9話
「うがあああああ!!!! 何で雷が俺に当たった!? 晴れてるのにどうしてだ!?」
突然、デビッドの身体に1筋の電撃が襲い掛かる。
デビッドが言う通り今は太陽がサンサンと輝いておりまごう事無き晴れで、雷が降り注ぐような曇り空なんて事は無い。
つまり、この雷は、
「あら? ごめんなさい? 私はカイルを狙ったんだけど手元が狂ってデビッド君に当たっちゃった」
やはりルッカさんが放った魔法だった。
ルッカさんはウィンクをしながら舌を小さく見せる。ルッカさんはルミリナさんを暴漢から守る為に魔法を使ったと考えればその仕草が可愛く見えなくもないが……。
少々あざといと言うか何と言うか。
「お、おう、ルッカちゃんか。カイルを狙ったんなら仕方ねぇな、魔法だって100発100中じゃねぇかんな」
デビッドはガッハッハと豪快に笑いながらルッカさんの誤射を許している様に見えるが、どう考えても今のはデビッドを狙って撃ってるのだが、上手く誤魔化せるみたいだし俺がとやかく言う必要は無さそうだ。
「その、ごめんなさい、私好きな人が居ます」
ルミリナさんは律義にデビッドに対してぼそぼそと返事をし、どうやらそれがデビッドにしっかりと聞こえたらしく地面にひざ付きがっくりと項垂れた。
「ククク……人間と言う種族が誰かしら好みの異性が居るのは何も珍しい事ではありません、仕方が無い事ですよ」
ルッド君はデビッドの肩をポン、と叩き慰めたがデビッドの精神が回復する兆しは見えない。
ルミリナさんが好きな人って誰なんだろうと少しばかり気に掛けると今度はルッカさんが、
「ルッド君? それホントかしら? ここに居るカイルって奴は好きな人いないって言ってるんだけど?」
確かに俺は好きな人なんていないしルッカさんの言う通りだと思えば、ルミリナさんが口を開く。
「そうなんですよ! カイルさん、女の子達からモテモテなのに誰も好きな人いないんですよ! お姉ちゃんから聞いたんですけど街を歩いてる女の人、数人と連絡先交換してたんですよ!」
ルミリナさんが、頬を少し膨らまし俺について不満があると言わんばかりにやや早口で言う。
「そうよ、カイルったら無頓着で鈍感で酷いのよ」
ルッカさんが、ルミリナさんの援護をし俺に追撃を入れる。
別に痛いとも思わないが、
「いや、あれはエリクさんに頼まれたから仕方なくやった訳で。それに俺は勉学や鍛錬で忙しいから女の子に意識を削いでいる暇がないだけだし」
俺が二人に弁解をすると、ルッカさんが分かっているわよと小さく呟いて、
「腹立つわね。私達が女の子として見られていない事も、君にどの教科でも勝て無い事もね。何で君はウィザードの私よりも魔法の成績が良いのよ」
「それだけ魔法の鍛錬したからとしか言い様が無いし、そもそも最大火力なら俺よりもルッカさんの方が上だぞ」
この説明も多分ルッカさんに何回か言っているとは思うんだけど。
「ククク……実践では魔法の最大火力は重要ですよ……セザール学園では強く評価されませんでしたが……」
ルッド君が間に入り俺の援護をしてくれた。
そのお陰か、ルッカさんは吐こうとしていた言葉を飲み込んだみたいだ。
話の流れが一旦止まったのか、デビッドが哀しげな顔を浮かべながら俺の両肩に手をのせ、
「ぐ、我が親友カイルよ、それは本当の事か? 今度俺に1人で良いから紹介してくれっ」
「それは構わないけど」
確かあの時一緒に居たエリクさんは妙に女の子達から拒絶されていた様な気がしたが、いやデビッドが同じ目に遭うとも限らないな。
「ククク……未来が楽しみですね……フフ」
ルッド君が意味深な笑みを浮かべながら呟く。
「ありがとなカイル! やっぱり持つべきものは友達だぜ! そうと決まったらちょちょいのぱっぱで今日の依頼を片付けちまおうぜ!」
俺に女の子を紹介して貰えると聞くや否や、水を得た魚の様な勢いを取り戻したデビッドは冒険者ギルドの中へ入って行った。
俺達もまた、デビッドに続いて冒険者ギルドの中へ入ったのだった。
冒険者ギルドの中はいつも通り依頼を請ける為に訪れた冒険者でにぎわっている。
その中でも並んでいる冒険者の少ない列は相変わらず存在している。
並ぶのが面倒だと思う俺はその列に並ぶ様に促すと、デビッド以外は賛同した。
デビッドが反対した理由は「あの受付嬢は性格がキツイから」と大体予想出来る範囲の理由だった。