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6話

-魔王城-


「ルッセルんなろう! ふざけるんじゃねぇぇ! テメーさえ居なければセザールタウンは俺様の物になってたじゃねぇかああああ!」


 シュヴァルツ・サーヴァラー元ギルドマスター、ダスト・クライナーの叫び声が魔王軍により彼に与えられた個室に響き渡る。

 魔術師が身に付けるローブを見に纏い、人間の男の中では背が低くそのせいか強いコンプレックスを抱いているのだろう。

 ギルドマスターの地位に着いただけで満足が出来ず、満足できずセザール国が管理する予定であった、神遺物アーティファクトの1つである賢神の石を奪い取る事では満足できていない様子であった。

 いや、強力な力を手にした喜びよりも長年の好敵手ライバルである、ヴァイス・リッターのギルドマスターを務める、ルッセル・フォワードに敗北した悔しさの方が勝っているのだろう。

 例えそれが、ルッセルをリーダーとした多数の精鋭部隊達の力による敗北であろうが、ダストにとってはルッセルに負けてしまったとしか考える事が出来きないのであった。

 アイツさえいなければ賢神の石の力によって今頃セザールタウンを支配で来ていたかもしれないのに!

 ダストは内から溢れだす抑えきれない怒りを発散させる為、個室の中にあるテーブルの上に向け拳を叩き付ける。

 ドン、と大きな音が個室の中に響き渡る。

 テーブルに叩き付けた拳が痛い、と拳を叩き付けた事で幾ばくかの怒りを発散させたところで少しだけ後悔をしてしまう。


「ほう、元気はありあまってる様だな」


 ガチャっと扉が開く音が聞こえたかと思うと、ダストの耳に低い音の声が聞こえた。

 ダストは声のする方に振り返り、その声の主に対し鋭い睨みを利かせる。


「お前! 人の部屋に入る時はノック位しろ!」


 ダストの目の前には獅子型獣人である、魔闘将ルカンの姿が映ったが自分よりも恐らく1.5倍の背丈があるだけでなく身に着けている鎧の隙間から見える鍛え抜かれた肉体に臆する事無く声を張り上げる。


「ノックとはなんだ? そんな事よりも、元気そうでなによりだ。人間を裏切る位だ、それ位の威勢があって丁度良い位だろう」

「そんな事とは何だ! 俺様はルッセルへの復讐の事で忙しいんだぞ!」

「そうか、それは悪かったな。なぁに、俺は俺達魔王軍に賢神の石を持ち込んだ功労者に気を掛けに来ただけだ」


 自分よりも背丈が高い見るからに武闘派の魔族より労いの言葉を受けたダストの肩から力が抜ける。

 ダストから幾ばくか溜飲が下がるが、


「うるせぇ! ルッセルさえ居なければ今頃俺様がセザール国王になってんだよっ!」


 自分の感情に素直になれないのか、自分が抱いた感情を捻じ曲げる気はないのかダストは変わらず大きく声を張り上げる。


「ルッセルとやらがお前の宿敵なのか? ならば次勝てば良いだけだろう」


 自分の怒鳴り声に対し、一切怯む事無く自分を責める事無く真っ直ぐな返答をするルカンに対し、ダストは調子を狂わされると思いながらも、


「ぐっ、テメェに俺様の気持ちが分かってたまるかっつーの! どいつもコイツも何かにつけてルッセル、ルッセルって言いやがる俺様の気持ちがッ」


 内心調子を狂わされていると思いながらも、その感情を悟られぬ様にダストはルカンに対し1歩だけ詰め寄る。


「俺は魔闘将だ。お前が宿敵と思う相手に勝てないと思う気持ちが分からんでもない。だが、お前は今生きている。お前、死に行った仲間の事を知らないのか? そんな事はないだろう」


 ルカンはダストに対し一切怯む事無く述べる。


「だからなんだっつーんだ! 死んだ奴はよえぇのが悪いだけじゃねぇかっ!」


 まさか、魔族なんかに説き伏せられるのか? そんな事認める訳にはいかない! ダストは更に声を張り上げルカンに言い返す。


「否定はせん。死んだ者は宿敵を越える機会すら失われる。だが、お前はまだ生きている。生きている限りルッセルとやらを越える機会は残されている」


 ルカンが言っている事は正論過ぎる。正論過ぎる故に、魔族の癖に正論など言うな! ダストの頭にそれ以上の言葉は出て来ない、ルカンの言葉に反論する言葉を失ったダストは、


「クソが!! ふざけんじゃねぇ!!!!」


 理論にすら満たない言葉を吐き、踵を返す事しか出来なかった。


「今は傷を治せ、俺が聞いた話だが、貴様の持つ【賢神の石】の他にもアーティファクトとやらは存在する、魔王軍は手始めに【闘神の斧】とやらを手に入れるつもりらしい」


 ルカンが言う通り、現在魔王軍は【賢神の石】の他に【闘神の斧】【聖神の杖】【勇神の剣】【武神の拳】この4つのアーティファクト存在を認識している。

 また、それらアーティファクトに付いてダストも知っており、魔王軍が次なるアーティファクトの入手を試みている、つまり更なる戦力増強を考えておりそれが実現した場合セザールタウンの制圧が実現出来るとダストは考える。

 自分が支配出来るならば、支配している種族が魔族でも関係無い、そう考えたダストは1度深呼吸をし感情に平静さを取り戻し、


「それは、お前が使うのか?」

「それは分からん。俺が選ばれるならば使うだろう」

 

 ダストが見る限り、今自分の目の前に居る魔族こそ【闘神の斧】とやらを扱うにふさわしいと思ったが――。

 アーティファクトの適正に関する問題があるかもしれない、いや、こんなどうでも良い奴の事を考えても仕方があるまい。


「精々【闘神の斧】に選ばれる様頑張る事だな、俺様はお前に言われた通り傷を治す事に専念させて貰う。覚えてろ、ルッセル! クソがッ」


 ダストは、自室に配置されているベッドに潜り込み、それを確認したルカンはダストの部屋から立ち去ったのであった。

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