12話
―ヴァイスリッター―
会議室にはルッセルとエリクにベテラン女レンジャーが部屋の中央に配置されてる円卓に適切な位置で座っていた。
「お二人共、炎獄の谷はご存じですね?」
「あら? マスター? あんな暑い場所に行くなんて、バーベキューでもしにいくのかしら?」
ベテランとは言え、まだ20代半ばと若い女性であるレンジャーがルッセルに対して狩る口を叩く。
彼女もまたSランク冒険者であり、彼女にとっても炎獄の谷に行く事は造作でも無い事だった。
「ふむ、その様子ですとアーティファクトの情報は漏れていなさそうで何よりです」
「あら? マスター? その言い方だと何処かにスパイでも居るとでも言いたげよ?」
「鋭いですね。その可能性は否定できません。何せダストは人間を裏切り魔族側に付いたので、魔族側のスパイが何処かに居る可能性は常に考える必要があります」
勿論、ベテランレンジャー事セフィア自身が闘神の斧に付いての情報を持っている事自体ルッセルにとって特に問題は無い。
しかしながら、セフィアにその情報を伝えた人間が誰なのか? その人間が何処でその情報を握ったか次第では存外問題となる訳である。
例えば、ルッセルが学長と会話していた部屋で何者かが盗聴をしていたとか。
「それで、そのアーティファクトを取りに行く為に炎獄の谷に行くんでしょ? あんな大した事が無い場所其処等辺のAランクなりSランク冒険者に頼めば良いんじゃない?」
レンジャーであるから仕方が無いのかもしれないが、セフィアにとってアーティファクトの認識は非常に高価なお宝と言う認識しかないみたいで、それが人間軍と魔族軍との戦いに於いて有用な戦力になると言う事に対して興味関心が無さそうだ。
「残念ながら一般の冒険者は誰が魔族と繋がっているのか分からないのですよ。万が一にもアーティファクトを魔族に取られてしまってはルシド大陸の状況は悪くなってしまいますのでその辺り警戒は必要なのですよ」
勿論、仮に【闘神の斧】を魔族に奪われたとしても即座にルシド大陸が魔族に制圧される訳では無いのであるが、既に【賢神の石】が魔族に渡っている以上人間軍側の状況は非常に悪くなるだろう。
「ふーん、面倒な話ね、まぁ良いわ」
ぶっきらぼうにいうセフィアだ。
レンジャーである彼女からしたら人間領が魔族に占領される最悪な事態に陥ったとしても野営スキルや隠密スキルを駆使すればどうにでもなると思っている様でルッセルの話に対して特に危機感を覚えていない様だ。
「有難うございます。私も同行しますので戦力面は問題無いどころか過剰なくらいですが、カイルさん達の修行を兼ねて同行させたいので丁度良い位でしょう。この事に対して何か異論はありますか?」
現在冒険者ランクがDでしかないカイルにとって、誰の支援も受けなければ炎獄の谷とは直ぐにでも命を落としてしまう危険な場所であるが、ルッセルが言う通り自身やセフィアの援護、またエリクが扱う強力な支援魔法があればカイルですらもどうにかなる位の状況に出来てしまう。
「特にありません。僕のアイスバリアがあればあの程度の炎無効化出来ますから」
自信満々に言うエリクさん、少しばかり視線をチラつかせ不審な挙動を見せると、
「ですから可愛い女の子の同行をお願いしたいんですよね、ルッセルさん。ほら、モチベーションって大事ですから」
自らの下心を誤魔化す為、それと無い理由を付けるエリクである。
「ふむ、セフィアさんではご不満ですか、仕方がありません検討致しましょう」
ルッセルが、エリクを少々からかうかの様にわざとらしく言うが、
「そうねぇ、アリアちゃんはセイジ目指してるんでしょ? 私達だけじゃヒーラーが居ないし彼女を連れて行くのはアリね、ルミリナちゃんは実力不足、最低限自衛出来る魔法を持って無いから連れて行くのは危ないわ。最近入ったウィザードの娘達もそこからセイジ目指して治療魔法会得してる娘が居れば良いんだけどね」
ルッセルのからかいに対し、特に反応する事無く適切な意見を述べるセフィア。
セフィアが言う通り、現在プリーストであるアリアは、守るべきものは他人に頼らず自分が守らなければならないと攻撃力を身に着ける為、ウィザードの上位職の中でも攻撃魔法と治療、支援魔法を扱える事が出来るセイジ目指し攻撃魔法の勉強や鍛錬に励んでいる。
「ふむ、少し位面白い反応があると思いましたが少し残念です。シュヴァルツ・サーヴァラーの娘達は魔力が戻ってませんので同行は不可能です。ですのでアリアさんも同行してもらう事にしましょう」
「あら? 私はそれを見越してあえて反応しなかったんだけどねー」
見事にルッセルを自分の術中にハメる事に成功しクスクスと笑うセフィア。
「これは一本取られましたね、それでは近い内に出発しますのでよろしくお願いします」
してやられたと、苦笑をするルッセル。
「ゲヘヘヘ、アリアちゃんとご一緒出来ます、ルッセルさんの公認ですからへっへっへ」
一方のエリクはアリアとの良からぬ妄想を膨らまし涎を垂らしていたのであった。




