第105話 麻痺した心
ボクーールナがハーフリング族の村の近くに向かうと、背の小さな女の子いた。私が『変化』のスキルを使って、最も思い入れのある姿に化けると、ボクはその子そっくりな小さな女の子になっていた。
そして、アンナという女の子は化けたボクのことを見るなり、泣きながらボクに抱きついてきた。
これも何度目の光景だろうか。思い入れのある姿に化けると、大抵はこういった反応を見せることが多い。
初めは、押し寄せてる罪悪感に胸を押しつぶされそうになったり、吐き気を催していたりしたが、今となってはその感覚がマヒしてしまっていた。
……こんなボクが誰かに助けて欲しいと思うのは、間違っている。
ボクは上手く笑えているのか分からない表情筋を動かして笑みを浮かべ、アンナの手を引いてハーフリング族の村から離れていった。
「お姉ちゃん、どこに向かってるの?」
ボクの妹たちと同じように、ボクのことを『お姉ちゃん』と呼ぶ女の子の言葉に、私は一瞬胸をまたチクリとさせる。
しかし、それも一瞬のことですぐに私は笑みを浮かべることができていた。
「んーとね、私にずっと良くしてくれた人たちのもとに向かうの。アンナにも会わせたいんだ」
「よかった、お姉ちゃん楽しく暮らせてたんだ。お姉ちゃん、奴隷商に連れていかれたってみんな言ってたんだよ。だから、心配してたんだけど、ちゃんと良い人と暮らしてたんだね!」
「奴隷商って、誰がそんな訳の分からないこと言ったんだろうね! 今度村に帰ったら、絶対に怒ってやるんだから!」
ボクがふざけてそう言うと、アンナは楽しそうに笑っていた。
その無邪気な表情を直視してしまうと、どうしても妹たちのことを思い出しそうになってしまったので、ボクはすぐに正面に顔を戻す。
それから、ボクは奴隷の回収用のトロッコの近くにアンナを連れて行った。
ボクはガランから少しだけ離れた奴隷の回収ポイントで、奴隷の回収に来る男を待っていた。
片側は崖でもう反対側は茂みが広がっているので、誰も私たちがここにいるとは思わない。
日の目にあたたらないということもあって、奴隷を引き渡す場所としてはちょうどいい場所だ。
しかし、いつまで経っても中々回収ポイントに人が現れない。
「ねぇ、いつまでここで待ってるの?」
「もうすぐ来ると思うからさ。もうちょっとだけ待とうよ!」
アンナが待ちくたびれたようにため息を吐いたのを見て、私は必死に引き留めをする。
アンナを退屈にさせないように色々と話を聞いたり、言葉遊びなどをしたりしていると、茂みの奥からガサツと音が聞こえてきた。
「誰か待っているのか?」
そんな男の声を聞いて、私は深くため息を吐く。
「散々待たせておいて、その言い草はないんじゃない? 遅かったじゃん」
私はそう言ってから顔を上げて、目を見開いた。
そこにいたのは、いつもの奴隷の引き渡しの時にいる男ではなかったからだ。
悪名高い冒険者のくせに、山奥で助けた死にそうな子を助けたり、素行の悪いA級パーティから、奴隷にさせられそうだった女の子を助けたりしている。
そんな滅茶苦茶な冒険者なら、もしかしたら私のことも助けてくれるかもしれない。
助けて欲しいと強く願っていたら私の前に現れて、助けてもらえないかもという恐怖から逃げ出した。
それなのに、彼はまたこうして私の前に現れた。
私は一瞬裏返りそうになった声を抑えて口を開く。
「ろ、ロイド」
「待たせたな、ルナ」
私の前に現れたロイドは、採掘場で会った時とは違う優しい目で私を見つめていた。
麻痺していたはずの感情が、妙にうるさくなった気がした。




