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16話

「何処かの誰かもルッド君見習ってほしいモノね」


 ルッカさんが、普段よりも少し声量を落しながらルミリナさんに言う。

 ルミリナさんはそれが誰なのか分からず苦笑いを浮かべ、


「うぐっ、お、俺だって配慮しているつもりだぜ!」


 何故かデビッドが反応をしている。

 余程答えたのか、胸を抑えうずくまっているのだが、一応気遣いや配慮という単語も彼の脳みそに入っているみたいだ。


「あら? 聞こえちゃったの? ごめんなさいね、私は貴方に言ったつもりは無いわ、安心して下さいね?」


 ルッカさんが満面の笑みを浮かべ、どう考えてもデビッドへの追撃にしかならない言葉を述べる。

 今の言葉が応えたのか、デビッドは頭を抱えのたうち回り出す。


「ククク……コボルド殿は中を案内してくれるみたいですよ……ルッカ殿の調理手腕は手練れているみたいですね……」


 ルッド君が、さりげなくルッカさんを褒め、ルッカさんは少しばかり嬉しそうな雰囲気を見せ、


「あらそう? それなら残ってるクッキーはルッド君にあげるわ」


 クッキーが入った小袋ををルッド君に手渡す。


「ククク……かたじけない……」


 ルッド君はルッカさんに対し、クッキーを俺に渡さなくて良いのか? とアイコンタクトを見せるがルッカさんは特に反応を示さなかった。

 ルッカさんが作る焼き菓子は結構な頻度で食べているから俺としては別に今貰えなくてもどうでもいいのだが、


「ぐうぅ、そ、そのクッキーお、俺にもクレ」


 もの欲しそうな眼でルッド君を見据えながらデビッドが腹の奥底からうめき声の様な声を上げる。


「ごめんねー、ルッド君頑張ったからね。そんなにクッキーが食べたいなら今度ルミリナちゃんから貰えば良いんじゃないのー?」


 どこか小悪魔めいた笑みを浮かべているルッカさん。

 かくいう俺は、ルミリナさんが作ったクッキーを思い出し、2、3歩後ずさりをする。

 なんたって、ルミリナさんが天使の笑顔を見せながら作り上げたクッキーは真っ黒な塊で、暗黒物質ダークマターという言葉が相応しい位。

 当然食べたら俺は無事ですまなかった訳だ。

 そんな事を知るよしもない、ルミリナさんが作るクッキーなら素晴らしく美味しいに決まっていると思い込んでいるであろうデビッドが瞳を輝かせながらゆっくりと立ち上がるが、


「あわわわわ!? わ、わたしクッキーの作り方分かりません、その、ご期待にそえる事が出来無くてごめんなさい」


 ルミリナさんが両手をパタパタさせ、あたふたとしながらデビッドに告げる。


「ハッハッハ、作り方が分からないならしょうがないよな!」


 気にするなとルミリナさんをフォローしているデビッドだ。

 本当は、ルミリナさんがクッキー(暗黒物質)を作る事が出来るが……隠して貰えた方が幸せなのかもしれない。


「ねぇ、カイル? クッキーが1枚残ってたの」

 

 藪から棒にルッカさんが上目遣いで俺を見つめながら、クッキーを1枚差し出す。


「え? 俺? 別にお腹空いてな……」


 俺がルッカさんの差し出したクッキーの受け取りを拒否すると、突然俺の身体に電撃が走る。


「カイル? どうしたの? 腰でも痛めたの? ルッセルさんに相談したら優秀な整体師紹介してくれるんじゃないかしら?」

 

 突然の電撃に対し悲鳴を上げた俺に対して、何食わぬ顔で心配そうにするルッカさん。


「ちょ、おま、【襲来ライトニングボルト】をぶつけるな! ほぼ無詠唱で完成させて威力押さえても痛く無い訳じゃないぞ!」


 このメンバーに雷属性の魔法を扱える人間はいない。

 つまり、俺に電撃を浴びせた犯人はルッカさんしかいないのだ。

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