは事実ではありません。全く嘘であります。ただその嘘を最初についたのは我が主君森長可であります。
何故そのような嘘をついたのか?についてでありますが、この原因となったのが木曽義昌の謀叛であります。森長可やその家臣。更には皆様からお預かりしました大事な御家族を木曽が亡き者にしようと画策していたからであります。
殿は無用ないくさを望んではいません。可能な限り、平和裏に解決したいと考えている方であります。しかし相手は木曽。話し合いで何とかなる相手ではありません。そこで殿が一計を案じ、木曽の跡取りを確保。木曽の跡取りを使って木曽の矛を収めさせる手立てを講じる事になりました。
ただ木曽は……皆様も御存知の通り、自らの利益の為なら御自身の母君並びに嫡男を見殺しにしても構わない人物であります。木曽の跡取りを手元に置いておくだけでは不十分でありました。
そこで一芝居を打つ事に相成りました。
「森は容赦をしない。」
と……。その結果、誰一人として犠牲を出す事無く金山城に到着する事が出来ました。
冒頭に戻りますが、皆様に多大な御心配をおかけしました事。森長可に代わり深くお詫び申し上げます。」
高坂昌元:皆様。納得していただく事は……ありがとうございます。
林通安:最後に森長可と共に美濃に同行しました皆様の御子息についてであります。今後彼らは森長可直属の家臣として活動する事になります。これと並行しまして、織田家当主との繋がりを深める機会を増やしていく事も考えています。彼らはいづれ皆様の跡取りとなられる方々であります。その際、彼らが持つ織田家との繋がりが役に立つよう責任を以てお育てする事を森長可に代わりお誓い申し上げます。
彼らは人質ではありません。皆様の跡取りであり、森家。いや織田家の家臣であります。海津城下の御家族につきましても、私は人質として扱う事はありません。
唯一、人質と言える人物が居るとするならば……私になりますでしょうか?
皆様のお力を貸して下さい。お願い申し上げます。