第79話 川から飛び降りた先で
アリシャは窓から顔を覗かせて追っ手を確認してくれていた。
だから、俺たちがギリギリ耐えられた衝撃に耐えられず、窓から落ちてしまったのだろう。
リリナはアリシャに空中で抱きついて、そのまま川に落ちようとしているが、下が川だからと言って安全なわけではない。
崖から落ちて下に川があったから助かったなんてのは、フィクションの世界だけだ。
普通、ある程度高い所から落ちたら、内臓破裂とか骨折とかするのが普通だ。
何度も死にそうになった時に助けてくれたヒロインたちに、そんな怪我をさせるわけにはいかない。
このままだと、二人とも水面に体を叩きつけて大けがをするかもしれない。
俺はそう考えて、ぐるっと水面に背を向けて剣を引き抜いた。そして、空に目がけてスキルを使用しながら剣を振り下ろした。
「竜風(魔)』!」
すると、渦の空に向けるようにした竜巻が地面をえぐりながら飛んでいった。そして、俺の落下スピードが上がっていき、先に落ちた二人に追いつけそうになった。
「「ろ、ロイドさま?」」
俺は風で煽られる中、剣を鞘に収めて、近くの崖壁に生えている太い幹の木に向けて右手を向けた。
「『硬糸(魔)』! リリナ、アリシャ! 俺に力いっぱい抱きつけ!」
俺が『硬糸(魔)』を木に向かって放つと、『硬糸(魔)』が木に巻き付いていった。リリナとアリシャは俺のしようとしていることに気づいたのか、俺が二人の横を通り過ぎる瞬間に、俺に飛びついてきた。
がっしりと二人が俺に捕まっているのを確認してから、俺はスキルを発動させて、『硬糸(魔)』をぐっと引っ張る。
「『豪力(魔)』!」
俺がスキルを使って力いっぱい『硬糸(魔)』を引っ張ると、体が水面に落ちる直前で体が一瞬くんっと浮いた。
メキメキッ! バキバキッ!!
そして、木が軋む音が聞こえてきて、俺が糸をかけていた部分が折れてしまった。
バシャッ!! バシャ――ンッッ!!
それから、少しの高さから落ちた俺たちと、折れた木が水面に叩きつけられる音が響いた。
「ぷはっ、二人とも無事か?」
俺は水面に上がってから、抱きついている二人の安否を確認する。すると、アリシャもリリナも特に痛みで顔を歪めているようなこともなく、濡れている点以外はいつもと変わらないようだった。
「は、はい。ロイドさまのおかげでなんともありませんでした。ありがとうございます」
「ロイドさま! すぐに駆け付けてくれるなんて、嬉しいです!」
それどころか、俺の言ったことを忠実に守ったようで、二人とも俺に強く抱きついたまま離れようとしなかった。
……本来なら、『硬糸(魔)』で木を引っ張ったとき、いくら俺に強く抱きついていても衝撃に耐えられず、二人とも川に落ちていたかもしれない。
そうならなかったのは、ケインの『支援』のスキルのおかげだろうな。
「ロイドさま、申し訳ございません。私が馬車から落ちたばかりに」
「いいや。アリシャは追っ手を見てくれていたんだから、悪くないだろ。そもそも俺が追われているのが悪いんだから気にしないでくれ。『硬糸(魔)』」
俺はそう言ってから、『硬糸(魔)』を木に括りつけて、木に掴まってから落ちてきた橋を見上げる。
「とりあえず、あの木に掴まってしばらくやり過ごすか」
それから、俺は『硬糸(魔)』を木に括りつけて、木に掴まってから落ちてきた橋を見上げる。
上の様子は見えないが、橋を落して大きな音が聞こえたのなら、馬車が落ちたと勘違いしてくれたかもしれない。
それなら、追っ手を上手く巻くことができたかもしれないな。
俺はそこまで考えてから、二人と共に木の上に上る。
すると、ぷるぷると犬のように体についた水を払っていたリリナが銀色の耳をぴくぴくっとさせた。
「ロイドさま! 水の中に何かいます!」
「なに? 水の中に?」
俺がリリナの言葉に眉根をひそめると、水の中から急に大きなワニのような口がガバッと現れて、俺たちが乗っている木の一部をバキバキっと音を立ててかみ砕いた。
水中から一瞬見せた顔から、俺たちに攻撃を仕掛けてきたのが、大きなモササウルスのような魔物だということが分かった。
「くそっ、次から次へと!」
「撃ちます……ロイドさま?」
俺はアリシャが矢を放とうとするのを制して、剣を鞘から引き抜いた。それから、俺は俺たちの乗っている木をかみ砕いた魔物に切っ先を向ける。
これまで冤罪をかけられて追っ手に追われたり、我慢をする戦いが多かったりしただけに、フラストレーションが溜まっていた。
それを全力でぶつけてもいいという状況なら、ここで発散しておくのも悪くはないだろう。
「ここは俺に任せてくれ」
「ガアアア!!」
すると、モササウルスのような魔物は俺たちに向けて口をガバッと開けて、こちらに向かってきた。
俺はそんな魔物が射程距離に入った瞬間、スキルを使って剣を振り下ろす。
「そのでかい口にワイバーンの炎を打ち込んでやるよ。『炎弾』‼」
すると、大きく開けた口に向かって、炎の塊が唸りを上げて飛んでいった。そして、その炎の塊は魔物の口から喉に至るまでを高火力の炎で一気に焼き尽くして、焦げ臭い匂いを漂わせた。
「ガアアアアア!!」
魔物は最後にそんな悲鳴を上げ、白目を向いて横にバシャンっと音を立てて倒れた。
プカプカと浮いている魔物の口の中がどろりと溶けているのを見て、『炎弾』の威力の強さを再確認させられた。
「『支援』×『炎弾』の威力か。『支援』はロイドの力を随分と底上げされるんだな」
俺はそんなことを呟いて、剣を鞘に収めるのだった。
とりあえず、これでひと段落――
「ロ、ロイドさま、ロイドさま!」
すると、リリナが慌てた様子で俺の服を引っ張ってきた。
どうしたのだろうと思ってリリナを見ると、リリナは俺たちの後ろを指さして顔を引きつらせていた。
「この先、滝になってるみたいです!」
「た、滝?」
俺が眉根をひそめてリリナの指さす方を見ると、川が途中で途切れていた。
俺はリリナの言っていることと、目の前に広がる景色を見てもしばらく思考が追い付かなかった。
それから少しして、この状況があまりにもマズいことに気づいて、顔を青くさせるのだった。




