55話
どうやらこの魔族は魔力以外の要素から人間達の力量を把握出来る様だ。
恐らく彼が言う強そうな奴と言うのはルッセルとセフィアだろう。
魔族の話を聞いたルカンは、ニヤリと笑みを浮かべ、
「ほう? 3体1か、それも悪く無い」
ルッセル達との戦いを楽しみにしているかの様に呟く。
「ひいいい、む、無茶ですよ!? あいつ等のオーラはやばかったっすよ!? あ、そ、そうですよね! 残り二人は弱そうでしたからそいつ等を人質に取るんですね!」
残りの二人、カイルとアリアはルカンから見て弱いと判断したのだろう。
敵を倒す上で人質を取る事は有効な作戦であり、魔族はこれが名案だとルカンに提案したのだが、
この言葉を聞いたルカンは拳を握りしめ、わなわなと震わせると、
「貴様ッ! 俺を愚弄するつもりかッ!」
魔族に対して一喝をする。
どうやら人質を取る事がルカンの逆鱗に触れてしまったのか、先程魔族を叱責された時とは異なり、全身から恐怖心が溢れて来る感覚を魔族は覚えてしまう。
「ももも、申し訳ありませんッ、その様なつもりは御座いませんんんッ」
身の危険を感じた魔族はルカンに対し許しを乞う為必死な土下座を行う。
「ふん、俺を案じて言った事は評価してやる。心配するな、俺にはとっておきもある」
ルカンは小型の玉を取り出し、魔族に見せる。
「こ、これは!?」
「転移魔法が込められた玉だ。ダストから貰った。いざとなればこれを使い帰るつもりだ」
「そうですよね、そうで御座いますよね、流石ルカン様でございます! 準備は万全でありますよね!」
「フン調子の良い奴め。良いか? もう一度言うがあまり部隊から離れるんじゃない」
魔族の賛美に対し気を悪くし続けるのも良く無いと思ったルカンは魔族の肩にそっと手をおく。
「ハッ! かしこまりましたであります!」
魔族は再度敬礼をすると、引き続き自分達の部隊上空からの視察を続けた。
*
炎獄の谷の最深部は、周囲を炎で包まれた崖に囲まれたエリアだった。
ここでしか産み出されない特殊な鉱石があるらしく、セフィアさんは一応それを採取し懐にしまい込んだ。
彼女からしたら殆ど価値を感じられないが何も手に入れないよりはマシとの事だった。
最深部に辿り着き、少し猶予が出来たのかエリクさんが俺とアリアさんに勉強目的で無謀な冒険者達が何故命を失ったかの話をしてくれた。
エリクさんいわく、やはりこの炎獄の谷にも分不相応な挑戦だの準備不足だのが原因で全滅してしまうパーティも居るとの事だった。
その原因として、ウィザードを連れて行かずにアイスバリアもウィンドバリアも展開されないまま魔物の襲撃を受け、不利な健康状態により本来の力が出せずに魔物達に惨殺され、仮に魔物を討伐できたとしても、自分達に襲い掛かる熱気がまともに歩行すら出来なくさせ、それが原因となり崖から転落し、溶岩の川に流されてしまう冒険者も居るみたいだ。
当然転落してしまった冒険者は命を落す事になるが、
「はぁ、相変わらず何も無いわねぇ、調査した人達が間違ってたんじゃないかしら?」
セフィアさんは深いため息と共に、物凄い投げ槍な空気を出している。
けれどその様子はお宝の為に冒険をするレンジャーである以上仕方が無さそうだ、俺だって少しがっかりしてる。
アリアさんは相変わらず表情一つ変えずに淡々としている。
エリクさんは俺達へ冒険者の指南的な話をする事を楽しく思っているのか、随分と楽しい気分に浸れているみたいで最深部に来ても闘神の斧が見付からない事に対して何も思って居ない様だ。
「間違って無いと思いますが、アーティファクトのエネルギーを探知する技術は難しい以上何とも言えません」
ルッセルさんはアリアさんと同じく淡々としているが、ギルドマスターでありリーダであるが故だろう。
「あーもう、いやんなっちゃうわね、引き返すしかないじゃない!」
「ははは、何か仕掛けがあるかもしれないじゃないですか」
イラ立っているセフィアさんをなだめようとするエリクさんであるが。
「うるさいわね! あなたに指摘されなくてもとっくにやったわよ!」
「す、すみません」
残念ながらエリクさんの専門家に対する一言は火に油を注ぐ形となってしまった。
エリクさんはがっくりと肩を落とした後、何かの気配に気付いた俺はふと上空を見上げると、
「さっきの魔族がまた居ますよ」
「あ? 今度こそ逃げないでしょうね?」




