63話
『どうやらその犬は二足歩行だったと噂もあるぞい! おっと話がそれたのぉ~ウッキーとは何も考えず目の前の敵を粉砕! 漢気あふれる戦い方じゃぞい!』
ウッキーってけなしてる様に聞こえるのだが? その割に褒めるとは理解に苦しむ。
つまり、デビッドみたいに何も考えずに突撃するの〇きんって奴だろうか。
『ふぉっふぉっふぉ、いやらしい事じゃあるまいし、わざわざ伏せる事も無かろう』
一応アンタに配慮したつもりだが。
『そうかそうか~ふぇっふぇっふぇ。そういう事じゃ、ワシが漢気あふれる戦い方を伝授するぞい!』
いや、気持ちはありがたいのだが、脳筋連中を取りまとめる後衛の人間は死ぬ程負担が掛かる。
『そんなの簡単じゃ、後衛とやらが何かをする前に敵を粉砕すれば良いだけじゃ』
なるほど、何とも簡単な理論だ。
だが、その理論が通用する敵が早々現れるとは思えん。
『ふぉーーーっふぉっふぉ、ワシを誰だと思っておる! ワシはあーつぃふぁくと、闘神の斧じゃぞい! 泥船に乗ったつもりで堂々とするのじゃ!』
いや、いつ沈むか分からない船で何を堂々とすれば良いのだ? むしろそこは大船に乗ったつもりの間違いじゃないのか? 待てよ? 大船でも素材が泥では結局沈むぞ!
『フォッフォッフォ、お主は未熟じゃぞい、今のは分かった上でわざと間違え相手のツッコミを誘い出す高度なギャグじゃぞ!』
やけに自信満々に解説する闘神の斧に、必死に笑いをこらえるアリアさん。
俺には全くもって彼のギャグが理解出来ない故、彼等がその様な心理状態になる事は分からなかった。
『冗談はそこまでにしておいて、ルッセルとやらを助けに行こうかのぉ? 命令に従ったまま彼がやられてしまっては本末転倒じゃ、ワシを入手した時点で状況は変わっておるわい、足手纏いになる事はあるまい』
確かに闘神の斧の言う通りかもしれない。
万が一にもルッセルさんがやられてしまっては俺達の身も無事ではないと思う。
『じゃがお嬢ちゃんはここで待っておれい、残念ながら最悪人質に取られてしまうわい、溶岩の川の中で何かあった時はすぐに味方と合流出来る位置で待っておるのじゃ』
闘神の斧の問いかけに対してアリアさんは静かに頷いた。
「カイル・レヴィン行きます!」
闘神の斧を持った俺は掛け声と共に溶岩の川を飛び出しルッセルさん達の元へ向かった。
*
「はぁ、はぁ、やりましたよね?」
肩で息をするエリクからは、今起こした地割れで勝負が決まって欲しいという願いが感じ取られる。
「いえ、必ず来ます」
ルッセルはエリクの願望を切り捨て、闘気を剣に集中させた。
「ははは、念には念をと深い谷を作ったんですよ。奴が落ちてから時間も経ってますし今頃谷底でうずくまってますって」
エリクの乾いた笑いが余裕の無さを示している。
「魔力が尽きたなら回復をお願いします」
エリクの心境を察知したルッセルが鋭く告げる。
「はい、すみません」
ルッセルが自分に言いたい事を悟ったエリクは、道具袋の中から魔力回復薬が入った小瓶を取り出し飲み干すと次なる大魔法の詠唱を開始した。
丁度エリクの大魔法が完成したところで、足元から大きな音が聞こえて来た。
「何アイツ! 壁を蹴ってるじゃない!」
上空からルカン監視していたセフィアが驚きの声を上げた。
彼女の言う通り、なんとルカンは谷の壁を蹴り上がり反対の壁へ上昇、それを交互に繰り返し地上へ戻って来たのだ!
「そんなのずるいですよぉー」
エリクは完成させた大魔法を風属性へと変換、ルカンの上方より突風を発生させ転落させる作戦を取った。
激しい風が壁を蹴り上昇するルカンの上部から襲う。
「この程度で俺を止めれると思うなッ」
エリクの起こした突風でさえ、ルカンの勢いを止める事は出来ず、ルカンは地上へと舞い戻って来たのだ。
「奥義! 冥破活昇斬!」
地上へと舞い降りたルカンに対し、ルッセルは剣に集めた闘気と共に縦横無尽の連撃をルカンに向け繰り出す。
一方のルカンはルッセルの奥義を斧で受け止める。
が、数撃受け止めた所で斧が耐えきれず壊れてしまう。
残りの連撃を左腕、右腕でガードするも、幾ら獣人族とは言え闘気の乗った斬撃を無傷で受ける事は出来ずおびただしい量の出血をしてしまう。
「やるじゃないかっ! そうでなくてはなッ!」
ルカンは闘気を込め、吠えると流れていた血が止まった。




