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第50話 コンパウンドボウ


「で、できた」


 それから数日後、俺はなんとかコンパウンドボウを完成させることができた。


 俺が作ったコンパウンドボウは、一見普通の弓のような形をしているが、弦を張る両端に少し不格好な滑車が取り付けられており、三本の弦が張られている。


 この特殊な滑車の作製とか、慣れない作業で色々と苦戦したが、『生産スキル』のおかげで何とかなったみたいだ。


「これが、コンパウンドボウというモノですか?」


 アリシャはそう言うと、俺の手元にあるコンパウンドボウを覗き込む。


 そして、アリシャに倣うようにリリスも同じように俺の手元を覗く。


 アリシャは今日の午前中には、新しい弓矢の打ち方を形にしたと言って、俺たちのいる宿に戻ってきていた。


 ……まさか、本当にこの短期間でモノにするとは。


 そういえば、アニメでも他のヒロイン達よりも、ケインの『支援』なしでの戦い方を身に着けるのが早かった気がする。


 俺はそんなことを考えてから、アリシャにコンパウンドボウを手渡す。


「ああ。ちょっと、軽く引いてみてくれ」


「分かりました。変わってる弓ですよね」


 アリシャは手渡された弓を受け取ると、じっと弓を全体的に見渡す。


 それから、軽く構えて弓を引く。


「んっ、結構重い弓ですね……え、あれ? 急に軽くなりました」


「だろ? それがコンパウンドボウの魅力だ」


 俺はアリシャの驚く反応を見て、口元を緩める。


 コンパウンドボウというのは、弓をある程度引くと、そこから先は半分の力で引けるという物だ。


 そこには変わった形の滑車と、実際には引かない二本の弦が関係しているのだ。


 近代的な弓として、動画サイトなどでも色々と紹介されていた。


「そのくらいの重さなら、対象物もちゃんと狙えそうか?」


「はい! 最終的にこのくらいの軽さになるのなら、問題なさそうです」


 アリシャはそう言うと、弓から手を放して高揚した顔で俺を見る。


「ロイドさま! この弓凄いです! こんな弓は初めて見ました!」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。作ったかいがあった」


 どうやら、かなり気に入ってくれたらしい。


 いつになくテンションの上がったアリシャを前に、俺も釣られて笑う。


「ロイドさま、ロイドさまっ」


 俺たちがそんなやり取りをしていると、隣でリリナが俺の服の裾をちょいちょいっと引く。


「どうした、リリナ?」


「私の分も後で作ってくださいね? 忘れないでくださいね?」


 リリナは心配そうにそう言うと、そわそわした感じで尻尾をふわふわと漂わせている。


 ちょっとした嫉妬と疎外感を覚えているのかもしれないな。


 俺はそんなことを考えて、リリナの頭を優しく撫でる。


「もちろん覚えているよ。ちゃんとかっこいいのを作ってあげるからな。楽しみにしていてくれ」


「かっこいいの……ありがとうございます! 楽しみにしておきますね!」


 リリナは俺の言葉を聞いて、にへらっとした笑みを浮かべる。


 機嫌よさげにブンブンと振っている尻尾を見るに、どうやらもう機嫌は直ったようだ。


「……」


「ん?」


 そんなやり取りをしていると、アリシャが俺たちのことをじっと見ていた。


 何だろうかと思って視線を向けると、アリシャは微かに顔を赤くして視線を逸らす。


「わ、私は穢れた者たちとの一件が終わってからで大丈夫ですから」


 アリシャはそんな言葉を漏らして、コンパウンドボウをいじり始める。


 一体、何が大丈夫なのだろうか?


 あれ? ていうか、このやり取り前にもしたことがある気がするな。


 ……気のせいか?


 俺はそんなことを考えて、首を傾げる。


「ロイドさま、さっそくこの弓で試し打ちをしたいのですが、よろしいですか?」


「そうだな。俺もどんな感じか見てみたいし、一緒に行くかな」


 俺がそう言ってリリナの頭から手を離すと、リリナはハッと何かに気づいた反応をしてから、ピシッと手を上げる。


「それなら私も行きます! ロイドさまの作った武器に興味があるので!」


 そんなリリナの一言もあって、俺たちは全員でコンパウンドボウの威力を確かめるために、森に向かうことになったのだった。

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