36話
よだれを垂らしながらにやにやとしている以上さぞかし面白楽しい妄想なのだろうけれど、やっぱり聞いてはダメだと俺の勘が言っているのでやめておく。
「あらやだカイル様? いらしてたのでございますか? 可憐なブラックウィザードであるこのわたくしはこの様なご趣味は御座いません、いぬっこ、エリク様が地面に頭をお擦り付けなさってまでわたくしに頼み込みましたが故わたくしめもエリク様をお思いになった末やってさしあげたので御座います」
俺が来た事を知ったセリカさんが持っていた鞭の様な物を後ろに隠しながら回れ右をして敬礼をする。
「そ、そうっすか、えーっと、セリカさん? 確か賢神の石の封印を解いた時に魔力を奪われてたよね?」
「はい。若干戻りましたがまだまだ全快には至りません」
セリカさん達は、以前賢神の石の封印を解いた際、ダストに騙されその魔力を奪われている。
そのせいで、今は初級魔法しか扱えないみたいだ。
彼女はネクロマンス法も扱えるし、確か中級魔法も扱える一刻も早く彼女の魔力が回復した方が良いだろう。
「コバルドリングが手に入ったんだ、良かったら使って欲しいと思って」
俺がセリカさんにコバルトリングを渡そうとすると、セリカさんは指輪をまじまじと見つめ頬を赤らめ、身体全体をもじもじとし恥ずかしそうにしている。
「カイル様。わたくしなんかで宜しいのですか? カイル様は非常におモテになります、数多の女性陣から狙われ、話によりますとカイル様を求めて日夜女性陣達の骨肉を争う取り合いが開かれている様であります」
セリカさんが何かの覚悟を決め、深呼吸をする。
「ですが、カイル様がわたくしをお求めになられるのでしたらこのセリカ・ジュピテス。数多の女性陣達を敵に回してでもその想いをお受け致します」
セリカさんが俺の両手を握りしめ、まじまじと俺の瞳を見詰めて来る。
「あの、セリカさん?」
俺はセリカさんの態度が理解出来ずしばし唖然とする。
「カイル様。その大胆な求婚感激しか御座いません。新居は如何致しますか? 生活費はわたくしめが何とか致しましょう。子供は沢山ほしいですよね? わたくし頑張らさせて頂きます」
あー、これ、もしかしなくてもこのコバルトリングを婚約指輪と勘違いしてるかも。
「セリカさん? 俺は誰かと結婚するつもりは今のところないし、この指輪は魔力増幅効果があるからセリカさんにあげようと思っただけだよ。俺も魔法は使えるけど、ナイトの俺が魔力上げてもあまり意味無いし」




