17話
「ククク……カイル君、相変わらずですね……フフフ、ルッカさんの魔法をわざと受けたいとお見受け致します……」
俺がルッカさんに抗議すれば、ルッド君が意味深な事を言い出す。
「いや、断じてそんな趣味は無い」
ルッド君の言葉を否定し、ルッカさんの魔法を受けた患部を左手でさすっていると、
「はわわわ、わ、私やっぱりクッキーの作り方思い出しました、またお作りしますから食べて下さい!」
ルミリナさんが熱いまなざしを俺に向けるが、残念ながら暗黒物質を食べる趣味の無い俺はデビッドの肩にポンと手をのせ、
「良かったじゃん、デビッド」
「おうよ! 忘れちまうのは仕方ないからな! 楽しみにしてるぜ!」
デビッドはウィンクとサムズアップをルミリナさんに見せるが、それを見たルミリナさんは一瞬ハッとした表情を見せ俺の方をちらちらと見ると、
「や、やっぱりヴァイスリッターの食材を使うのは良くないです」
デビッドに対して申し訳無さそうに言うルミリナさんだが、
「安心しな、クッキーに使う材料位俺が買うぜ!」
デビッドが嬉しそうに言うが、ルッカさんは彼をジト目でルッド君は飽きれた表情で彼を見ている。
「そ、そんなの申し訳無いです」
ルミリナさんが力無く返事をするとコソコソと俺の背後に隠れた。
「ククク……カイル殿もデビッド殿も罪深いモノですね……」
「そうよねぇ~私も見ていてそう思うわ、まっ、カイルなんて今に始まった事じゃないし仕方ないよねー」
何故だか分からないがルッカさんもルッド君も俺を攻め立てているが、二人から攻め立てられる事に対して全く心当たりは無い。
「と、兎に角中に入ろう、ほら、コボルド達を待たせるのも良く無いと思う」
何だか居心地が悪くなった俺が提案した言葉に対し、ルッド君がフッっと不敵な笑みを一つ浮かべ、
「クク……それもそうですね……。カイル殿が仰る通り中に入りましょう」
ルッド君賛同の元俺達は『わんわん・ぱらだいす☆』の中へ入った。
門をくぐった先には、森林エリアを切り開き平原エリアに近く整えられている。
来場者達が落ち着いて施設を堪能出来る様にする為だろう。
遠くを見ればところどころに木製の建物があり、ルッド君曰く食べ物を売る店、お土産を売る店等様々な建物があるようだ。
左方向には、柵に囲まれその中は程よい草むらで生い茂られた牛を放牧しているエリアに似ている広場が見える。
その広場入り口に掛けられている看板を見、ふれあい広場ですね。とルッド君が呟くと、
近くに居たコボルドが、コボルド語にて「仔コボルドと触れ合う広場」と説明をする。
ルッド君が翻訳し、皆に説明をすると、
ルミリナさんが瞳を輝かせながら、ふれあい広場の方を指差し小さくはしゃいで見せる。
ルッカさんは、どこか嬉しさを隠しきれない様子を見せながらもルミリナさんが行きたがっているから仕方ないと言っている。
俺は俺で可愛い物を見るのも悪くは無いと思う以上特に反対する理由は無い。
ふれあい広場に辿り着くと、真っ先にルミリナさんが小走りでゲートをくぐり中に入って行った。
ルッカさんが、「仕方が無いんだからね」と俺に告げるとルミリナさんを追いかける形で同じく小走りで中に入る。
「はわわ、コボルドさん達物凄く可愛いですッ」
ルミリナさんが目をきらきらと輝かせながら、思わずよだれがこぼれてしまいそうな表情をしている。
その視線の先には、大きなつぶらなひとみでこちらを見つめる数匹の仔コボルドの姿があった。
ルミリナさんと目の遭った仔コボルド達は両手を小さくパタパタとさせその愛くるしさをアピールしている。
「し、仕方無いわね、そんなに撫でて欲しいなら私が撫でてあげようじゃないかしら」
ルッカさんが、仔コボルドに近付き、しゃがむと仔コボルドの頭をそっと撫でる。
頭を撫でられた仔コボルドは嬉しそうな表情を見せている。
ルミリナさんは、他の仔コボルドを一匹抱きかかえ上げその身体をもふもふとし始める。
そのコボルドもまた、それが心地良いのか可愛らしい声を上げ嬉しそうな表情を浮かべている。
「ククク……我々は姫方のお邪魔にならぬよう致しましょうか……」
「あ、ああ。そうだね、俺達は適当にくつろいでいようか」
俺も二人と同じく仔コボルドと戯れたいと少しばかり思ったが、さっきも思った通り仔ボルド達も抱き上げられるなら女の子の方が良いだろう。
少しばかり残念だけど、ルッド君が言う通り嬉しそうに仔コボルドと戯れているルッカさんとルミリナさんの邪魔をする訳にもいかない。
少し遠くを見るだけでも視界に樹々が映る。男三人、森林浴をすると考えれば良い悪い話でもない。
ぼーっと周囲の景色を眺めていれば、デビッドが「面白い事起こらねぇのか、例えば空から魔物が襲撃して来るとか」なんて言い出す。
セザール平原に生息している魔物は大して強い魔物が居る訳でも無いから、そんな空から襲撃をして来るなんて事は多分無い。
勿論、魔族領に近いエリアならそれ位の魔物は日常茶飯事に現れると思うし、こんなのんびりと過ごす事は無理だけど。
デビッドにとってあまりにも暇なのか、俺とルッド君はデビッドから対女性爆死列伝を聞かされる。
適当な相槌を打ちながら、どうしてそこまで女性を欲しがるのか疑問に思いつつ空を見上げ雲を眺め日頃負担となっていた精神を落ち着かせる。




