少女マンガのような迷言に取り憑かれた作者の戯言 〜エタッてるわけじゃない。筆を止めて待っているのさ。人類が俺の作品に追いつく日をな……〜
――俺がカッコいいのは、お前の視線を独り占めするためなんだよ。一生飽きさせねぇから、ずっとこの俺にだけ見惚れて生きていろ。
――屋内は膝の上、屋外は胸の中。大切なもんは肌身離さず手元に置いておくもんだろ? わかったらさっさと俺の傍に来い。丁重に愛の巣までエスコートしてやるぜ、マイスイートハニー。
ヤバいものを見てしまったと思って、ブラウザバックしようとしたそこのあなたに質問です。
誰かが失敗した時にまるで自分ごとのように恥ずかしくなった経験はありませんか?
あの現象を共感性羞恥心と呼ぶそうです。
にわか知識なので間違っていたらすみません。
私は現在、そんな共感性羞恥心を多くの人に体験していただくためにこのサイトを利用しております。
より正確に言うと、恥ずかしさを感じた時の、あのゾワゾワとした感覚を多くの人たちに感じてもらいたいのです。
あっ、先に断っておきますが、私は変態ではありません。(ここ重要)
こう見えても一定のコミュニティに属せる程度の社会性は有しておりますし、多くの作者と同じように自分の書いた作品に評価が付けば喜ぶようなごく至ってノーマルな性癖の持ち主です。
私が人々に恥じらいを与えている理由は、地球を支配するというような大それた目的のためではなく、あくまでそれが世の人々にウケると信じているからなのです。
とはいえ、ここで『ジャンル:ゾワゾワ』を前面的に押し出しても、読んでくださる方はごく少数。
ラーメン巡りという言葉を聞いたことはありますが、コオロギ巡りという言葉を私は知りません。
完全に未知の味を求める人は、そんなに多くないのが現実です。
そんな世の中でゾワゾワを広めることは、コオロギ専門店で長蛇の列ができるほどの名店を目指すようなもの。
長く続けていれば、いつかは口コミやら何やらで軌道に乗ることはあるかもしれませんが、成功するにはかなりの忍耐力が必要です。
しかし、できれば手っ取り早くゾワゾワを広めたいというのが本音。
なので私は、テンプレの力を借りることにしました。
テンプレとは、いわばハンバーグのようなもの。
ハンバーグが大衆ウケの良い料理なのは、語るまでもありません。
ではそのハンバーグの中にコオロギを入れれば、人々はコオロギの旨さに気づくのではないだろうか……?
ぐへへへ。
こうして私は、ざまぁされる人間特有の悪い笑みを浮かべながら、作品作りに取りかかります。
その結果、この世に誕生したのが、『記憶を失くした俺の処方薬が許嫁の聖女だった件 〜女性にたじたじになった俺が、性格真逆のオレ様系男子を演じることになった話〜』という作品です。
冒頭に出てきたあれらは、この作品の主人公に言わせているセリフの一部。
現実でこんなことを言って口説いてくる人がいたとしたら、その方はこの小説を読んだ読者なのでしょう。
この作品を読んでおくと、その方との話題作りになるかもしれませんね。
まぁ冗談はさておき、そんなこんなで一話目を書き終えた私は、どこでこの作品を公開するのかを考えた結果、カクヨムを選ぶことにしました。
何故カクヨムを選んだかというと、カクヨム内ではラブコメが流行ってるという情報を耳にしたからです。
この作品は作者が悪ノリに悪ノリを重ねた結果、空から裸体の女性が降ってきます。
……あっ、もちろん主人公の頭上だけで起こることですよ。
モテ男とは、常に落下物の危険に晒されている人を指す言葉ですからね。(絶対違う)
まぁとにかく、上述の通り空から女性が降ってくるくらい、この作品には女性が登場します。
多くの異性が登場することは、ラブコメにありがちな要素の一つ。
それに加えて、この作品は途中から昔の記憶を持ったもう一人の主人公と対話できるようになります。
そしてヒロインである聖女を巡って、『記憶を失くした主人公の人格』vs『記憶を持っている主人公の人格』という奇妙な争いが繰り広げられることになります。
なのでちゃんとラブコメしている……はず。
まぁとにかく、諸々の準備は整いました。
さぁ人類よ、我が作品に悶絶しろ……! ついでにコオロギ食も広まれ! という想いを込めながら、私はこの作品をカクヨムに投稿。
しばらく時間を置いた後、ゾワゾワしている人間たちの様子を観察するためにPVを見てみると……なんと0。
後から知ったことですが、カクヨムでは無名作者の作品にはPVが付き難いそうです。
なのでPVを伸ばすために、作者同士の読み合いなるものが存在するとか。
しかし私はハンバーグにコオロギを練り込むことしか考えていない、しがないハンバーグ屋さん。
当然、コネなんてものはありません。
ならば評価を集める努力をすべきでしょう。
けれど評価を得たいという打算込みで、作品を読むことには抵抗がありました。
これではこの作品が日の目を浴びることは難しい。
……とはいえ、せっかく書いたのだから、ある程度読んでもらいたいという気持ちはあります。
なのでカクヨムをメモ帳代わりにして、ある程度話数が溜まったら、別の投稿サイトに掲載することを視野に入れながら様子見をすることにしました。
そして数日後。
なんとこの作品は、まさかのカクヨム内のラブコメで日刊入りを果たします。
どうやらカクヨムには、評価が入ると露出して人目につきやすくなるシステムがあるようです。
そしてそのおかげで、ブクマが一気に増え、日刊入りを果たしたというわけです。
全てはこの作品に評価を入れてくださった読者様のおかげというわけです。
とはいえ、日刊入りと言ってもギリギリのライン。
上位の作者から見れば、大したことのない伸びなのかもしれませんが、私には違いました。
うおおおお! ネットは、世界は、人類は、ゾワゾワを、ゾワゾワを求めているんだあああ!!! と思い込んでしまったのです。
そして私は目の前に人参をぶら下げられた馬のようにやる気を出して、ほとんど書き溜めをしていなかった本作の執筆をごりごりと進めていきます。
……が、しばらくして大きな問題に直面します。
それは、読んでくださっている方の反応があまり感じられなかったことです。
たしかにブクマは、それなりに入りました。
けれど私の読者様は私の作品に絶賛悶絶中なのか、ブクマは付くけど感想や評価があまり入らないという状況に陥ったのです。
感想欄がゾワゾワ中毒者で埋め尽くされることを想定していた私は、理想と現実のギャップによってモチベーションが低下。
それでもブクマが入る内は、まだまだやる気がありました。
しかし継続的に評価を得ることができず、最終的にこの作品はランキングから漏れてしまいます。
すると、露出の機会は一気に激減。
そして、新規読者がほとんど入ってこなくなってしまいます。
……ならば、場所を変えてみよう。
この頃にはそれなりの文字数になっていたこの作品を、私は小説家になろうに掲載してみることにしました。
ところが、今のところカクヨムよりも読まれている気配はありません。
どうやらテンプレを取り入れたからと言って、世に受けるという考え自体が浅はかだったようです。
まぁそんなに単純な世界ならば、経営不振で閉店するラーメン屋なんて存在しませんからね。
しかし落ち込んでいても仕方がありません。
どうやらこの作品は、人類には早過ぎたのでしょう。
そのため、現在この作品の掲載速度は、限りなく0に近い状態になっています。
気が向いた時に続きを書き、そして唐突に休載するというスタンスです。
再開日は未定で、何なら別の作品を書き始める始末。
このエッセイを読んでいるそこのあなたは、この作品がエタったと思われたことでしょう。
……フフフ。
残念ながらエタではありません。
私は待っているのですよ。
あなたたち人類が、私の作品にエネルギーを注いでくれる日を……ね。
そう。これはいわば『人類待ち』という行為!
どんな車でも、長旅になれば燃料補給が必ず必要になります。
私はこの作品を始めた時から、完結までの燃料を積んではおりませんでした。
なぜなら、私は読者からエネルギーが補給されることを想定していたからです!
なのでこうなることは必然というわけなのです!(開き直り)
私の主張に対して、「テメェが始めた物語なら、つべこべ言わず完結まで書け!」と思う方もいるでしょう。
けれど私のように人類待ちをしている作者には、それほど楽しみにしている読者がいるのかすらわからない場合がほとんど。
人間とは、そこまで強くはありません。
付き合っている恋人には、定期的に想いを伝えておかないと突然別れを告げられるのと同様、作品もブクマしているだけでは想いが伝わりません。
小っ恥ずかしくても、定期的に好き好きオーラを出さないと作者は筆を折ってしまう可能性は高い。
なので、もしこのエッセイをお読みの方の中に、終わってほしくない作品があるとしたら、可能な限り、評価や愛情ある言葉を綴ったファンレターを送ってあげましょう。
ちなみに感想は難しいことを書く必要はありません。
大抵の作者は、いわゆるチョロインのようなもの。
「面白い!」とか「最高!」と言われただけで喜びます。
ええ、実際に私がそうですからね。
……まぁせっかく感想を送るのなら、気の利いた褒め言葉を送りたい思う人もいるでしょう。
そう思った方は、『幸せを諦めていた聖女が王子様に『お前を溺愛する準備ができた』と言われて神殿からさらわれてしまいました』という作品を読めば、グッとくる言い回しが浮かぶようになるかもしれませんよ。(唐突な宣伝)
それに後からその作者が大成したら、「俺or私がコイツを育てた」とドヤ顔ができるので非常にオススメです。
……ああ、そうそう。
もう一つお伝えしたいことがあります。
感想や評価は、よくエナジードリンクのように作者に活力を与える効果のみがクローズアップされます。
けれど、それ以外にもう一つ隠された大きな効果があることを、ご存知ですか?
それは……作者を現実に戻ることを防ぐ効果です。
特に私のように少女マンガのような迷言を考えているような人間は、ふとした瞬間に我に返ることがあります。
――あれ? 自分は一体、何を書いているんだろう、と。
そしてメモ帳を見返すと、『よくやったと言いたい。お前をモノにした過去の俺の全ての行動に』とか、『何でもできる俺の一番の才能は、お前を世界一のプリンセスにすることさ。だからお前も磨いとけ。俺に幸せにされる才能を』などという文字列がズラリと並んでいました。
ええ。我に返った私が、これらの迷言を世に出さずに全て消し去ったのは言うまでもありません。
感想も評価も与えられずに、誰が読んでいるかもわからない迷言を淡々と書き続けられるほど私の精神はタフではないのです。
そして、各々形は違えど、そういう作者は創作界隈にたくさんいます。
勘の良い方ならもうお気づきかもしれませんね。
ここは小説投稿サイトであると同時に、作者を育成することができる育成シュミレーションゲームとしての側面を持っているということに。
読者からすると、作者を『小説家にしよう』と呼べる場所かもしれません。
……でも、素敵なことだと思いませんか?
このエッセイを読んでくださっている皆様には、ほんの僅かな時間を使うだけで人を喜ばせる力を持っているのです。
それも、指先一つで。
しかもそれは容易に人の心を――少なくともこの怠惰で無気力な私を、冒頭に出てきたような迷言生産機に変える力を秘めています。
正にこれは、リアルに存在する俺SUGEEE要素と言えるのではないでしょうか?
……おっと、色々書いていたらそれなりの文字数になってしまいました。
今回は、このくらいにしておきましょう。
ちなみにこれら全ては、あくまで私の戯言。
私の考えを押し付けるつもりもなければ、これを読んでいるあなたの考えを否定するつもりも一切ありません。
ただ、もし私の作品にちょっと興味を持たれたとしたら……このエッセイのあらすじをじっくり読んだ後に考えた方が良いですよ。