53話
エリクさんが言うには、氷や水属性の魔法を使わずに絶命させる事が出来ればその後も身体を纏う炎が消える事無く、燃える岩石として採取が可能との事だった。
これもまた市場に出回っており、石自身が燃え盛っている事もあり薪と比べてはるかに優秀な暖房道具として冬場の寒さを凌ぐ為使われる事が多い。
今回は炎が消えてしまっている為ごく一般的な石材以上の価値は無いとの事だった。
駆け出し冒険者の俺からしたら一般的な石材を売ったお金で良いから欲しいと思うのだが、運搬の事を考えると諦めるしか無さそうだ。
その次に現れた魔物は、木人の癖に何故か炎に包まれている魔物だった。
普通に考えれば炎に弱い筈だしあっという間に黒炭にでもなりそうだと思うのだがエリクさんいわく、炎獄の谷の環境に適応する為に進化した結果との事だった。
やはり、長きにわたり燃え続ける木は重宝されているみたいで、主にたいまつに使われるとの事だった。
世の中にはこの魔物の身体を使って小屋を建てている物好きも居るらしいが、住む事が出来るかまでは謎だ。
この魔物もまた、適当に氷属性の魔法を連打する事でそこら辺の森で採取される木材となんら変わりのない物へと変化させたのであった。
「相変わらず崖の下は溶岩が流れてるわねぇ」
魔物達を討伐し、炎獄の谷をさらに進むと溶岩の川が見えていた。
灼熱の溶岩は水と比べゆっくりとした流れをしている。
その川を、先の魔物達と同じく炎に身を纏った魚が泳いでいる姿が散見される。
それ等の魔物を見て、良くもまぁ、溶岩の川を泳ぐ事が出来ると感心していると、
「ふっふっふ、僕のアイスバリアがあれば溶岩の中でもへっちゃらですよ!」
自信満々に言うエリクさんだ。
万が一溶岩の川に落ちても問題無いと捉えれば頼もしい情報でもあると思う。
勿論、進んで溶岩の川へと飛び込み泳いでみたいと言う気持ちは無いのだけど。
「そう言えば、溶岩の川に落ちた経験はないわね。もし落ちたらどうなるのかしら?」
セフィアさんが興味津々に尋ねる。
「そうですね! クイック等の補助魔法が掛かっている状態でしたら水中と同じ感覚で特に不自由の無い移動が可能です。あ、その時はウィンドバリアの展開で呼吸の確保を忘れずにして下さい」
エリクさんの口振りを見る限り、彼自身溶岩の川で泳いだ事があるように聞こえる。
もしかして、犬の格好をして溶岩の川を犬かきで泳いだのだろうか?
俺は犬になり切り溶岩の川を犬かきで泳ぐエリクさんの姿を想像し、思わず吹き出す様な笑いをしてしまった。




