第107話 似た者同士
「竜風(魔)』!」
俺は少しでも早くルナに追いつく容易に、ぐるっと崖下に背を向けて剣を振り下ろした。
すると、渦の中心を空に向けるようにした竜巻が地面をえぐりながら飛んでいった。そして、俺の落下スピードが上がっていき、先に落ちたルナに一気に追いつく。
「ろ、ロイド⁉」
「捕まれ、ルナ!」
俺は落ちていく中、ぐっと手を伸ばす。しかし、ルナは中々俺の手を掴もうとしない。何かと葛藤しているのか、躊躇っているように見えた。
「早く、捕まれよっ!」
俺は空中で体勢を変えながら、何とか手を伸ばしてルナの手首を掴んでぐっと引き寄せる。
それから、ルナを抱きかかえるようにしながら、片手でまた剣を振るう。
「ルナ、堪えろよ! 『竜風(魔)』!」
俺はルナを抱えながら、崖壁の方に背を向けて『竜風(魔)』を使った。すると、『竜風(魔)』の風圧を受けて、体が崖壁の方に流されていく。
すると、ルナがちらっと崖壁の方を見て目を見開いた。
「こ、堪えるって……え、ぶつかるじゃん!」
「『鉱石化(魔)』『強突(魔)』!」
それから、俺は鉱石化させた両足を崖壁につけ、切っ先を崖壁に突き刺して踏ん張ろうとした。
ガガガガガガッ!
しかし、突き刺さった部分が浅いのか、いくら踏ん張りを利かせても崖が削れていくばかりだった。
「くそっ、『豪力(魔)』!」
ガガッ!! ガッ、ガッ!
それから、俺が強引に『豪力(魔)』を使って剣を押し込むと、崖壁に剣が深く刺さり、体がそれ以上落ちていくことはなくなった。
「ようやく止まったな。大丈夫か、ルナ? ……ルナ?」
俺が片手で抱きかかえているルナを見ると、ルナは顔を俯かせていた。どうしたのだろうかと思っていると、ルナが小さくプルプルと震えてからバッと勢いよく顔を上げた。
「あ、荒々し過ぎない⁉」
抗議するようなルナの勢いを前に、俺は小さく首を横に振る。
「安心してくれ。こういうのは二回目だから慣れてる」
「慣れてるって……一体、どんな冒険してれば二回も崖に落ちるんだよ」
ルナは俺の言葉に目を見開いたあと、うな垂れるようにそう言ってため息を吐いた。
いや、どんなと言われても全部ルナ関係なんだけどな。
俺はなんとなく気まずさを覚えて、少しの間黙ってしまった。
「……なんで助けたの?」
すると、ルナがぽろっとそんな言葉を漏らした。
俺は一瞬なんて答えようかと考えてから、当たり障りのない言葉を口にする。
「そりゃ、せっかく助けに来たのに、目の前で崖から落ちれば助けるだろ」
「いや、普通は助けないでしょ。一歩間違えればロイドが死んでたかもしれない状況だよ、これ」
ルナはそう言って疑うような目を俺に向けてきた。俺はルナから視線を逸らして、少し口ごもる。
「それでも、女の子が脅されて無理やり誘拐とか奴隷商をして、その末路がこんな死を迎えるようとしていたら助けるって」
「助けないよ。そんなのはお話の中の主人公とかだけでしょ」
俺はルナの鋭い指摘を受けて、また少し黙ってしまった。
俺自身、ここまでルナを捜索に熱心になっているのが不思議で、その行動原理を考えていた。
俺はあくまでロイドの体に転生しただけの人間だ。今も昔も主人公ではないわけだし、人が困っているからと言って無差別に手を差し伸べるほどお人好しじゃない。
それなら、なんでアニメでも思い入れがないルナをここまで必死に助けようとしているのか。
そんな風に考えて、すでに結論は出ていたのだ。
俺はその導き出した結論を情けなく思って、小さくため息を漏らす。
「なんか、嫌だったんだよ」
「なにそれ?」
俺の言葉を聞いて、ルナは納得していなさそうに眉根をひそめた。
俺はそんなルナの顔を見て、脱力するような笑みを浮かべる。
「ロイドの噂を知ってるだろ? 悪逆非道を働いて街中の嫌われ者だ」
「知ってるよ。まぁ、その噂も怪しいけどね。見知らぬ女の子を命がけで助ける人がされる内容の噂じゃないし」
どうやら、ルナもオリスさんと同じように勘違いしているみたいだ。
俺は意味ありげに見てきたルナの言葉に首を横に振る。
「いや、噂は本当だ。それでも、ちょっと複雑なバックグラウンドを持っていてな……訳ありの悪役だから、ルナに親近感を覚えたんだと思う」
「親近感?」
「悪役に仕立て上げられた同士って感じかな」
「……親近感を抱いたから、助けたってこと?」
ルナにじっと見つめられて、俺はまだ言葉を繕っていたことに気づかされた。
ここまで言ったのなら、全部吐露してしまっても変わらないだろう。
「もっと言うと、同じような状況にいるルナを助けることで、ロイドを助けた気持ちになりたいんだと思う。ただの自己満足だよ」
ロイドを助けるようなことはもうできない。
なぜなら、ロイドにはすでに俺が転生してしまっていて、ロイドの体は別人の体になってしまったからだ。
それでも、色々と知ってしまった後だと、ロイドが悪役だと街中から嫌われていることが不憫だと思っていた。
そこに、ロイドと少しだけ似ている境遇のルナが現れた。多分、ルナを助けることで、今は助けられないロイドを少し救った気になっているのだろう。
そんなことはないと知りながら……自己満足過ぎて笑われそうだな。
俺は自分の考えに失笑しがら続ける。
「あとはそうだな。自分がまともに生きていてもいいってことを実感するために、共犯者みたいなのが欲しいんだと思う。悪いことをしてきたのに、普通に生きていていいのかって不安になることがあるんだよ」
「それは……ボクもあるよ。多分、ロイドが感じてる以上の物がずっとここにある」
ルナは胸のあたりを強く握りって、俺の腕の中で蹲っていた。
ロイドも中々悪事を働いてきたが、ルナは奴隷商として子供を攫って売っていた。脅されていたからといって割り切れることではないのだろう。
俺はルナを抱えている手を少し強めて、ルナを引き寄せる。
「共感できる人が欲しい。同じような境遇の奴がいると、少しは安心するだろ。それが例え、悪いことをした相手であってもだ」
「それは、分からないでもないかも」
俺はルナが俺の腕を遠慮気味に触れてきたのを感じながら、小さく笑う。
「だからさ、ルナ。俺のパーティに来ないか?」
「え?」
「ルナには近くにいて欲しいんだよ。ダメか?」
「っ」
ルナは驚いて顔を上げてから、何かに気づいたような声を漏らして徐々に頬を赤くしていった。
なぜこのタイミングで赤くなる?
お互いに似た境遇の奴がいると安心するから、一緒にいようって言う話なのだが……ん?
俺はそんなことを考えてから、なぜケインがルナを見つけて救うことができなかったのか、今になって分かった気がした。
悪役に仕立て上げられたものじゃないと、ルナにここまで感情移入をすることもできないし、助けようとも思わないのかもしれない。
いや、そもそも主人公は冤罪をかけられることもないのか。
そうなると、ルナは悪役の俺にしか助けることができないヒロインだったのだろう。
そんなふうに考えてしまうのだった。




