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14話


「ククク……面白いモノが見えますね、ルミリナ氏の言う事はあながち間違いでは無いかも知れませんね……」


 ルッド君に言われ、目を凝らしてみると『わんわん・ぱらだいす☆』と書かれた看板が見えた。

 どうもそれが入り口みたいで、近くには門番らしきコボルドが居る。

 居るのだが、コボルド達が身に着けている剣は鞘に納めたままで、何者かと戦う気が無いと言うか、コボルドは人間に比べて嗅覚も鋭いし俺達の存在は彼等に認知されると思う。

 暫くコボルド達を観察してもちょーっとばかし、ふぬけた感じでペットとして飼われている犬と大差が無く、ルミリナさんが言う通り可愛いワンちゃんって言葉が似合う。


「えーっと、こいつ等討伐するんだよな?」


 冒険者ギルドから受けた説明では、コボルドキングは配下のコボルド兵を使い人間の住処を荒らし略奪していると言う話だったんだけど、今俺の目の前に映っているコボルト達を見ている限りそんな事は微塵も感じられない。

 冒険者ギルドが言っていた事が間違っていたのか? 一応彼等は俺達人間を油断させる為の演技をしている可能性も考えられるだけど、例えばサキュバスとかあの辺りの魔物なら兎も角、コボルドがそこまで策略めいた事を考えるとは思えない。

 俺と同じ考えをしているのか分からないが、ルミリナさんとルッカさんは俺の言葉に対して乗り気でない生返事をして来て、デビッドは何も考えていないのかコボルドキング討伐に対してやる気満々の返事をした。


「ククク……僕が様子を伺って参りますよ……」


 俺の考えを察したのか分からないが、ルッド君が何かの魔法を使ったのかスッと周りの景色と同化すると、『わんわん・ぱらだいす☆』の門番の元へと向かって行った。


 門番の元に辿り着いたルッドは近くの草むらに身を潜め、2匹居る門番コボルト達の会話に聞き耳を立て始めた。


「ワンワン、ワンワン、ワワワンワン(暇だなー国王サマは娯楽施設を作って儲けるって言ってたけどニンゲンが来ると思わないんだなー)」

「ワンワンワン、ワワン(国王サマに逆らうとご飯抜きにされるぞー)」

「ワワンワン、ワンワンワン(それは嫌だなー、でもニンゲンなんて誰も来ないんだなー)」

「ワワワワン、ワン(真面目にやってるフリはしよーぜ)」

「ワンワン(そうだなー、おや? ニンゲンの臭いがするんだなー)」

「ワンワンワワン(まさか? ホントだ近くに人間が居るぞ)」

「ワワンワン(緊張するんだなー)」


 2匹のコボルドは大きなあくびを一つ、眠たそうな眼をこするとぼーっと空を眺め始めた。

 ルッドは動物の言葉を人間の言葉に翻訳する技能を持っている。

 2匹の門番の会話内容から自分達に危害を加える気が無いと分かったルッドはカイルの元へ戻ったのであった。


「フフフ……彼等の会話内容を聞いた限り、どうやら彼等は我々に敵対する意思は無さそうですね……この施設は純粋にお金を儲ける為の施設の様でしたよ……」


 ルッド君が偵察に行っている間、少しばかり暇だった俺はぼーっと空を見上げ蜘蛛の動きを眺めていたんだけど、ルッド君が気配無く不意に偵察の報告を行ったせいで俺は思わず驚きの声を上げてしまう。

 いよいよもって、冒険者ギルドから聞いていた話と違って来るんだけど、この場合どうするべきなのだろうか? コボルドキングから詳しい話を聞いてからでも遅くないのか?

 冒険者ギルドからは、コボルド達は害悪な存在だから討伐しろといわれているんだけど、実際俺が見ているコボルド達は敵意を感じられず愛玩出来てしまえそうまである。言われた通り討伐してしまうのは気が引けてしまうところだ。


「あのワンちゃん達を倒さなきゃダメなんですか?」


 ルミリナさんが、どこか悲し気な目をしながら俺に尋ねる。


「私もルミリナちゃんに同意したいけどね、残念だけどこれは冒険者ギルドからの依頼なのよ」


 ルッカさんが最もらしい事を言う。目の前のコボルド達をせん滅する事は悲しいけれども私情を捨てなければならないと覚悟を決めている様に見える。


「ハッハッハ、こまけぇこたぁ気にせず入ろうぜ!」


 デビッドが能天気に言う。

 何も考えていないのか、考えるよりも行動しようと俺達を後押ししているのかどっちかまで分からないが。


「ククク……カイル殿、冒険者ギルドの依頼は必ず成功させる必要はありませんよ……」


 確かにルッド君が言う通りだ。

 依頼達成による報奨金が得られないが、今回起こった事を報告する事でその情報に対する報酬が得られる可能性はある。また、明らかに悪意的な依頼放棄でもない限り違約金を取られる事もない。

 ただ、デビッドやルッド君は国王軍所属だから依頼を失敗してもお金の保証はされている。俺とルッカさんも、将来国王軍の中でもエリートと呼ばれる地位に着く為冒険者の経験を積んでいる身である為、やはり国からある程度のお金は支給されている。

 俺個人はこの依頼を失敗して無報酬でも特に困らない。

 恐らくルッカさんも。

 ただ、ルミリナさんはお金を欲しているんだっけ。

 確か今は姉であるアリアさんと2人で生活していて、生活費はアリアさんが稼いでいるとか。両親はどうなんだろう? と気になりはするけどその辺りの踏み込んだ話はした事が無いから俺には分らない。


「これだけじゃ情報が少ないし、入ってからまた考えよう」


 お金の事を口に出すか迷った。

 けれど、ルミリナさんが可愛いコボルトを討伐する事に対して強い抵抗を抱いているみたいだから、多分今は言わない方が良いだろう。

 誰も俺の意見に反対する者は無く、スムーズに『わんわん・ぱらだいす☆』の入口へと向かって行った。

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