第109話 馬車の中での作戦会議
それから、アンナを村に返して俺たちはオリスさんから借りた馬車の中で今後の作戦を立てることにした。
「あの、一旦ガランの街に戻ったりしないんですか?」
俺が地図を広げて話し合いの準備をしていると、リリナがきょとんと首を傾げた。
「採掘場が復旧したら、あそこを任されていたルナの失態になる。そうなると、黒幕の奴がルナの妹たちに何をするか分からない。採掘場が復旧する前に、ルナの妹たちだけでも助けておきたいし、このまま向かおう」
正直な所、一旦ガランの街に戻って立て直した方が行動しやすい。
それでも、今の状況を考えると、このまま行動してしまった方が後々物事が楽に動き気がする。
それに、ガランに戻る前に、ルナの情報があったから奴隷として捕まった人たちを救えたとなれば、ルナが受ける罰も少しは軽くなるかもしれないしな。
「それに、せっかく黒幕が見えてきたんだ。憲兵にただ引き渡すのも、もったいないだろ」
「もったいない?」
すると、今度はルナが首を傾げて俺を見上げてきた。
俺はアニメで見たロイドのような悪い笑みを浮かべる。
「ああ。俺の汚名を広げて、ルナに酷いことをしたような奴だ。少しくらい痛い目を見てもらわないとな」
「確かにそうですね。ロイドさまの名前を使って悪さをしたのですから、それなりに罰を受けてもらわないとですもんね」
「お、おう。そうだな」
俺はアリシャがさらりと罰を与えると口にしたのが気になって、一瞬引いてしまった。
いや、言い出しっぺの俺が引くのはおかしんだけどな。
「まずはルナの妹たちを助け出すのが先決だな。そうしないと、行動に制限が出るだろうし、ルナも早く助けてやりたいだろうけど……居場所が分からないことにはどうしようもないよな」
正直、俺たちなら奴隷商にだって負ける気がしない。それでも、ゼロの状態からルナの妹たちを見つけるというのは、かなり難しい気がする。
「それなら、大体の目星はついてるよ」
俺が考え込んでいると、ルナがそんなことを言ってきた。俺は思わず間の抜けた声を漏らす。
「え、分かっているのか? それなら、俺たちに頼らなくても、魔物を自在に操って妹たちを助けることができたんじゃないか?」
採掘場にいた『迷いの森』の魔物たち。あれだけの数の魔物をルナの妹がと捕まっている所に放てば、簡単にルナの妹たちを救出できるような気がする。
「無理をすれば片方は助けられるよ。でも、二人とも別々の場所に捕らえられてるんだ。もしも、ボクが片方の妹を助けたら、その瞬間にもう一人の妹が何をされるか分からない」
「随分と手の込んだことをしてるみたいね」
すると、レナの言葉を聞いたアリシャの目つきが少し険しいものに変わった。
元々、アリシャはケインに村の子供たちを奴隷商に売られたということを聞いて、ケインを追ってきた身だ。
身内が奴隷商に売られてしまうかもしれないという状況に、一番共感できるのかもしれない。
ルナはアリシャの言葉に頷いてから、顔を上げて俺を見る。
「それに、自在に操ることなんてできないよ。ボクの『傀儡化』のスキルもそこまで便利なモノじゃないんだよ」
「そうなのか? やけに統率が取れていたような気がしたけどな」
「取れていたように見えてただけだよ。それに、ボクが『傀儡化』したのって、群れの中のリーダーとかだけだしね」
ルナはそう言ってから、魔物を操っていた『傀儡化』について教えてくれた。
ルナは採掘場にいた全ての魔物に『傀儡化』のスキルを使った訳ではなかったらしい。群れをつくる魔物は群れのリーダーの動きに従う習性があるらしく、実際に『傀儡化』したのは数体の魔物だけだったとか。
それに、命令の内容も簡単なモノしかできないらしい。
採掘場にいたマンティコアはまだ子供だったらしく、時間をかけてなんとか単純な命令だけさせることができたとか。
そして、子どもを連れ去った結果、親のマンティコアに追われる形になったらしい。
なるほどな。だから、さっき現れたマンティコアはルナを集中的に狙っていたのか。
「それに、このスキルが使えるようになったのも最近だしね。色々と、その気づいてもらえる方法を考えていたら使えるようになったんだよ。こんなこと初めてだし」
ルナはそう言ってから、意味ありげに俺をちらっと見た。
「最近気づいてもらうため? ……もしかして、ヒロイン補正か?」
俺はルナの言葉を聞いて、いつかリリナが言っていた言葉を思い出した。
俺を助けようとしたとき、一気に色んなスキルを得たと言っていた。今回はその逆で、助けてもらいたいと強く思うことで、ヒロイン補正が発動したということだろうか?
そんなに助けて欲しいと思っていながら、初めて会った後すぐに逃げ出すって言うのは、なんというか凄い不器用だよな。
そう考えると、そんな素振りを全く見せなったルナを可愛く思えてきて、自然と口角が上がってしまった。
「な、なんで笑ってるの」
「いや、なんでもないよ」
俺は少し焦るようなルナを見てから、咳ばらいを一つして話を戻す。
「つまり、ルナの『傀儡化』で大量の魔物の群れを作って襲おうって言うのは無理ってことか」
「無理だね。命令させるにはそれなりに時間もかかるし」
「それでも、ルナの『幻影』系統のスキルがあるのはでかいな。上手く使えば、相手を無力ができるもんな」
「分かれて同時にルナの妹たちを救出しよう。俺とルナ、アリシャとリリナのペアで動こうと思う」
俺がそう言うと、リリナの銀色の耳とルナの茶色の耳がぴくんっと動いた。それから、リリナの尻尾がヘナっと垂れて、ルナの尻尾がふわふわと動いていた。
……二人とも特別何かを口にすると言うことはないが、非常に分かりやすい反応だな。
「もちろん、このペア分けには理由がある。潜入向きのスキルを持つリリナとルナを分けてチーム作りをする必要があるからだ。潜入能力ではリリナよりもルナの方が劣るから、俺が『支援』でルナのサポートに入るって言う算段だ」
すると、またリリナの銀色の耳とルナの茶色の耳がぴくんっと動いた。それから、今度はリリナの尻尾がぶんぶんっと動き、ルナの尻尾がヘナッと下がった。
「私の方が上……」
「ボクの方が劣る……」
またやけに分かりやすい反応だな、二人とも。
俺はそう考えながら、ちらっとアリシャの表情を確認した、すると、アリシャは微かに眉根を下げて大人びた笑みを浮かべていた。
……分かりにくいというのもそれはそれで、気になるな。というか、こういう反応が一番胸に来るかもしれん。
俺は三人の反応を見てから、また仕切り直すように咳ばらいを一つする。
「一旦リリナとアリシャを基地の近くに下ろす。日が上がったと同時に襲撃をすることにしよう」
俺はそこまで言ってから、にやっと笑みを浮かべる。
ようやく、俺の名前を使っていた奴らに反撃することができる。
そう考えると、アニメでみたロイドのような悪い笑みを浮かべずにはいられなかった。




