10話
「いらっしゃいませ! カイルさん!」
あのデビッドですら性格のキツイと言われてしまう受付嬢リンカさんだ。
しかしながらその容姿だけに限って言えば、琥珀色の瞳に水色のポニーテールヘアーで眼鏡を掛けており綺麗な女性でしかも、スタイルも抜群である。
ニコニコ笑顔さえ守って頂ければ非常に魅力的な女性である筈だが。
第一声が俺以外の4人を無視している時点で受付嬢としてどうなのかとまず思い知らされてしまうのであった。
「おはようございます、リンカさん。今日はルッセルさんの指示を元にやって来ました」
俺は、そんな事を心の中で思っているなんて微塵も知らせない様に注意を払い極々普通の表情でリンカさんに対応した。
「はい、うけたまわっております。えーっと、他人に寄生しなければ生きていけないプリースト様に、立場を弁えずに前線に立とうとするウィザード様に。えへへ? ルッド様とデビッド様は国王軍様でいらっしゃいましたかぁ☆」
リンカさんの心もとない言葉に対しルミリナさんは薄っすらと涙を浮かべ、ルッカさんは左手に雷魔法を完成させている。
と思いきや、ルッド君とデビッドが国王軍である事を知った途端180度、いや900度位手の平を返して猫撫で声で上目遣いをし出す始末。
この人、演技力だけでも収入を獲得できるんじゃないか?
「ガッハッハ、その通り、俺は国王軍に所属してるデビッドだ、リンカさん、宜しく頼むぜ!」
とウィンク一つに加えてサムズアップを見せるデビッド。
どうやらリンカさんの上目遣いにやられたらしく、お前、数分前に言っていた事覚えているか? とツッコミたくなってしまったが、深呼吸をする事でそのしょうどうを抑えた。
「ククク……冒険者ギルド職員の方とのコネクションを作る事は悪い事ではありませんね、こちらこそよろしくお願いしますよ……」
ルッド君は別の意味でリンカさんに好意的に持っているみたいだ。
「宜しくお願いします☆ では、本日の依頼内容をご説明致します」
リンカさんはにこにこ笑顔で依頼書を差し出した。
何故か俺に。
てっきり、今の話の流れからデビッドかルッド君に差し出すと思ったが、周りの様子を見ても特に気にして無さそうだ。
俺が細かい事を意識し過ぎみたいだ、たぶん。
さて、肝心の依頼書の内容だけど。
【コボルドキングの討伐】
『賢神の石の影響だろう。おおよそ、セザールタウンとヴェストタウンの中間地点にコボルドが集まる国が出来たとの情報が入った。今はまだ小規模であるが、規模が大きくなる前に叩いておきたい、そこで冒険者諸君にコボルドキングの討伐を依頼する事にした』
また、留意点として、コボルドは銀をコバルトに変化させる特性を持つらしい。
だ、そうだ。
「クク……コバルトですか、カイル殿はご存じと思いますが、魔力を秘めた鉱石でしたね」
「なにっ! それは本当か? なら俺も魔法をもっと上手く扱える様になるのか!?」
ルッド君の言う通りだ。デビッドが嬉々とし、声をあげるが魔物に関する授業でその話は出ているが覚えてないみたいだ。
「何言ってるの? デビッド君は兎も角、私達ですらコバルトは上手く扱えないわよ」
ルッカさんの言う通り、学校を出たばかりの俺達ではコバルトを上手く扱えない。
いや、待てよ? 確かセリカさん達なら扱えるかもしれないし、もしかしたら賢神の石の件で失った魔力も回復するかもしれない。
セリカさん含めヴァイスリッターに入って来たウィザード達は賢神の石の封印を解く際、ダストの陰謀によりその魔力を奪われているんだけど。
「銀か」
「ククク……カイル殿、コバルトの入手を考えるのは同じですか……」
どうやら、ルッド君は俺がコバルトを入手したいと思っている考えに気付いたのか、彼は懐の中から手の平に納まる程の銀を取り出し俺に手渡した。
「ありがとう、これだといくら位するっけ?」
「フフフ……我々レンジャーからすればこの程度大した事ありません。お気になさらず……」
「むー、カイルだけずるいなー」
俺が銀を貰えた事なのか、コバルトの入手が可能になった事を羨ましく思ったのかルッカさんが唇をとがらせた。
「フフッ……ルッカ殿、貴殿が身に付けている指輪はシルバーとお見受け致します……」
「そう言えばそうね。折角だから私もコバルトリングを作ってみるね」
どうやら後者だったみたいだ。
「よっしゃ! そうと決まったら早速行こうぜ!」
この依頼を遂行する為に必要な手続を済ませると、デビッドの合図と共に俺達はコボルドキング討伐に向かった。