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第四話 三人集まれば……


夜白と山菱に丁寧に、分かりやすく、事細かく噛み砕いて説明してもらって分かったコト。



一つ、ここは『常世(とこよ)』という異世界

二つ、元いた世界は『現世(うつしよ)』と呼びさっきまで朝香が居たのは常世と現世を繋ぐ空間を『狭間(はざま)』と言う。

三つ、常世は太陽が上らない。つまり常に夜。『とこよ』だけに

四つ、常世には神様や魑魅魍魎……いわゆる妖怪がいて、いいヤツと悪いヤツがいる。ついでに山菱は妖怪と神様の中間みたいな立ち位置らしい。

五つ、神様や妖怪には『神格』なる格付け番付けがある

六つ、神格があれば現世と常世を繋ぐ『門』を開ける

七つ、門が開くと目的に沿った人間が現世から一人招かれる

八つ、門を開いた妖怪や神様は神格が高い分だけ遠い所まで狭間に出れる

九つ招いた者と共に門を潜った人間は、目的の達成と招いた者の許可が無いと門を潜って狭間に出ることもできない。これが神隠し

十、現世に戻る為の門は現在何故か閉ざされているため常世への一方通行。だから仮に許しを得て門から出られても狭間で彷徨うしかできなくなる。

etc.………



「え、激ヤバじゃん」


そう呟いた朝香の目の前にはぐったり伸びた山菱とゲンナリして項垂れた夜白がいた。


「ヤシロっち……おいらもうダメこの子どうしたらいいの……」


「山菱……お前は頑張った。すまん迷惑を掛けた」


朝香へ一つ一つ噛み砕いた説明を十回ずつ繰り返した二人のMPはもう底を付いていた。

夜白は朝香にギッと尖った視線を寄越した。


「だから言っただろ。入ったら二度と戻れなくなるって」


「だってぇ……」


「だってもクソもあるかこの馬鹿っ!」


「ぅっ……夜兄(よるにい)お口悪くなったくない?」


「話を逸らすな!」


ガツンッと音がして朝香の頭に夜白の持つ刀の鞘が振り下ろされた。

朝香が頑丈なのをいいことにさっきからド突かれまくっている。


「で、夜兄はぁ、五年前神様にあっという間に攫われて?門を潜っちゃって?現在進行系で現世?側へ繋がる門を開ける方法を探し中……と」


朝香は指折り数えて夜白のざっくりした経緯をおさらいした。


しかしまだ不可解なことがある。


「でもそのツノとかはどったの?」


「それは別の事情だ。後でいい」


朝香が首を傾げると夜白は手を振りまた話を逸らした。


明らかに何かあったに違いないのに先ほどから頑なに話を逸らす。不服である。


「お前が自分から常世に飛び込んだせいで現世に戻るのに問題が山積みだ」


小首を傾げる朝香の頭をゴンゴンとまた鞘が打つ。


「一つ、今、常世から現世へ出るための門が閉ざされていること。

二つ、招いたのは孤月だがお前は常世側にいる俺の手を取ってこちらへ来たこと。この場合、お前は孤月と俺、二人に神隠しされた事になる。

三つ、隠した俺自身が隠された身であること。

お前を現世に帰す為に片付けければならない問題は大雑把に分けてこんな所だ」


朝香は正座させられたままそろ〜りと手を挙げた。


「あの〜さっき夜兄かあのエロギツネの嫁にならなきゃならんって言ってたのはナニ?」


夜白は立ったまま朝香を見下ろし苦々しい顔をした。


「『目的』の達成。隠された者が帰るために必要な条件だ。門を開く者の目的は多種多様だ。例えば『食いものにするため』だったり、『遊び相手』だったり……今回孤月が門を開けたのは『嫁取り』のためだ」


「ンゲェッ!?食べられちゃうコトもあんの!?」


流石の朝香でも妖怪に頭からむしゃむしゃ食われるのはごめんである。


「カカカ、そうだぜアサカちゃん。今回食われる目的じゃなくてよかったなあ〜。おいらは『遊び相手』として常世に呼ばれて目的が達成されたけどココでの暮らしが案外性に合ってたんでそのまま居着いたってワケよ」


「へえ〜そんなことも出来んの?ってことはヤマビシさん元は人間ってこと?なんで烏天狗になってんの?ってかいつからココにいんの?」


朝香が興味津々でグイグイ迫ると夜白がその首根っこを捕まえて引き戻した。


「この世界に馴染むには人間のままではいられないからだ。山菱は自分を招いた鴉天狗に修行を付けて貰って神格を上げ、鴉天狗に変化した変わり者だ」


「んん〜おいらが現世からココに来たのは五十年?百年?くらい前カァーなあ〜」


朝香は夜白の発言よりも山菱の補足に仰天した。


「百年!?超長生きじゃん!え、でもなんで自分が来た年数忘れちゃってんの?まさかボケ……?」


「酷っ!酷いぜアサカちゃん!おいらはボケちゃいないカァーッら!常世は時の流れが曖昧だから現世と時間軸がズレるんだよぉ〜。おいらが現世に居た時にはお侍様が世を納めてたぜ!」


「山菱、そしたらお前はだいたい二、三白年ココにいることになるぞ」


「カァーッ!?」


そんなこんなをする中、朝香は夜白との再会時のやり取りを思い起こしていた。


(ん〜?トコヨは時間の流れがあいまい……ウツシヨと時間がズレるってことね。だから夜兄は五年って聞いてショック受けてたのか〜)


「話が逸れた。戻すぞ」


夜白は物思いに耽る朝香の頭を鞘でコンコンと叩いた。


「朝香。お前を現世に戻すには俺か、孤月がお前を娶らなきゃならん」


「メトラナキャ?」


「ああ、もう!嫁にするってことだよ!だが孤月はこれまで何人もの人間を招いては嫁にし、壊れるまで手放したことは一度もない。だからアイツの嫁になれば最後、戻れる可能性は限りなくゼロだ。」


「ンゲェっ!クズじゃん!クズゲスエロギツネじゃん!でもなんで夜兄かアイツの二択なの?」


朝香が顎に指を当てて小首を傾げると山菱が大笑いしながら答えてくれた。


「カカカ孤月サマをそんな呼び方するなんざ大したもんだぜアサカちゃん!さっきヤシロっちが言ったろぉ〜?アサカちゃんは孤月サマとヤシロっち二人に隠されたって」


「ふんふん……なんで?」


いかにも意味深に頷いて見せたくせに聞き返してきた朝香に山菱がひっくり返った。


「いいか、朝香。基本『神隠し』は招いた奴が人間を連れて門を潜ることで成立する。だが時に人間(獲物)を横取りしようとする奴も居るんだ。そうゆう奴は招いたやつより先に狭間に出て人間を攫う。つまり招いた奴と人間を連れて門を潜った奴が別々だ。複数の奴が人間を隠したことになる。今回の場合は俺がそれにあたる。飛び込んできたのはお前だがな」


「ふんふん」


「複数が人間を隠した時は先に目的を達成した奴がその人間の権限を得る。要するに早い者勝ちだ」


「じゃあ……」


「話は最後まで聞け」


朝香がぴょこんと手を挙げると同時に鞘が頭に落ちてきた。


「目的によっては先に達成されていたとしても決闘が設けられる場合がある」


「んん?どゆこと?」


「アサカちゃん〜。目的にも色々あるっつったよな?その目的が食っちまうことだったら先に食っちまったもん勝ちだがよぅ、遊び相手や嫁取りだったらどうなると思う?」


「うん?」


「カァー……分かんねえか……」


山菱は朝香の察しの悪さにがくりと肩を落とした。


「つまりなぁ〜。目的を達成した後もその人間が生きてる場合にゃ招いた奴が横取りした奴に返せって言ってくるんだよ」


「ほほぅ。でもあたし的にエロギツネはノーサンキューなんだけど。全力拒否!」


「いくらアサカちゃんが嫌でも常世に入っちゃ常世のルールに縛られる。隠された人間には拒否権なんてないのさ」


「理不尽!」


「お前が馬鹿したからだろう!」


ぷりぷり怒り出した朝香の頭に夜白の怒りの鉄槌が落とされゴインッといい音がした。


「いった!夜兄頭ばっか叩かないでよ!前より無駄に力持ちになってんだから!バカになったらどうしてくれんの!」


「安心しろ。お前の頭は固いし既に馬鹿だ」


「にゃにぉう!」


ムキーッと掴み掛かろうとする朝香の顔面を片手で抑えながら夜白は続けた。


「ここで三つ目の問題が出てくる。俺は常世側に居て馴染みつつあるが立場はとても曖昧だ」


「なんで?」


朝香がピタリと動きを止めて訊ねると夜白は長い睫毛を伏せた。


「神格の話は覚えてるか」


「神様妖怪の格付け番付」


「……もうそれでいい」


夜白は朝香を座らせると何か言いたげながらも説明を再開した。


「いいか、神格は上から順に『一霊級』、『準一霊級』『二霊級』、『準二霊級』と数えて最低が『十霊級』で締められる」


「そいで孤月サマは仙狐なだけあって上級神格持ち!んで、言いたかないけどぉ……。ヤシロっちは……」


「最底辺の『十霊級』だ。孤月は『ニ霊級』か『準一霊級』だろう。神格で強さの全てが決まる訳ではないがこの差は絶望的だ」


「ええっ!?夜兄めっちゃ強そうなのに!?さっき刀でザンっとかやってたじゃん!元々剣道部のエースで運動神経もいいし力持ちになってるし見た目も強そうになってるし!あんなエロギツネなんてバッサリ行けるっしょ!」


ガビーンとショックを受けた朝香が捲し立てると二人は顔を見合わせた。


「カカァー……何を祀る妖怪か神サマなのかによって戦いに向き不向きがあるけど、神格の高さはそのまま地の強さに繋ガァーるのさ」


「ゲームはやったことあるだろ?アレで説明すれば神格の上下は元々持ってるステータスの大きさだ。幾ら攻撃力がカンストしててもレベルが十と九十九のやつが対戦しても勝ち目がないと言うことだ」


「な、なななんで夜兄そんな弱っちい設定になってんの?」


憧れの強い兄がそんな最底辺だなんて信じられない朝香はワナワナと震え出した。


「だから三つ目の問題だ。俺が未だ目的の達成もされず隠された身で、本来なら神格すら持ち得ないからだ」


「どゆこと?」


「成りはこんなだが俺はまだ完全な妖になってはいない。中途半端な半妖だ」


「普通、神格は最低妖にでもならなきゃ持てない。半妖状態で神格を持ってること自体すごいことなんだけどなぁカァ〜……」


「アヤカシ?半妖?なんで?ね、夜兄なんでそんなことになってんの?」


「そんなことはどうでもいい。先ずは……」


「どうでもよくないよ!」


また自分から話を逸らそうとする夜白に我慢ならず朝香はバァンと畳に手を付き勢いそのまま立ち上がった。


「さっきからずぅっとごまかしてるけどさ!夜兄は今も誰かに神隠しされてるんだよね!?」


悶々とした気持ちが溜まりに溜まって収まらず夜白の襟を掴んだ。


「半妖ってそのツノとか目とかのことだよね!?山菱さんみたいに自分からアヤカシになろうとしてるんじゃないんでしょ!?ずっと気にしてるし嫌そうじゃん!」


夜白を揺さぶりながら叫ぶ。


「辛そうなのが分かんないあたしじゃないんだからね!誰に何されてそうなってんの!」


朝香が叫び終えるとシン……としばしの沈黙が降りた。


「落ち着け、朝香……。それは、今……言ってどうにかなるものじゃない」


「また今じゃないって……っ!」


襟を掴む朝香の手に夜白の冷たい手が添えられる。そしてそれが微かに震えていることに気づき朝香はハッとした。


「俺は、呪われている。()()()は俺を返す気はない……帰れる可能性はゼロだ。もう、諦めている」


夜白の訥々と語る声に耳を傾けながら朝香はその手を握った。瞬間、夜白が小さく息を呑む。


「じゃあ、なんで今も現世に繋がる門の開け方探してるの?」


「せめて、俺の後に、来て、帰れる可能性のある奴は帰せるようにって……」


夜白の震える手が朝香の手を握り返した。


「じゃあさ、諦めたんならさ、なんでさっさと妖怪になんないでいるの?常世に居るには人間のままじゃ居れないんでしょ?」


「それは……」


夜白は少し言葉に詰まったがゆっくりと吐き出す様に告げる。


「完全に妖になるのも()()()の思い通りになるのも癪だからで……」


「夜兄、嘘つくのほんとヘタクソになったね」


朝香の口から言葉が、目から涙がポロッとこぼれ落ちた。


「全然未練たらたらで諦めてないし。人助けは夜兄らしいけど、門の開け方探してんのは自分も帰りたいからじゃん?」


朝香は面がズレるのも構わずギュッと夜白を抱きしめた。途端、ほわりと温かい何かに包まれた感覚と夜白が体を強張らせたのがわかったが構うもんかと更に抱きしめる。


「あたしのこと、先に帰そうったって無駄だかんね。一緒に探そうよ、帰り方。呪いだって上等。掛けた奴がいるんなら解く方法吐かせてやるし。夜兄そんなにした()()()ってヤツやっつけちゃうんだから。」


そう言ってほろほろ涙を流しながら笑って顔を上げた朝香を見て夜白は先程よりもずっと大きく息を呑んだ。


「ずっと一人で探してたん?山菱さんも一緒?二人で探して見つかんなかったんだからここであたしが抜けちゃダメっしょ。ほら、三人そろえば饅頭の知恵っていうじゃん!」


「「…………ブハッ」」


しばし沈黙した後夜白と山菱が揃って吹き出しゲラゲラと笑い出した。


なぜだ。とてもいい事を言ったはずだ。解せぬ。


「ヒーヒー!アサカちゃんサイコー!」


「おっおまっそこは文殊の知恵だろっ!ぶふっ!」


「カカカカァーッ!!!最後の締めでココまで滑るコ見た事ねえ〜!!!ブフォっ」


笑い転げる山菱と夜白を見て朝香はぶーたれた。


「ちょっと間違えただけだし!んで、返事は?」


「くっくくく!こんなに笑ったのは久方ぶりだ。

分かった、朝香。諦めるのは時期尚早だった。探して、一緒に帰ろう」


「微力ながらおいらも協力するぜぇ〜」


目尻に溜まった涙を三者三様拭いながら話を移す。


「だが目下の目標はまず朝香を隠す事だ。孤月に俺と朝香が共に居るところで仕掛けられたら即決闘決着を付けられ奪われる。山菱、伝手はないか?」


「ううーん……ちょぉっとあるけども、あのヒトぁこっちから連絡取れないしなぁ〜。だからこそ提案なんだけどヤシロっち。目的だけでも先に果たしといた方がいいんじゃね?」


途端夜白の白い頬に血が上った。


「ばっ!それこそあとでいいだろ!と言うよりできるか!俺達は兄妹なんだぞ!?」


「え〜?だって〜ヤシロっちとアサカちゃん血縁じゃないでしょ〜?」


「た、しかにそう、だが……」


「それにヤシロっちアサカちゃんとずぅっと離れてたんでしょ〜?見違えたんじゃな〜い?さっき満更でもなさそうだったしぃ〜?」


「違っそれは……」


「ねねねなんの話?」


先の見えない会話に我慢ならず朝香が訊ねたその瞬間。


「みぃ〜つけた」


聞き覚えのある声と共に青い炎に包まれた天井が降ってきた。

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