62話
「チィッ、あの様子じゃ闘気で私の毒を無効化したみたいね! ごめんけどマスター、一旦下がるわ!」
レンジャーは原則としてナイトやファイターに比べ攻撃力が高くない傾向にある。それはつまり耐久性の高い相手が苦手である。それを自覚しているセフィアは素直に戦線から離脱した。
「炎属性も風属性も有効打になってないみたいですが、地属性ならどうですか!」
一方のエリクは、自分の魔法が2度も防がれたが諦めずに別の属性、地属性の大魔法を完成、発動させた。
ルカンの足元を中心に地面が激しく揺れ出したと思えば、彼の足元に地割れが発生しその巨体を奈落の底へと飲み込んだ。
*
エリクの放った地属性大魔法の振動はカイル達にも伝わっていた。
「地面が揺れた? 外で何かヤバイ事になっているのかな」
「多分」
アリアさんは相変わらずそっけない返事をしている。
しかし、気のせいかさっきよりもアリアさんとの距離が近い気がする。
『なんじゃお主ら? そーしょくどうぶつとやらに見えるがのぉ? 見かけによらずこんな所でもいいのかのぉ? フォッフォッフォ若い証拠じゃ、何、ワシも混ぜてくれんかのぉ~』
結局女でも良いのか?
『そんな事は無いゾイ、お主と言う新発見を前に女子が居るからと指をくわえて諦める趣味がないだけじゃぞい!』
それは得意気に言う事じゃないと思うが。
『虎穴に入らずんば虎児を得ずじゃ!』
アンタは人畜無害で大人しく見えるアリアさんが虎に見えるのか。
『げーへっへ、穴があるじゃろう? 穴があれば良いのじゃよ!』
何なんだこの変態。と言うかどういう意味だよ。
『まったく、最近の若いモンはワシの高度なギャグが通用しないのかのぅ、ちょっと寂しいぞい』
そうなのか、すまん。あまりにも高度過ぎて俺には理解が出来なかった。
『仕方無いのぉ~少しは真面目な話をするかのぉ~、お主、強大な闘気を感じないかのぉ?』
闘気? 確かルッセルさんが扱ってた気がする。
『ほぉ~それなら話が早いわい、今猛烈な闘気と闘気がぶつかりあっているのじゃ、そうじゃのぉ、ワシの加勢が無ければそのルッセルとやらが危ういかもしれんぞい』
まさか、あのルッセルさんが?
『そうじゃ、対する闘気の主は仲間の死が引き出す怒りによって闘気が増幅されておる、死すべき者が大切であればある程その闘気は増幅するのじゃ、これだけ増幅しているとなると恋人あたりかのぉ? それ位大切な相手で無ければここまで増幅せんわい』
つまり、セフィアさんが撃墜した魔族は誰かの恋人? へぇ、魔族も意外と戦場でいちゃつくものなんだ。
『仮定の話じゃぞ? 恋人と言えど、ウホッもある訳じゃ魔族同士がウホウホするのも面白そうじゃのぉ~』
どうしてゴリラの鳴きまねをしてニヘニヘした声を出す?
アリアさん、この変態を止めてくれないか?
と言おうとアリアさんを見てみたら普段ポーカーフェイスを貫く貴女がまたしても嬉しそうな表情をしているのだが何故だ?
それは兎も角、俺はルッセルさんからは待機命令を受けていてここから離れるのは良くないと思う。
『フォッフォッフォ、真面目じゃのぉ~その真面目な性根をがっつり叩き直してウッキーにしてやるわい!』
今度は猿の鳴き真似か? あいにく俺には猿の真似をする趣味は無いぞ、最も犬の真似する趣味の人なら居るが。
『うーむ、残念じゃ、これで後キジが居れば鬼退治に迎えるのじゃが』
イヌとサルとキジが集まって鬼退治? 何の話だ。
『何じゃ、知らんのかワシの知識じゃがのぉ~あるおじいさんが山でシバかれに行ってる間、お婆さんが川へ洗濯しに行ったら上流から巨大な桃が流れてきおってのぉ~』
わざわざ自分からシバかれる為山に? まさかそのじいさん、未来のエリクさんじゃないだろうな? いや、知識と言ってるからそれは無いのか。
『で、その巨大な桃を山でシバかれてズタズタにされたおじいさんと一緒に食べた所、なんと二人共若返ったのじゃ! 若返った二人は何かに覚醒してきゃっきゃうふふした所桃太郎って子どもが生まれたのじゃ』
若返っただと? まさか、そのおじいさんは本当にエリクさんでは?
『その桃太郎がきびだんごとやらをねだる、イヌとサルとキジをお供に連れて鬼を退治したってお話じゃ』
鬼を退治? 命がけな割にずいぶんと安い報酬で戦ったんだな。




