事情が
出浦盛清:しかし事情が変わった。森様が川中島の維持を表明され、森様の祖父林通安様が残られる事になった。そして私はその林様を助ける役目を森様から仰せつかった。これまで私が担って来たのは隠密。決して表に出る役目では無く、どちらかと言えば皆が嫌がる仕事。成果を示す事が難しく恩賞に結び付く事はほとんど無かった。そんな私に森様は目を掛けてくれた。意気に感じない者等居らぬ。ただそうしたのは……。
高坂。お前の差配だろ?
高坂昌元:ん!?いえ私は川中島の放棄を思い留まるよう働き掛けただけであります。
「こんな血の気の多い奴には、敵の最前線が丁度良い。」
と長沼、飯山に出されただけであります。
出浦盛清:そうでは無いであろう。人と物の調整が面倒なだけであろうに。厄介な仕事押し付けて来やがって……。
高坂昌元:しかし嫌いでは無いであろう?
出浦盛清:……まぁな。それに家老になって良かった事もある。これまで秘密裏にしか出来なかった他家との折衝がし易くなった。織田家重臣の家老となれば、これまで会っていただく事が出来なかった方とも話をする事が出来るようになる。勿論森様林様の了承が必要である事に変わりは無いが。
先程も言ったように今後、信濃は乱れる。1つの舵取りの失敗が、即滅亡に繋がる事になる。そのためには情報の収集と分析。そして国衆同士の連携が重要となって来る。これは川中島も同様。我らは森様の家臣であるが、森様の主力は美濃。川中島までには距離があり、その間には木曽が居る。何か事が発生した際、川中島に残った者共だけで対処しなければならなくなる。当然その事は他家も知っている。
北の上杉は間違い無く川中島を狙っている。木曽がどう考えているかわからないが、少なくとも我らは木曽の事を信用していない。
高坂昌元:……そうだな。
出浦盛清:起請文を提出したとは言え、森様がここを離れた後も国衆が約束を守るかどうか定かでは無い。彼らはわかっている。海津城を奪いさえすれば、人質を取り戻す事が出来る事を。この点高坂殿は信用出来る。庄助殿を美濃に出したのでありますから。
高坂昌元:庄助の将来を考えた場合、森様を通じ織田家との繋がり深めて損は無いから。が理由でありますが。
出浦盛清:……私もそうした方が良いかな?
高坂昌元:やるなら森様が居る今の内ですよ。
出浦盛清:……わかった。ちょっとお時間いただけますか?
高坂昌元:構いません。我らは今後も川中島に留まるのでありますから。