5話
「カイル様? あたくしは駄犬に命令され仕方無くこの様な事をしただけで御座いまして、元来寡黙で大人しく美しいブラック・ウィザードで御座います」
セリカさんは急に内股になってモジモジし出したが、仮に彼女の言う通りの性格が本心だとしても残念ながら俺には興味が無い。
と思いたいが、貴女、エリクさんの事を堂々と駄犬と言いましたよね? しかも、エリクさんがセリカさんに何か言った様子は無い所か行き成りエリクさんを踏みつけませんでした?
「そ、そうなんだ、きっと男性の皆さんに人気があるんでしょうね」
だからと言ってそんな事を口にする事は出来ず、俺は当たり障りが無い事をセリカさんに言う。
「そうなんです。この前も私にアプローチして来た男性が居まして振り解くのが大変だったんです」
どうやら、セリカさんは男性からの人気が非常に高いらしい。ここから暫くセリカさんのモテ自慢話が繰り広げられた。
俺は仕方なく聞かされるとして、エリクさんはにこにへ笑顔で聞き、何だかめんどくさくなったのかルッカさんは、俺に対してこっそり礼を言った後、気付かれない様にその場を去った。
カミラさんもルッカさんについて行こうとしたが、セリカさんに見付かり一瞬鋭い視線を受けたせいか、渋々彼女の自慢話を聞く羽目になったのである。
「カイルさん、丁度良いところに居ましたね」
ルッセルさんの声だ。
ああ、俺としても非常に丁度良いですよ、セリカさんの話を止めてくれる救世主到来ですよね?
「ルッセルさん? おはよう御座います」
「おはよう御座います。カイルさん、会議室にお願いします」
何か打ち合わせる事があるみたいだ。ルッセルさんに言われる通り俺は会議室へ向かった。
会議室に入り暫くするとルッセルさんに連れられたルッカさんとルミリナさんも一緒に入って来た。
「話と言うのはですね、これからしばらくの間、カイルさんとルッカさんとルミリナさんには国王軍に入った同級の方と共に行動して頂きたいのです」
「分かりました。具体的にどうすれば良いですか?」
ルッセルさんが言う同級は、多分ファイターのアイツとちょっと特殊な道を歩むレンジャーの彼だろう。
賢神の石の、他の神遺物を集める話ならばルミリナさんは聖女の子孫だから良いとしても、わざわざ国王軍に所属している同級と行動を共にする理由が気になるけど。
「基本的には今までとあまり変わりません。冒険者ギルドには連絡を入れてありますので、適切な依頼を斡旋して頂けますのでそれを受けて下さい。特別な行動が必要になった場合別途こちらから指示を出します」
「神遺物が関係する訳じゃないんですか?」
「ええ。カイルさん達にはもっと強くなって貰いたいと思いますので、今回は若手の育成と思って下さい。勿論、神遺物に関係する情報が入り次第カイルさん達にお願いする予定です」
「分かりました」
確かに、新人冒険者だった俺は賢神の石がダストさんに奪い取られた際の戦いで特に何も出来なかったっけな。
ルッセルさんに追いつくためにももっと強くなる必要があるのは間違い無い。
「それでは本日特別な用事が無いのであれば早速冒険者ギルドに行って頂きたいのですが、問題はありませんか?」
「僕は問題ありません」
続いて、ルッカさんは無表情で淡々とルミリナさんはどこか嬉し気に、今日動き出す事に問題が無い事をルッセルさんに告げた。
「有難う御座います、それでは宜しくお願いします」
ルッセルさんは3人に一礼をすると会議室を立ち去った。
「それじゃ、行こうか」
「そうね、行きましょう、カイル? 私の足を引っ張るんじゃないわよ?」
「まさか、デビッドじゃあるまいし」
ルッカさんの言葉を受け同級の脳筋ファイター、デビッドの名前を思わず口に出す。
猪突猛進と言えば良いのか、兎に角突き進むタイプで、裏で俺が操っておかないと何がどうなるか分からなかったりする。
根は良い奴なんだけどね。
「はわわわ、皆様の足手纏いになってしまうかもしれないです。そのごめんなさい」
俺とルッカさんのやり取りを見て申し訳無さそうにおろおろするルミリナさん。
彼女を責めるつもりじゃなかったんだけど、いや発端はルッカさんなんだし俺には関係無い事だが、
「いや? プリーストは貴重な戦力だよ。怪我してもいつでも治療して貰える安心感って前衛からしたら物凄い重要なんだ」
ルッカさんがルミリナさんをフォローするとは思えないので、俺の方でルミリナさんをフォローするが、
「はぁ? 何言ってるの? どさくさに紛れてルミリナちゃんの評価上げるワケ? 女の子に興味が無いフリして見えないところでこっそり意中の女の子の評価上げておいてこっそり宜しくやるつもりなワケ?」
ルッカさんが形相を悪くし、早口でまくし立てて来る。
よろしくやるつもりと言う言葉が少し引っかかるが、何の意味を持ってるのか理解しかねる。
それにしても、ルッカさんは妙に攻撃的な気がするがどうしたのか?
「どうしてそうなるんだよ。俺は思った事言っただけで、大体こっそり女の子とどうこうしたいならルッカさんも居ないところでやるでしょうに」
俺がルッカさんに対して冷静に指摘をすると、
「う、うるさい、うるさいっ! 私が言おうとした事を言った君が悪いんだッ! 私は先に行ってるから!」
ルッカさんは顔を真っ赤にしながら早足で会議室を後にした。
正直意味が分からないが、追いかけても火に油を注ぐだけだろうから止めておいた方が良いだろう。
「す、すみません、私のせいで」
「いや、どちらかと言わずともルッカさんのせいだし、ルミリナさんは気にしなくても良いよ」
俺の言葉を受け安心感を抱いたのかルミリナさんは少しばかり頬を赤らめながら微笑んで見せた。
「さっ、俺達も行こうか」
俺とルミリナさんも会議室を後にし、冒険者ギルドへ向かった。