58話
「それだと、アリアさんが幸せになれないんじゃ?」
俺の問い掛けに対し、アリアさんが暫し押し黙る。
「私の事は良い。いえ、ルミが幸せになる事が私の幸せ」
アリアさんはどこまでも自分を犠牲にするタイプなのだろうか?
アリアさんだって、素敵な男性を見付け幸せな家庭を築きたいと思っている様に見えるんだけど気のせいか?
「そっか、それなら良いと思う。もし、気が変わる事があるなら言って欲しい。俺が出来る事の範囲でなら助けになれると思う」
アリアさんは俺に礼を言ったところで、ふと遠くに視界を向ける。
「何か不思議な力を感じない?」
俺はアリアさんに言われ感覚を研ぎ澄ましてみるが、
「いや、何も感じませんよ?」
「誰かが何か言ってる」
アリアさんには何かが聞えているのだろうか? しかし、溶岩の川の中に身を潜める人間が俺達以外に居るとは思えない。
この谷全体なら、何組かの冒険者パーティが居たんだけど。
「この川の外から叫び声を上げてる人じゃないんだよね?」
「そうよ」
アリアさんは目を閉じ意識を集中させたみたいだ。
声の主が気になった俺もアリアさんに続けて目を閉じ意識を集中させた。
溶岩の流れる音、それだけが耳に入り続ける。
アリアさんは誰かの声が聞こえると言ったが、俺には何も聞こえてこない、保有魔力量の問題なのだろうか?
いや、待て、何か、何か聞こえて来る、この声は?
『ハァハァ、もっと、もっとじゃ、こんなもんじゃ足りぬ』
俺にもはっきりと何者かの声が聞えた。
しわがれた男の人の声、多分おじいさんの声だろう。
けれど、こんな溶岩の川におじいさんがいるのか? 何故なんだ?
「聞えた! アリアさんはどう?」
俺の問い掛けに対し、アリアさんは黙って頷くと今度は溶岩の川の下の方を指差す。
「行こう」
俺とアリアさんは、恐らくこの声の主が居ると考えらえる溶岩の川の底へ向け移動を始めた。
『ワシに、もっと、もっと漢気を寄こすのじゃッ』
溶岩の川の底に辿り着いた所で、さっきの声がまた聞えて来た。
溶岩の川の中であるにも拘らず、俺達へ語り掛ける言葉が助けてくれ、の類で無い事に少しばかり違和感を覚えるのだが。
「漢気? アリアさん、分かる?」
「いえ」
『惚れる肉体美ッ美しく輝く筋肉ッワシに漢気を寄こすのじゃーーーーっ』
惚れる肉体美? 肉体美と言われればファイターが浮かぶ。
ファイターと言えばデビッドがそうなんだが、声の主はデビッドみたいな人間を求めているのだろうか?
「カイル君」
アリアさんが俺の身体をツンツンと指でつついた。
「どうかしました?」
「アレ」
とアリアさんが指差した方を眺めるが俺の視界には溶岩しか映らない。
この状況で何かが見えるのは神聖魔力の影響なのだろうか?
『漢じゃ、燃えたぎる漢をよこすのじゃあああっ、冷徹などいらぬぅぅぅッ女子などいらぬっッ』
冷徹な女子。アリアさんの特徴に近い。声の主はアリアさんの存在に気付いているのだろうか。
「俺には見えないけど、その辺探してみるよ」
俺はアリアさんが指差す先を手探りで探し出すと、何か柄の様な物が手に触れる感触を覚えた。
『ふぬぅっ、貴様、ワシは漢が欲しいと言っておるじゃろ! なんじゃ、その貧弱で覇気の無い輩わっ! ついてるモノが付いてれば良い訳じゃないゾ!』
何だよこのじいさん、すっげー無礼じゃないか! 確かに俺はファイター専攻の奴等に比べたら筋肉量は落ちるけど、これはあくまでナイトとして機動性を確保する為仕方ないんだぞッ!
『お主はナイトかの。フム、そう言われてみればお主の肉体も美しいのぉ、ワシはむきむきまっちょまんとやらが良いが、ワシもこの溶岩の底に居続けるのも飽きたわい、新しい道に目覚めるのも悪くないのぉ~ぐえっへっへっへ』
いきなり俺に興味を示して何だよこの気持ち悪い爺さん!! てか、この爺さん俺の心読んでる!?
「貴方、女性に興味無いでしょ? なら良いんじゃない?」




